受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

コピーライターが教える〝ことばを味方にする〞方法

自分と向き合い、考え抜くことで
「ことばにできる力」は伸びる!

梅田 悟司さんSatoshi Umeda

(うめだ さとし)インクルージョン・ジャパン株式会社 取締役。上智大学大学院理工学研究科修了。在学中にSTAR STARTS RECORDSを起業後、電通入社。数多くのコピーライティングを手がけ、CM総合研究所が選ぶコピーライターランキングトップ10に、2014~2017年と4年連続で選出される。2018年より現職。著書にシリーズ累計30万部超の『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)などがある。

 教育の場ではもちろんのこと、社会に出てからも「ことば」で評価される機会は数多くあります。では、ことばで自分の気持ちや考えをきちんと伝えられるようにするには、どのような力を養えばよいのでしょうか。今回は、コピーライターとして知られ、『「言葉にできる」は武器になる。』などの著作がある梅田悟司さんに、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がインタビュー。ことばと思考力の関係、「ことばにできる力」の伸ばし方などについて語っていただきました。

ビジネスの世界では
表現にも「再現性」が求められる

髙宮 梅田さんは、2018年半ばまで大手広告代理店、電通のコピーライターとして活躍されてきました。「世界は誰かの仕事でできている。」という飲料メーカーの名コピーも、実は梅田さんが手掛けられたそうですね。そうした仕事を選択されたいきさつをお聞かせください。

梅田 わたしは大学院で「生体材料の表面処理技術」の研究をしていました。理系の人間だったわけです。そこで「モノづくりの精神がわかる人間だからこそ、伝えられることがある」と考えるようになりました。モノには、必ずそれを作り出した開発者がいます。わたしは研究・開発者の思考がわかる人間として、開発者たちの話に耳を傾け、それを世の中に届ける、いわば「モノに価値を与える」ことを仕事にしたいと考えるようになったのです。そこで、マーケティングを手掛けることができる広告代理店に就職し、コピーライターになりました。

髙宮 コピーライターは、広告代理店のクリエイティブ部門に所属するケースが多いと聞いています。梅田さんが入った電通では、クリエイティブの担当者はどうやって選ばれるのでしょうか。

梅田 クリエイティブ担当については、入社後に試験などで適性を見て選びます。わたしも試験を受けて、声が掛かりました。おそらく理系ということで、感性やひらめきよりも、ロジカルに考え、それを積み上げていくやり方が得意だった点が評価されたのだと思います。当時、会社としては、ひらめきに頼る制作から脱却したいという問題意識があったようです。ひらめきに頼り過ぎると、どうしても成果物の出来のぶれが大きくなってしまいますから。そうすると、クライアントという相手がいるビジネスではまずいわけです。

髙宮 わたしは「アート」と「サイエンス」の違いは、「唯一無二の作品」なのか、それとも「再現性がある」のか、という点にあると考えています。表現の世界でも、再現性が問われることがあるのですね。

梅田 まさにそのとおりで、コピーライティングの世界では再現性が大事になります。年間15社くらいのクライアントを担当しているなかで、制作したものの出来にぶれがあると、受注した広告代理店の責任にもなるし、何よりも自分の心がつらくなります。それは、自分のなかでの再現性を意識していないことが原因です。ところが、制作の過程が自分のなかで体系化されたり、ルール化されていたりしてルーティンに落とし込めるようになると、仕事に再現性が生まれてきます。

 わたしは、それを比較的早い段階から心がけていました。と同時に、それを仕事だけではなく、一般の人が物事を生み出すときにも応用できるのではと考えるようになりました。そして、クライアントを対象としたコピーライティングという仕事と、一般の人に向けて自分の方法論を広める著述という仕事、その両方を手掛けるようになったのです。

自己の内面を豊かにすることが
「伝える力」のアップにつながる

髙宮 敏郎さんToshiro Takamiya

(たかみや としろう)SAPIX YOZEMI GROUP共同代表(代々木ゼミナール副理事長)。1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。2000年学校法人髙宮学園入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学して大学経営学を学び、2005年に教育学博士号を取得。2009年より現職。

髙宮 何かにつけて「やばい」とか「かわいい」を連発するなど、若者の語彙が貧困になってきているといわれています。わが子の表現力を鍛えるには、どうしたらよいとお考えですか。

梅田 多くの人は、豊かな語彙を使いこなして躍動感のある表現をしたい、と考えがちです。外に向かうことばに重点を置き、悩んでいるわけです。でも、問題にするべきなのは、書こうとしている当人の内面です。ことばは、あくまでもツールにすぎません。表現すべき自己の内面を、本人がきちんと感じ取れているかどうかが問題なのです。発することばが、「やばい」「かわいい」と単純になっているのは、ことばの問題というよりは、本人の受け止め方の問題です。体験を積み重ね、アンテナを立てて、自分の内部に湧き上がったものを感じ取ろうという習慣を身につけていけば、「やばい」をほかのことばで表現できるようになるはずです。

 たとえば、空と海を眺めながら、それぞれの「あお」の違いを感じて、ことばに紐付けていくという試みを繰り返してみてください。ここで大切なのは、色見本を見て、色の名前を覚えるというようなことではありません。「この色は、いつも見ている空の青とは違う」というような、受け手の感じる心というか、対象の違いをキャッチする解像度をいかに上げるかということが重要なのです。表現力を鍛えたいのであれば、そこから始めるべきです。

髙宮 内面がことばを豊かにするのか、ことばを知ることで内面も豊かになるのか…。あるいは、双方向に作用していると考えるとよいのでしょうか。

梅田 双方向だと思いますが、まずは内面を豊かにすることが先ではないでしょうか。ことばというのは、昔の人がそう定義したものです。ことばを学ぶことは、昔の人が感情や現象に名前をつけたことに感動し、共感することに通じます。

髙宮 サピックスでは作文コンクールを実施するなどして、読書を推奨しています。そこには、単に語彙や表現法を増やしてほしいというよりも、本を読んで追体験してほしい、内面を充実させてほしいという思いがあります。

梅田 読書には、追体験する、文体を知る、受け手の感情の変化を学ぶなど、多様な役割があります。自分が文章に対して「何を感じるか」ということを知る一つの体験として、「読む」行為を大切にしてあげたいですね。自分が「何を感じるか」を知るためには、読書のほかに、音楽や映画鑑賞をしてもいいと思います。そして同じ作品でも、時期や経験によって感じ方が異なることも実感してほしいと思います。幼いころに何も感じなかった作品を、さまざまな体験を経てもう一度見直したら、思わず泣いてしまったということはよくあります。それこそが内面的な成長の証しです。日ごろから、作品のどこに感情移入したのか、イメージや映像として思い浮かべるのではなく、言語として処理してみるのです。それが心のアンテナの解像度を上げることにつながります。

19年2月号 子育てインタビュー:
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