受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/全国版

愛されている実感のなかで
高い知性と豊かな感性を養い
人と世界をつなぎ未来へと羽ばたく

横浜雙葉中学高等学校 校長 木下 庸子 先生

相手の気持ちを「先に」思いはかり
「生かす」のが「先生」

先生写真
校長 木下 庸子 先生

西川 木下先生は学園とどのようにかかわってこられたのでしょうか。

木下 わたしは小学校から中学・高校と、横浜雙葉で学びました。高校生のときに、少し大げさですが「世界の平和のために働きたい」と思い立ち、そのために大学では国際関係について学びました。大学院在学中には留学を経験し、そのときも現地に行ったら人の助けになりたいと思っていましたが、実際には、彼らからその人間性や生き方について学ぶことのほうが多くありました。留学先の南米で、あるときインディオの人が住む村で、お年寄りに出会いました。その方は座って豆を食べていて、わたしが「こんにちは」とあいさつすると、その豆をわたしにくださいました。そして、また遠くを見て穏やかな表情で食べ続けているのです。そのとき、「助ける、助けてあげるではなく、まず友だちになること、知り合って尊敬し合うことが必要なのだ」と思いました。

 日本でも同じようなことがありました。大学卒業後、わたしは教会関係の新聞記者になり、10年ほど勤めました。記者として日本中を回り、最後の取材は阪神・淡路大震災でした。地震から1週間後、皆さんに渡そうと思って荷物にいろいろなものを詰めて行ったのですが、避難所に着くと、逆に皆さんがわたしに「カップラーメンがあるから持っていって」などと言ってくれるのです。そのとき、「共に生きていく」ということを強く感じました。

キャプションあり
上/ホームルーム教室のほか、習熟度別授業や高校の選択科目など少人数の授業で使用する小教室もあります
下/来日150周年を記念して、創設者のマザー・マチルドの生涯をたどるパネルを校内で展示しています

 わたしは小さいころから教師になりたいという思いはあったのですが、人を教えることなどできないと、あきらめていました。でも、そういう経験を経て、「教師が一方的に教えるのではなく、生徒と互いに学び合うことならできるかもしれない。相手の気持ちを受け止めることならできるかもしれない」と思い直しました。そう考えたとき、たまたま本校で社会科教員が必要であり、こちらで教えることになりました。

西川 新聞記者としていろいろな経験を積まれてから、社会科の教師になられたのですね。

木下 本校に勤務して27年目になります。初めは地理を担当していましたが、のちに宗教の教員免許を取り、今は宗教の授業のみです。

 実は、最初は「先生」と呼ばれることに違和感がありました。違和感はあるけれど、生徒よりも「先に生まれた」と考えればよいのかなと思っていました。しかし、生徒と接しているうちに、「先生」と呼ばれる者は、「先に相手の気持ちを思いはかって生かす」ということだと考えるようになって、やっと納得できました。そう呼ばれるからには覚悟が必要です。生徒が来るのをただ待っているのではなく、生徒の表情などを見て、先にこちらからアプローチしていく。それが「先生」と呼ばれる者の役割である気がします。

神田 教育方針には、「横浜雙葉の教育は、『すべての人間がかけがえのない独自の価値を持った大切な存在である』と考えるところから始まる」と書かれています。先生方は日々、それを実践されているのですね。

22年8月号 さぴあインタビュー/全国版:
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