受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

「全米最優秀女子高生」を育てた母からのメッセージ

子どもは、考え、行動し、
失敗することで伸びていく

ボーク 重子さんShigeko Bork

(ぼーく しげこ)ICF認定ライフコーチ、アートコンサルタント。福島県出身、米国・ワシントンDC在住。英国でサザビーズ・インスティテュート・オブ・アートにて現代美術史の修士号を取得後、ボーク氏と出会い結婚。1998年に渡米、出産。娘スカイさんは2017年「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。現在はライフコーチとして全米や日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開中。主な著書に、『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『世界基準の子どもの教養』(ポプラ社)などがある。

 国際化の進行などによって社会の仕組みが大きく変わろうとしている今、次代を担う子どもたちに求められるのは、スキルや知識だけでなく、豊かな人間力を育むことではないでしょうか。今回は、「全米最優秀女子高生」を育てた母、ボーク重子さんに登場していただき、アメリカの学校教育やボークさんご自身の子育て体験に触れながら、社会で求められる人間力とは何か、それを育むために家庭ではどんなことに留意すべきかといった点について語っていただきました。聞き手は、海外の高校・大学進学を視野に入れた、All-English少人数制対話型授業の教育を展開しているYGC(Y-SAPIX Global Campus)の松本信乃ゼネラル・マネージャーです。

問題解決力、柔軟性、心の回復力など
「非認知能力」を養う教育に共感

松本 ボークさんのお嬢さんは、全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競うDistinguished Young Woman of America 2017「全米最優秀女子高生」で優勝するという輝かしい実績をお持ちです。まずはお嬢さん、スカイさんの教育についてお聞かせ願えますか。たとえば、ことばの環境はどのような状況だったのでしょうか。

ボーク わが家では、娘のスカイが生まれたその日から、わたしと2人きりのときは日本語で話しかけて、アメリカ人の夫と3人のときは英語で会話するというように、ことばを使い分けていました。3歳まではわたしと話す時間がいちばん多かったので、そこまではスカイは日本語中心の生活をしていました。でも、3歳で保育園に入り、毎日そこで過ごすようになると、あっという間に英語中心の言語環境に逆転しました。

松本 スカイさんのアイデンティティーは、アメリカと日本、どちらなのでしょうか。

ボーク 両方です。日本のアメリカンスクールに1年間留学して意識が変わったようです。それまで、日本は「ママの国」にすぎず、「日本語を勉強しても使う機会がない」などと言って、わたしが「必要性はないかもしれないけれど、言語はアイデンティティーを形成する重要な要素だから、日本語も勉強して」と、いくら諭してもだめでした。でも、日本留学で、「日本語というのは、実は役立つ言語である」と実感し、しかも「自分は日本人でもある」という自覚が芽生えたようです。その後は自分から日本語を学ぶようになり、大学では日本近代史の教科を選びました。

松本 スカイさんは、4歳からボーヴォワール校※1に入学し、高校までその系列校に通われました。なぜ、その学校を選んだのでしょうか。

ボーク ボーヴォワール校を選んだ背景には、わたし自身の自信のなさ、自己肯定感の低さがあり、「娘にはこうなってほしくない」という思いがありました。そして、娘にはどういう教育環境が良いのか調べていくうちに見つけたのが、「問題解決力、柔軟性、心の回復力、やり抜く力といった非認知能力を育む」ことをうたっていたボーヴォワール校だったのです。

 初めて見学に行ったとき、わたしが受けてきた知識重視の教育とは正反対の授業で驚きました。「1+1=2」をリンゴや指を使いながら50分もかけて教えているのです。リンゴなんて途中で食べちゃう子もいます(笑)。半ばあきれる私に、先生は「この子たちがいずれどうなるか、高校生のクラスを見に行ってください」とおっしゃいました。そこで高等部に行ったところ、芝生で寝転んで宿題をやったりして、なんだかみんな、伸び伸びとしているのです。しかし授業では、最高裁判決について、「あなたは賛成ですか、反対ですか。意見を述べてください」と討論をしていました。

