受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/全国版

確固たる価値観と
グローバルな視点を持って、
行動を起こせる人間を育てる

サレジオ学院中学校・高等学校 校長 鳥越 政晴 先生

6年間で身につけた価値観が
卒業後に生きる「25歳の男づくり」

聞き手1
サピックス
教育情報センター所長
神田 正樹

神田 初めに学院の沿革と、先生がかかわってこられた経緯をお聞かせください。

鳥越 本校は1960(昭和35)年、目黒区碑文谷にあるサレジオ教会の敷地に目黒サレジオ中学校として開校したのが始まりです。その後、目黒サレジオ中学校の卒業生のために、川崎市の鷺沼に高校ができ、その3年後の1975年に中学校が碑文谷から鷺沼に移転して中高一貫校になりました。現在の地に移転したのは1995(平成7)年のことです。

 わたしは本校の15回生で、卒業後に、神父を養成する学校で学び、神父になった後に本校に赴任しました。ですから、もう30年近くここにいることになります。校長に就任したのは2010年です。

神田 学園の歴史の半分を共に歩んでこられたわけですね。校名の由来であるサレジオ会はイタリアで誕生した修道会で、サレジオ学院の教育はその創始者であるドン・ボスコの教育理念に基づいているということですね。

鳥越 その柱が「信念」「理性」「愛情」という三つの精神です。イタリアの国民の多くはカトリック教徒ですから、「信念」というと、信仰そのものを表します。しかし、本校の生徒はすべてがキリスト教信者というわけではありませんから、価値観として、生きるうえでの信念というものに置き換えています。人間は信念を持つことによって生きる意味を見いだし、日常生活のなかに生きがいを感じられるようになります。そういう意味の「信念」です。

 一方、「理性」は「道理」ともいえるもので、学校教育では規則やけじめに当たります。ただ、校則には難しいところがあります。なぜこのルールがあるのか疑問を持ったとき、「ルールだから守らなければならない」と言われても生徒は納得しません。そんなときは、「嫌だったら、生徒会を動かすなどして、きちんと提案しなさい」と伝えています。やりたいことがあるなら企画書を作ってプレゼンして、そして教員たちを納得させられればオーケーを出します。

 そして、「愛情」は教育において最も大切な人間関係にかかわることです。本校ではドン・ボスコの教育哲学である「アシステンツァ」の精神を大切にしています。英語でいうと「アシスタンス」ですね。教員は常に生徒と「ともに居る」ことによって、その考えや行動を理解して、発達段階に応じて適切な指導をし、最終的に自立できるよう導きます。

山口 サレジオ学院の教育を「25歳の男づくり」ということばで表現されていますが、これはどのような意味ですか。

鳥越 若者の完成形を18歳ではなく、社会に出て、自分の立ち位置を発見しているであろう25歳に置き、そのとき、イエス・キリストの価値観である「目の前の弱く虐げられた人の必要に応え、みずからの手を差し伸べる」ことのできる人であってほしいということです。生徒には「目の前にいる人が困っていたら、その人にすっと手を差し伸べることができる人になりなさい」と伝えています。そのためには知識やスキルも必要ですが、そこには価値観の下支えがなくてはなりません。「なぜあなたはそうするのか、どういう気持ちでそうするのか」ということですね。それが身についていれば、たとえば将来、自分が置かれている場所がグローバルな環境であったなら、そこでアクションを起こせる人がグローバル人材です。本校では、ただ英語力やスキルがあるだけの人をグローバル人材の定義にはしていません。

神田 特に、今のようなコロナ禍にあって、先生がおっしゃったような価値観がいかに大切かを実感します。目の前に困っている人がいたら助けようと行動に移すことこそが、寄り添って生きる「アシステンツァ」につながりますね。

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21年5月号 さぴあインタビュ ー/全国版:
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