受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

算数教育の第一人者からのメッセージ

算数を楽しくする教室には
「なぜ?」があふれている

細水 保宏さんYasuhiro Hosomizu

(ほそみず やすひろ)明星小学校校長、明星大学客員教授、明星学苑教育支援室長。神奈川県生まれ。横浜国立大学大学院数学教育研究学科修了。横浜市立小学校教諭を経て、筑波大学附属小学校に勤務。平成22年度より5年間副校長を経て、現在に至る。早稲田大学非常勤講師。全国算数授業研究会前会長、ガウスの会会長、教育出版教科書『算数』著者。また、小学校学習指導要領解説算数科編(平成20年度版)作成協力委員。『算数力を楽しく鍛えるAA授業』(東洋館)、『算数のプロが教える授業づくりのコツ』(東洋館)、『細水保宏の算数の強化書』(小学館)、『確かな学力をつける算数授業の創造』(明治図書)など著書多数。

 近年、子どもたちの「算数力」の低下が懸念されています。また、「算数が苦手で困っている」という子どもや保護者の方も少なくありません。そこで今回は、算数教育の第一人者である、明星小学校の校長・細水保宏先生にインタビュー。算数のおもしろさや子どもを算数好きにするポイント、さらには、これからの社会で求められる力の育み方などについて、先生ご自身の長年にわたる指導経験を踏まえてお話をしていただきました。

算数好きの子どもを増やすには
教える側も算数好きにする必要がある

広野 細水先生は、小学校の教師として、さまざまな現場に携わってこられましたね。

細水 この明星学苑に赴任する前は、公立小で15年間、筑波大学附属小で23年間、教員生活を送ってきました。筑波大附小での最後の5年間は副校長を務めていましたが、算数の教科担任としてずっと現場に立てたのは幸せなことでした。3年前からは、明星学苑で教職志望の大学生を相手に教鞭を執っています。また、明星幼稚園から明星高等学校までの算数・数学の連携カリキュラムやシステムの策定にかかわってきたほか、今年度からは明星小学校の校長を拝命して、教育環境の改革に携わっているところです。

広野 先生は現役教師時代から執筆活動や講演会などを通して、「子どもを算数好きにする授業の在り方」を提唱されています。このような啓蒙活動に取り組まれるようになったきっかけは何ですか。

細水 なぜ算数にこだわるのかと言いますと、算数・数学がこの世の中のあらゆる場面で使われているのに、算数離れしてしまっている人が実に多いからです。おそらく、中学や高校での受験数学のせいで嫌いになってしまうのでしょうね。それは仕方のないことなのかもしれませんが、本当は、算数はこんなに役に立って、こんなにすてきなものなのに…と、残念でなりません。

 そうしたことから、わたしのライフワークは算数好きの子どもを増やすことになりました。そして、そのためには、学校の先生方も算数好きにする必要があります。子どもの成長を見守る教員という職業のやりがいを伝えながら、自分の専門でもある算数の楽しさを伝えていけたらと考えています。

広野 わたし自身もサピックスで算数を教えていますが、先生がかつていらっしゃった筑波大附小には、明るく、算数好きな子どもが多いという印象を受けています。難しい問題に出合うと、わくわくしながら楽しんでいますよ。

細水 筑波大附小の入試では、幼稚園の指導要領を逸脱するような問題は出さないこともあり、入学してくるのはごく普通のお子さんがほとんどです。それが、なぜおっしゃるような児童に成長していくかといいますと、現場の教員が「自立できる子」「粘り強く取り組む子」といった教育目標を持って、子どもと向き合っているからでしょう。

 わたしは、公立、国立、私立、すべての小学校を見てきましたが、それぞれに良さがあります。保護者の方々には、それぞれの良さをしっかり見極めて、お子さんに合った環境を選んでいただきたいと思います。

広野 こちらの明星小学校も、緑豊かな広大な敷地で、伸び伸びと学べる環境が魅力ですね。学校選びに当たっては、偏差値のような数値的なものだけでなく、子どもたちの様子、建物のたたずまい、先生の指導方針といった「空気」のようなものもきちんと見ていただきたいと考えています。

細水 特に今後は、各学校の教育の在り方に注目していただきたいですね。社会が大きく変化するなか、新しい学習指導要領では「育成すべき資質・能力」の三つの柱として、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学びに向かう力等」を重視していくことになります。

 従来は、頭の引き出しの中に知識を詰め込むことを重視していました。知識を蓄えることそのものは重要ですが、これからは、未知の事態に出合ったときに、どの引き出しを開けたらよいのかを考える力が大切になります。また、未知の物事にチームで取り組むために、考えたことを他者に伝える力、そして思いやりやリーダーシップなども必要になります。こうした人間性をどうやって育てていくのか、各学校の教育力が問われるようになります。

「できた!」という達成感と
筋道を立てて考える楽しさ、喜びを


サピックス小学部 教育情報センター部長
広野 雅明

広野 わたしたちは、学びの場には楽しさが必要だと考えています。「こんな考え方があるのか」とわくわくする、そんな目の輝きを大切にすれば、子どもはもっと伸びるはずです。算数を楽しくするには、学びの場でどのような工夫が必要だとお考えですか。

細水 学びの楽しさには、段階があります。最初のステップは、「できなかったものができるようになる」喜びです。その次が、その学問ならではの〝美しさ〟に触れることです。そして、主体的に、深く、本質に迫ることです。たとえば音楽であれば、リコーダーを吹けなかった子が、音符が読めて、楽譜どおりに演奏できるようになるのが第一段階です。では、吹けるようになれば、それで終わりかというとそうではありません。その次に、友だちと合奏して音が融け合う快感や、音色の美しさを追求する楽しさがやってくることでしょう。算数・数学についても同様です。公式を覚えて計算ができるようになるという達成感がまずあって、その次に、数学の世界の美しさや筋道を立てて考える喜びが待っています。

 子どもがその本質に迫れるようにするために、今の授業を大きく変える必要はありません。ただ、教える先生が「少し突っ込む」ことが大切です。図形の公式を単に丸暗記させるのではなく、「どうしてこんな公式になるの?」「本当にそうなの?」と問い掛けてみるのです。三角形の面積を出す公式が出たら、「最後に2で割るのはどうして?」と問い掛ける。「三角形の内角の和が180度」と教科書に出てきたら、実際に三角形の角を切り抜いて、並べて確かめてみるというのもいいですね。

広野 授業では、ともすれば先生がすべてを効率良く教えようとしがちですが、子どもに考えさせることが大切なのですね。サピックスの教室でも、生徒に発言を促すと、一生懸命考えて、いろいろな発言をしてくれます。ときにはとんでもないことを言う子どももいますが、自分で考え、発言したことをまずはほめる。そうすると、子どもはさらに喜んで考えるようになります。

18年11月号 子育てインタビュー:
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