受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

統計学者が教える「データサイエンス」の魅力

文系・理系の垣根を作らず、
問題解決型の学習を心がけよう

岩崎 学さんManabu Iwasaki

(いわさき まなぶ)横浜市立大学データサイエンス学部長・教授。理学博士。1952年、静岡県生まれ。1977年、東京理科大学大学院理学研究科数学専攻修士課程修了。その後、茨城大学工学部情報工学科助手、防衛大学校数学物理学教室助教授、成蹊大学理工学部情報科学科教授、横浜市立大学国際総合科学群教授・データサイエンス推進センター長などを経て、2018年より現職。元応用統計学会会長で、2019年より統計関連学会連合理事長を務めている。専門は統計科学。

 情報技術の進歩に伴い、膨大なデータを解析し、意思決定につなげる「データサイエンス」の重要性が叫ばれるようになり、大学でも関連学部新設の動きが進んでいます。とはいえ、データサイエンスということばはまだ耳新しく、その内容などについて「もっと情報が欲しい」という声が少なくありません。そこで今回は、統計学者で横浜市立大学データサイエンス学部長※である岩崎学先生に、「データサイエンスとは何か」「大学では何をどう学ぶのか」、そのために、「どのような力を養うべきか」といった点について、お話を伺いました。
※2020年3月時点

統計学、情報科学を融合させたうえで、
社会への適応・応用を考える学問

広野 今、国を挙げてデータサイエンスに取り組もう、AI(人工知能)人材を育てようという動きがあります。そもそもデータサイエンスとは、どういう学問なのでしょうか。首都圏初のデータサイエンス学部の学部長でいらっしゃる岩崎先生に、まずはそこから教えていただきたいと思います。

岩崎 日本でデータサイエンス学部が登場したのは、ここ数年のことです。データサイエンスはまだ新しい学問分野といってよく、その定義も人や組織によってまちまちな部分があります。そうしたなかで横浜市立大学としては、「データサイエンスとは、統計学と情報科学を融合させたうえで、それを社会にどう役立てるかという社会展開も含めたすべてを考える学問分野である」と位置付けています。ですから、統計学、あるいは情報科学を単体で学ぶよりも守備範囲が広いことと、社会への適応、応用を念頭に置いているところが大きな特徴です。

 データサイエンスが実際に活用されている例としては、電子カルテの記録や画像診断データの蓄積といった医療ビッグデータをAIによって解析し、病気リスクの発見や難病治療に役立てるというケースなどが挙げられます。あるいは、SNSの〝つぶやき〟をベースに株式市場の動向を探ろうという試みも始まっています。

広野 岩崎先生が専門とされている統計学についても、ご説明ください。

岩崎 統計学はもともと社会の情勢を数値でひもとこうとして始まったという経緯があり、文系の学問と見なされることもありました。ただ、統計学の学問的な基礎は数学にあります。数学というのは一種の言語で、数式を使っていろいろな事象を記述し、説明することができます。


データサイエンス学部が設置されている横浜市立大学・金沢八景キャンパス

 統計学はテストの点数などのようにばらつきのあるデータを相手にしますから、数学のなかでも確率が重要になります。われわれが大学で統計学を教えるに際しては、基礎的な数学、特に確率の基礎の上に立って、実際問題をどう数学を使った方法論に落とし込むか、すなわち定式化していくかを考えさせるわけです。ただし、定式化して予測モデルを作っても、データを入力して出た答えが正解と一致するとは限りません。そこから外れた部分を一般的に「誤差」と呼んでいますが、この誤差をどうとらえるかが問題になります。時にはデータそのものの質を問わなければならないこともあります。

 そういった判断力は、みずからデータを集め、計算する経験があってこそ培われると、わたしは考えています。統計学の重要な分野には、実験計画法や標本調査法といったデータを取る技術があるのですが、今はそのデータを取る部分がおろそかにされているのではないかという危惧を抱いています。渡されたビッグデータや予測モデルを「丸のみ」してはいけないのです。

AIの得意・不得意分野を見極め、
人間が責任を持って使いこなすことが大切


サピックス小学部 教育情報センター
部長 広野 雅明

広野 「AIに仕事が奪われる」「子どもたちが大人になるころには、今の職業の半分はなくなっている」といった話を聞き、AIが人間と対立関係にあるかのように考える人もいれば、一方で、「データサイエンスは、そのAIやビッグデータを使う魔術のようなもの」というような期待を抱く人もいます。実際のところはどうなのでしょうか。

岩崎 AIを使いこなすデータサイエンティストになるには、AIの中身を理解し、その限界を知り、AIをさらに改善できることが求められます。そのAIの現状といえば、得体の知れない知性体などではなく、その中で動いているアルゴリズムは統計学的なものであり、与えられた条件の下で最適解を導くことを得意としています。「知能」というのは本来、そうした力よりももっと高次なものです。知能には、そもそもの問題を発見することができる力があります。AIは現時点で、本当の意味での「知能」には到達していません。

広野 将棋の必勝法のように、一定のルールの範囲であれば、スピーディーな処理が可能であるに過ぎない、ということですね。

岩崎 おっしゃるとおりです。AIがデータに基づく意思決定をしているといっても、ルールが100%決まっている条件下で、膨大なデータの裏付けがある場合のみ、それが可能なのです。たとえば病気の診断であっても、新しい病気に関しては判断ができません。なぜ新しいことに弱いかというと、二つの理由があります。一つ目は、新型であるためにエクスペリエンス(経験値、裏付けとなるデータ)が十分にないということ。二つ目が、その判断の結果が重大であるために、AIに責任を負わせることができないということです。倫理的な側面に立ったとき、AIはやはり道具に過ぎず、特に医学の分野では、最終的には人間が責任を持って判断すべきだということなのです。そういう意味で、人間の仕事がすべてAIに代替されて活躍の場を失うというような事態はあり得ません。あくまでも人間中心の社会をこれからも創造していかなければなりませんし、人間が存在する意義はけっしてなくならないと思います。

20年4月号 子育てインタビュー:
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