受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

自然と向き合う動物写真家からのメッセージ

定説や固定観念にとらわれず、
自分の〝眼〟で確かめよう

福田 幸広さんYukihiro Fukuda

(ふくだ ゆきひろ)1965年生まれ。動物写真家。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒。「山もいいけど、海もいい!」をモットーに、豊かな自然のなか、気に入った動物がいる場所でじっくりと時間をかけて撮影している。2008年、『ナショナルジオグラフィック』ワールドワイド版7月号に小豆島のサルの写真を提供するなど、多彩な活動を展開。フォトライブラリー、TOPOUTIMAGES(http://topoutimages.com/)を主宰し、雑誌やカレンダーの企画なども行っている。著書に『子ザルのいちねん』(小学館)など多数。

 自然のなかで生きる動物たちの姿を数多くの写真や映像に収めてきた写真家の福田幸広さん。その作品からは、自然への畏敬の念と、動物たちへの温かい愛情が感じられます。出版してきた写真集は子ども向けのものも含めて多数あり、さまざまな人々の間で好評を博しています。みずからを「しあわせ動物写真家」と称し、世界を舞台に活躍する福田さんに、レンズを通して見た動物たちの生態や撮影時のエピソードなどを伺うとともに、自然を愛し、命を慈しむ心を育てることの大切さを語っていただきました。

北海道の雄大な自然に魅せられて、
動物カメラマンの道を志す

―動物カメラマンに関心を持つようになった経緯をお聞かせください。

福田 中学3年のときに、動物カメラマンが主人公の『池中玄太80キロ』(主演・西田敏行)というテレビドラマを見たのがきっかけです。北海道でタンチョウの写真を撮るシーンを見て、「あの場所に行って、自分もツルを撮りたい!」と衝撃を受けたのです。そこでまず、高校に進学してから新聞配達のアルバイトを始めました。そのお金でカメラを買って、1年生の終わりの春休みに、列車を乗り継いでタンチョウが生息する釧路に向かったのです。ただ、今みたいにインターネットで簡単に情報を得られる時代ではありません。タンチョウが釧路周辺にいるとわかっていても、具体的にいつ、どこに行けばいいのかまではわかりません。実は、最初に行ったときは撮影に適したシーズンは終わっていました。それでも幸いなことに、遠くに1組だけ“つがい”が見えました。その2羽が鳴き合いをしながら飛んでいく。あっという間の出来事でしたが、なんとかフィルムに収めることができました。そのときの感動が、今のわたしの原点になっています。

―そこから、本格的にカメラマンの道を志すようになったのですか。

福田 大学を卒業するときに、初めて知床半島に行きました。ものすごい量の流氷が押し寄せてきていて、そこに船を出してオオワシやオジロワシを見るという、現在の〝ウォッチング船〟のはしりのようなものに乗りました。当時、知床の映像は世にあまり出回っていなくて、氷の中に船を進めるというのは異次元の世界というか、未体験ゾーンでした。そのときに撮った写真を初めて写真雑誌のコンテストに出したところ、佳作に選ばれ、小さく掲載されました。それで「この道でいくしかない」と思い込んだわけです(笑)。

 父が病気になったこともあり、いったんは一般企業に就職しましたが、やはり冬が来ると北海道に行きたくなってしまいます。結局、覚悟を決めて会社を辞め、動物写真家になることにしました。

―ついに、撮影に専念できるようになったのですね。

福田 最初はお金がまったくなかったので、そうはいきません。アルバイトをしながらの活動になります。お金を稼ぎやすい東京でアルバイトをして、必要な分だけたまったら北海道に行く。車中で寝泊まりしながら、お金がなくなるまで写真を撮る。お金がなくなったら東京でまた働く。そういうことを繰り返していました。当時、わたしの同世代で動物や自然を撮影していた人たちは、ほとんどがそんな感じでしたね。

 それでも続けてこられたのは、やはり自然のなかに身を置くことが好きだったからだと思います。疲れ果てて車中で寝て、朝起きてドアを開けると、わっと鳥の鳴き声が聞こえてくる。その瞬間がたまらなくて、そこから離れられないのです。当時の仲間たちも経済的な苦労など、それぞれ事情があったと思いますが、大半がやめずに今に至っています。

過酷な条件下で何時間も、
狙う動物の決定的瞬間を待ち続ける


写真提供:TOPOUTIMAGES

―動物カメラマンにはいろいろなタイプがあると思いますが、福田さんは一つのテーマや動物を追い掛けていらっしゃるのですか。

福田 写真を撮り始めたころは、あれも撮りたい、これも撮りたいと、北海道のさまざまな動物を追い掛けていました。ただ、それだけでは、「自分がどういうカメラマンなのか、わかってもらえないのではないか」と考えるようになりました。それからは次第に、一つの生き物と長く付き合う習慣がついていきました。オオサンショウウオやマナティーなど、いろいろな動物を撮ってきましたが、それぞれ一冊の写真集になるまで、何年も付き合っています。

―テーマとなる動物の選び方にこだわりはありますか。

福田 動物そのものというより、撮影するときの外的要因というか、自由度を大切にしています。たとえば、アフリカの国立公園ですと、ガイドやドライバーを雇って、車の中からしか撮影できないといった制約があります。自分の好きなときに、好きな場所で撮れないわけです。ガイドやドライバーがつかず、自分自身でいつでも自由にアクセスできる環境で撮影することが、わたしにとってはいちばん重要なファクターになります。

―動物の生き生きとした瞬間をとらえるには、忍耐力がいるのでしょうね。

福田 確かに、狙いどおりの写真を撮るには時間がかかります。ただ、わたしはその時間を「忍耐」や「我慢」と感じたことはありません。鳥取県でオオサンショウウオを撮影したときなどは、ドライスーツを着て厳寒期の川の中に10時間くらい漬かり、シャッターチャンスを待ったこともありました。でも、「口を大きく開けた瞬間を撮りたいな、あくびしないかな」などと期待しながらカメラを構えていると、時間はたちまち過ぎてしまいます。

 目標とする動物の出現を待ったり、その動物のある瞬間を待ったりすることは、実はそれほど苦痛ではありません。「ここに出る」とわかったら、「10日待てば出てくるかな、それなら10日待てばいいじゃないか」と考えればよいのですから。それよりも、狙う動物がどこに生息しているかわからず、まったく白紙の状態から探すほうがはるかに大変ですね。

18年5月号 子育てインタビュー:
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