受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

社会心理学者が教えるネットリテラシーの磨き方

親子で一緒に学ぼう
ネットやスマホとの適切な関係

坂元 章さんAkira Sakamoto

(さかもと あきら)お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系 教授。1963年、東京都生まれ。86年、東京大学文学部卒業。東京大学文学部社会心理学研究室助手、お茶の水女子大学文教育学部心理学科専任講師、同助教授などを経て現職。博士(社会学)。専門は社会心理学、情報教育。「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」(https://www.child-safenet.jp)座長、特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)理事も務める。著書に『テレビゲームと子どもの心-子どもたちは凶暴化していくのか?』(メタモル出版)など。

 情報化社会の進展により、スマートフォン(スマホ)やコンピューターゲームに親しむ子どもたちが増えています。それとともに「ゲームに熱中して勉強しない」「スマホを持たせるとトラブルに巻き込まれないか」などと悩む保護者も多くなりました。そこで今回は、長年「メディアと人のかかわり」について研究されてきた、お茶の水女子大学教授の坂元章先生にインタビュー。子どもにスマホやゲームを利用させるときに保護者が注意すべき点や、これからの時代を生きるために身につけておきたいネットリテラシーなどについて、お話を伺いました。

子どもたちの日常に
深く入り込むスマホやタブレット

―先生は「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」の座長を務めていらっしゃいます。同会の活動内容などをご紹介ください。

坂元 この研究会は、子どものインターネット(ネット)問題に関する保護者支援を行うことを目的に、2008年に設立されました。研究会組織は、子どもたちのメディア利用にかかわる専門領域をお持ちの研究者や教育関係者で構成されています。それぞれの専門的な立場から、子どもたちの置かれている現状や課題などの情報を共有し、共同・連携して、子どもたちのネット利用について保護者の取り組みに役立つような研究や提言を行っています。また、保護者向けの教材を作成したり、講習会の開催なども実施したりしています。

―同会では2016年10月に「未就学児の生活習慣とインターネット利用に関する保護者意識調査」を実施されています。調査結果からは、どのようなことがわかりましたか。

坂元 この調査では、「子どもに(インターネットを)利用させること」について、9割以上の方が何らかの不安を抱いていました。そして8割以上の方が「子どもにどのようなコンテンツを見せていいのかわからないから、学びたい」と感じていることも把握できました。

 その一方で予想以上だったのは、スマホやタブレットが小さな子どもたちの日常に深く入り込んでいることです。1歳児の4割、3歳児の6割がスマホなどの利用を経験しています。また利用頻度についても、約5割が「毎日必ず」、または「ほぼ毎日」という結果が出たのです。この背景には、スマホに子守りをさせる「スマホ育児」が増えていることもあるのでしょうが、調査結果が出た当時、「ここまでとは」と驚きました。

 子どものスマホ利用に関連して現在、問題視されているのは、子どもが自分専用のスマホを持ち始める時期が低年齢化していることです。内閣府の調査では、小学生の約3割が自分のスマホ等を持っていることが判明しています。

―子どもにスマホを持たせることについては、どういった問題点が考えられますか。

坂元 保護者の目の前でネットにつながったり、デジタルコンテンツを利用したりする分には、さほど問題はありません。ただ、自分専用のスマホやタブレットを持たせた場合、パソコンと違って親の監視が届きにくいという問題点があります。親の知らないうちに使い過ぎていたり、どんなサイトにアクセスしていたりするかわかりません。ですから、スマホを与える際は、子どもが親の言うことを聞く年ごろのうちに、メディアの適切な利用習慣を身につけさせ、フィルタリングなどもきちんと設定することが大切になります。

ネットやゲームなどのメディアには
「良い影響」も「悪い影響」もある

―テレビゲームやネットの利用が子どもに与える影響について、先生ご自身はどのようにお考えですか。

坂元 世間には「悪い影響がある」という説がさまざまにありますが、それらは必ずしも研究によって実証されているとは言えません。研究でどれだけ実証されたものなのか、それを見極めることが重要になります。

 また、「悪用」と「悪影響」の問題は分けて考える必要があります。「悪用」の問題というのは、ネットを道具にして悪いことをするというものです。たとえば、犯罪目的で子どもに連絡を取りたい大人が、ネットを使うことで容易にアクセスできるようになったというものです。包丁と同じで、使う人間が悪いというパターンです。

 一方、「影響」は、ネットやゲームなどのメディアに触れることで、人の性格や行動、能力がどう変わるかが問題になります。メディアに触れることには、「悪影響」もありますし、「良い影響」もあります。

―研究で実証されている影響としてはどのようなものがありますか。

坂元 良い影響から紹介していきましょう。まず、ICT(情報処理や通信に関連する技術やサービス)に触れることによって、ICTそのものの利用スキルが伸びます。さらに、ネット検索して、その情報を利用し、自分からも発信するといった、情報活用の実践力も伸びるようです。ゲームで遊ぶことについては、動体視力や空間把握能力といった視覚的知能が伸びることがわかっています。また、ゲームでもネットでも、コンテンツによっては学習効果も期待できます。

 悪影響としては、ゲームやネットに長時間没頭することで、肥満や睡眠に問題が出るとされています。一方、よく懸念される社交性への影響については、「悪影響がある」という説はあまり支持されていません。

―暴力的な描写のあるゲームが、プレーヤーを暴力的にするという懸念がありますが、いかがでしょうか。

坂元 暴力性への影響は、難しい研究テーマの一つです。ただ、これまでの研究の積み重ねから、研究者の間では、「悪影響がある」という考えが主流になっているようにみえます。

 暴力的なゲームの大きな問題点は、暴力に関して不適切な「価値観の学習」をしてしまうのではないかということです。現実社会での問題解決では、話し合いによる交渉から始まりますが、ゲームでは往々にして最初から暴力で問題解決を行います。そして、倒した相手にも家族がいる、というようなところは見せません。こうしたことから、暴力的なゲームを行うことによって、プレーヤーの攻撃性が高まるのではないかとも考えられています。ただ、実際に暴力犯罪を引き起こすほどの影響力があるかという点については、懐疑的な考えを持つ研究者も少なくありません。

18年9月号 子育てインタビュー:
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