受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

17年11月号 子育てインタビュー:
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健康生理学者が教える発達障害への対応法

松原 豊さん

(まつばら ゆたか)こども教育宝仙大学こども教育学部教授。東京教育大学体育学部卒業。筑波大学大学院体育研究科健康生理学専攻修了。筑波大学附属桐が丘特別支援学校教諭、筑波大学特別支援教育研究センターを経て、2009年より現職。日本ダンス・セラピー協会理事、NPO法人「生活を豊かにする障害児・者支援福祉協会」理事、板橋区赤塚健康福祉センター心理判定員なども務める。編著書に『発達が気になる子の運動遊び88』(澤江幸則、阿部崇、松村汝京共著、学研プラス)など。

「努力不足」のせいにしないで
学び方や学習環境に配慮と工夫を

誰にでも発達の凸凹はある
発達障害とは、その度合いが大きいこと

広野 子どもを持つ保護者の間で、発達障害への関心が高まっているようです。そもそも発達障害とはどのようなものなのでしょうか。たとえば、知的障害とはどう違うのですか。

松原 知的障害とは、知的機能全般に遅れがあり、日常生活を行ううえで困難があることを指します。知能指数(IQ)でいえば70~75以下だと知的障害とされ、療育手帳が交付されます。教育も特別支援学校・特別支援学級などで受けることが現状では多いと思います。

 一方、発達障害の場合、直接的にはIQと関係がなく、なかには一般の人よりもIQが高いケースもあります。ただ、発達のバランスが取れていません。たとえば、見て理解する能力はものすごく優れているけれども、聞いて理解する能力が極端に弱くて、授業中の一斉指導で先生からの聴覚情報をうまく処理できず、勉強がよくわからないという子がいます。あるいは、こだわりが非常に強く、一斉に活動するときでも、どうしてもある行動にこだわってしまい、集団活動になじまないという子もいます。

広野 能力のバランスが均一でないのは、あらゆる子どもに当てはまることではないでしょうか。

松原 おっしゃるとおりで、発達の凸凹は誰もが持っているものです。その度合いが大きく、それによって生活や学習に困難を感じている状態が発達障害なのです。

 発達障害の代表例を挙げてみましょう。まず、自閉症スペクトラム障害(ASD)。これは、最近まで広汎性発達障害やアスペルガー症候群などといわれていたもので、現在は自閉症のグループにまとめられています。コミュニケーション能力や社会性に問題があったり、こだわりの強さ、特定の感覚への過敏などが見られたりします。次は、注意欠如・多動性障害(AD/HD)で、衝動性が強く、刺激に反応しやすい、感情のコントロールが難しい、不注意があるといった症状が見られます。さらに、限局性学習障害(SLD)があります。読み書きや計算など特定分野の習得が困難で、それを乗り越えるには努力量ではなく、特別な配慮や工夫が必要になります。そのほか、わたしが研究しているもので、発達性協調運動障害(DCD)があります。これは、人並み外れて不器用、運動が苦手というものです。

 こうした発達障害の代表例のうち、たとえば「自閉症スペクトラム障害」一つをとっても、症状の現れ方は一人ひとりまったく異なります。こだわりの強さもそれぞれですし、社会性に関して抱える困難の種類や度合いも一人ひとり異なっています。また、自閉症スペクトラム障害と限局性学習障害を併せ持つなど、症状が重複するケースも多く見られます。

子どもの特性を冷静に把握して
適切な対応を取ることが大切

サピックス小学部 教育情報センター部長 
広野 雅明

広野 発達障害の症状は、何歳ごろから現れてくるものなのですか。

松原 専門家が診断すれば、1歳半くらいから症状が見えてくることもあります。現在は、できるだけ早く発達障害を発見し、対応したほうがその後の経緯が良いという考えで、多くの自治体では1歳半健診でおおまかなチェックをします。そこで問題があった子をその後ずっとフォローしていき、そして3歳になったら、あらためて精密検査をする、という流れが一般的になっています。

 今は、母子手帳にも発達障害の可能性をチェックする項目があります。たとえば、1歳ですと「お母さんが指さしたほうを見るか」という項目が入っていて、そこで「あれ、おかしいな」と気づく場合もあります。

 ただ、なかなか気づきにくいケースもあって、幼稚園までは非常におとなしくて問題を感じていなかったけれど、小学校に入ったとたんに不登校が始まって、調べてみたら発達障害だったという子もいます。

広野 発達障害であるとわかった場合、保護者をはじめ、周囲の大人はどう対応したらよいのでしょうか。

松原 発達障害を「なくそう」「治そう」とは考えないことです。発達障害の治療法は確立されていません。先ほども申し上げたように、発達障害は特性の凸凹度合いの問題なので、「そもそも治療が必要なのだろうか」とさえ、わたしは考えています。大切なのは、その子の特性を把握して、適切に対応することです。良いところ、優れているところは伸ばす。難しい部分、問題がある点については、周りの人が理解して上手に対応する。それだけで、本人の抱える困難はずいぶん軽減するものです。そのことを、まず理解していただきたいと思います。

 たとえば、2歳を過ぎてもことばがなかなか出てこないケースがあります。ことばでコミュニケーションができないと、自分の気持ちや要求がうまく伝えられず、そのもどかしさから不適切な行動が出てしまいます。そうした場合は、自分の意思をことばではない別の方法、たとえば、ジェスチャーや絵カードなどを使って伝えられるように工夫してやると、その子はぐっと落ち着いて生活できるようになります。

 AD/HDなどで情緒の起伏が激しい子どもには、専門家のアドバイスを受けながら、怒りや悔しさのコントロール方法を小さいうちから教えていくとよいでしょう。

広野 幼稚園や保育園に入ると、そこでの対応も必要になりますね。

松原 集団生活が始まると、やはり、「じっとしていられない」「友だちとのトラブルが多い」といった問題が徐々に明らかになってきます。これに対しては、入園前に「〇〇が苦手ですが、◯◯は得意です」といったその子の特性を、受け入れる側に詳しく説明しておいたほうが、後々うまくいきます。

 もう一つ、これは難しいことかもしれませんが、保護者の方はあまり心配し過ぎたり、将来的な不安を抱え過ぎたりしないことです。親が不安になると、子どもがそれを敏感に察知して、子ども本人の情緒が不安定になり、不適切な行動を取りがちになるからです。もちろん、保護者の方に安心してもらうには、行政サイドが相談体制を整備し、「障害を持った子どもの進学はどうなるのか」「社会的な自立への道のりはどうなっているのか」という不安や疑問に対して、きちんとした道筋や選択肢を示していくことが大切になってきます。

広野 就学前に悩んだ場合の相談先はどこになりますか。

松原 発達心理や特別支援教育に詳しい専門家などがベストです。たとえば、小学校に上がるときに相談すると、「知的障害がなければ通常学級で大丈夫ですよ。ただし、学校の通級指導教室に通って、ソーシャルスキルやコミュニケーションの練習をしたほうがいいですね」というようなアドバイスがもらえるかと思います。就学前であれば、お住まいの市区町村の保健センターなどに相談するのが現実的でしょう。臨床心理士などの専門家が対応してくれるはずです。

17年11月号 子育てインタビュー:
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