 ボーヴォワール校では、先生たちは教えるのではなく、子どもから考える力を引き出す授業をしているのです。その方向性に「おもしろいな」と共感を覚えて、入学させることにしました。ただ、「これで娘は立派に育つ。わたしのやることはない」と思っていたら、そうはいきませんでした。学校から、「家庭でも考える力や行動力を引き出す教育をきちんとやってください」と注意されました(笑)。

※1 ワシントンDCにある初等教育専門の名門校。4〜9歳までを同校で過ごし(共学)、その後は系列の女子校、男子校に進む。

考える力を伸ばす第一歩は
子どもの意見を肯定的に受け止めること


YGC(Y-SAPIX Global Campus)
松本 信乃 ゼネラル・マネージャー

松本 ご家庭ではどのような教育をなさっていたのですか。

ボーク 重視していたのは、「対話」です。そのためにまず、家庭のなかで、「意見に間違いはない」「自分をありのままに受け止めてもらえる」「自分は愛されている」ということを感じられるような、安心できる環境をつくろうと心がけました。

 激動する現代社会を生き抜き、みずからの力で自分の将来を切り開いていくためには、みずから課題を見つけ、自分で考える力を身につけなければなりません。そして、考える力を養うには、意見を述べる機会をどれだけ増やせるかがキーポイントになり、家での対話が重要になります。対話といっても、難しいことをテーマにする必要はありません。学校での出来事や身の回りのことについて「どう思う?」と尋ねればよいのです。そして、子どもから意見を引き出したら、絶対にそれを否定しないこと。肯定的に「そういう意見なのね」と受け止めると、子どもは安心して何でも言えるようになります。それが自分の意見を構築する第一歩になります。

松本 アメリカンスクールを見学して驚いたのが、教室の壁にミステイクに関する格言のようなものが貼ってあったことです。「失敗するな」ではなく、「ミステイクは学ぶためのチャンスだ」というのです。そういった発想はアメリカらしいですね。

ボーク アメリカには、人は行動し、失敗することで伸びていくという考えがあります。「ちょっと難しいけれど、何とかやるぞ」という情熱や自制心、問題解決に向かう柔軟性などといった非認知能力は、失敗してこそ伸びると考えているわけです。

 ただ、アメリカでも「失敗させたくない親」は問題になっていて、Lawnmower Parents〝芝刈り機ペアレンツ〟と呼ばれています。子どもが進む前に親が先回りして、邪魔物をだだーっとなぎ倒してしまう(笑)。こういう保護者の下で育ってしまうと、未知のことに出合ったときにどうしたらいいのか考えられなくなります。それで企業からも、リベラルアーツで思考力、コミュニケーション力、理論力を養ってくれと悲鳴が上がっている状況です。

松本 だからでしょうか、アメリカの学校では、事あるごとに「失敗から学んだことは何か」というエッセイを書かせますね。

ボーク 「全米最優秀女子高生」コンクールの決勝では、「あなたにとって、成功とはどういうことか?」という質問がありました。そのとき娘は、「政治に興味があって、政治家になりたいと思い、高校2年生のときに生徒会長に立候補したが、落選してしまった。でも、それで終わらずに、なぜ落選したのかを考えて、今度はボランティア部の部長に立候補し、その後1年間、ボランティア部でがんばり、皆と一緒にいろいろなことができた。それがわたしにとっての成功だった」と答えたのです。失敗から何を学んだかというその答えを聞いて、わたしは娘の優勝を確信しました。アメリカの人は、そもそも「失敗」という感覚があまりなく、「やってみてだめだったらどうすればいいか考えればよい」し、「自分一人ではなく、みんなとやれば何とかなる」みたいな感覚を持っています。

19年5月号 子育てインタビュー:
1|

ページトップ このページTopへ