受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

開成中学校・高等学校の前校長が唱える「不確実時代の子育て論」

子どもの好きなことを見つけ、
大きく伸ばすのが親の役割

柳沢 幸雄さんYanagisawa Yukio

(やなぎさわ ゆきお)北鎌倉女子学園学園長。東京大学名誉教授。1947年生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。研究テーマは「空気汚染と健康の関係」。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者として知られる。ハーバード大学大学院准教授・併任教授などを経て、2011年度から2020年3月まで開成中学校・高等学校校長を務める。20年4月から現職。主な著書に、『18歳の君へ贈る言葉』(講談社+α新書)、『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』(朝日新聞出版)など。

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う休校やテレワークにより、親子が一緒に過ごす時間が長くなっているのではないでしょうか。そこで、あたらためて考えたいのが子育ての在り方です。そもそも成長期にある男子・女子とはどのような存在なのか。保護者は子どもにどう接し、どのような力を育めばよいのでしょうか。今年の春、開成中学校・高等学校の校長を退任し、北鎌倉女子学園の学園長に就任された東京大学名誉教授の柳沢幸雄先生と、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表に語り合っていただきました。

母親にとって男の子は「宇宙人」
性別による発達の違いを理解しよう

髙宮 柳沢先生はこの3月まで、開成中学・高校の校長として成長期にある男子の教育に携わっていらっしゃいました。男子の子育てに関する著作もたくさんおありですが、男子の力を伸ばすポイントは、どこにあるとお考えですか。

柳沢 日本社会における子育てで特徴的なのは、その大半を母親が担っていることです。ここ十年ではかなり状況が変わりつつありますが、それでも子育ての主要な役割は、母親が担っています。だから男の子を育てているのは、異性の親というわけです。愛情面では、同性だろうと異性だろうとわが子は等しくかわいいと思うのは当然ですが、接し方でみると、男の子と女の子とではずいぶん違っているというのが実態です。

 その理由として考えられるのは、性別によって発達のありようが違うことです。個性にもよりますが、総じて女の子のほうがよく話すから、母親も娘の考えていることがよくわかります。ところが、男の子は成長とともにどんどん話さなくなって、いきなり行動に移すことが増えるため、戸惑ってしまいます。母親自身に兄弟がいればわかることもあるのですが、今は兄弟の数が少ないので、「育ちつつある男の子」というのがどういうものか知らないまま、親になっている女性も多いようです。

 これが同性の娘であれば、自分の経験をもとに何を考えているか大体理解できるし、「女性として、これができないと大人になってから困る」ということもわかるから、母親はわりと厳しく注意できます。しかし、息子のほうは、訳がわからない宇宙人のような存在です。そのため、心配しながらも厳しく注意できないまま、かわいさだけが残るというような状態になってしまうのです。もちろん、その逆も同じで、父親も娘に対しては何も言えないわけです。異性の子どもというのは、難しい存在なのです。ですから、お母さん方には、「男の子というのはこういうもの」ということを、まず知っていただきたいと思います。

髙宮 性別による発達の特性がわかれば、一歩引いた目線で子どもを見守ることができそうです。

柳沢 お母さん方が特に戸惑うのは思春期でしょう。たとえば開成では、入学後いきなり一人前として扱うから、生徒たちは「自分はもう大人だ」と思い込み、自由に振る舞うようになります。小学校時代は受験勉強があり、毎日決まったスケジュールがあってきちんと勉強していたのに、開成に入った途端に机の前にも座らない。机の上はゲーム機ばかりが載っている…。そうなると、親はもうパニックになってしまいます。でも、そういう新しい世界を同世代の仲間たちと模索する年齢であることを知って、息子の言い分に耳を傾け、見守ってほしいのです。

成長スピードが異なる男子と女子
学校教育でもそれぞれの違いを大切に

髙宮 敏郎さんTakamiya Toshiro

(たかみや としろう)SAPIX YOZEMI GROUP共同代表(代々木ゼミナール副理事長)。1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。2000年学校法人髙宮学園入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学して大学経営学を学び、2005年に教育博士号を取得。2009年より現職。SAPIX小学部、SAPIX中学部、Y-SAPIXなどを運営する日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。

髙宮 学校教育においても、子どもの特性への理解や配慮がほしいところですね。先生は今年の4月から、北鎌倉女子学園の学園長に就任されました。どのような思いで臨まれていますか。

柳沢 わたしは、中等教育の段階は別学のほうがよいと考えています。開成の次の場として、女子校を選んだのはそのためです。大人社会で男女が同権であることは申すまでもありません。しかし、成長する段階では、やはり男の子の育ち方と女の子の育ち方は違う部分が多いのです。まず、成長する速度が異なります。女子のほうが成長スピードが速い。そのため、中学生・高校生の集団では女子がリーダーシップを発揮します。その時期は、男の子にとってみれば、家では母親に育てられ、学校では女子のリーダーシップの下で過ごすことになり、自立心を養うことが難しくなってしまうのです。それぞれが伸び伸びとリーダーシップを育むには、この時期は別々に学ぶほうがよいというのが、わたしの考えです。

 また、女子の側に着目しますと、男子と比べて「共感」を求める傾向が強いようです。ですから、そういう感覚を尊重しながら育てていくためには、女子だけの生徒集団をつくることが望ましいと思うのです。

髙宮 ハーバード大で巻き起こった、「女性の理系研究者が少ないのは生来の特性なのか環境によるものか」といった議論に見られるように、教育の場で男女をどのように扱えばよいのかということは、本当に難しい問題ですね。ただ、中等教育における別学の良さは、それぞれの学校が長年にわたってさまざまな取り組みを積み重ねてきた結果、進学実績や卒業生の社会での活躍ぶりにも表れていると思います。先生は今回、女子校の学園長として、どのようなことに取り組みたいとお考えですか。

柳沢 わたしが女子教育で大いに参考にしているのが、鷗友学園女子の名誉校長でいらっしゃる吉野明先生のお考えです。吉野先生とお話をして驚いたのは、鷗友学園の運動会は学年ごとにチームを作るということです。学年をチームにしたほうが、女子にとっては共感しやすい環境になり、学年として一つの大きなまとまりが出来上がるというのです。同校の運動会では、中1〜中3、高1〜高3がそれぞれ対抗します。基本的には年長の学年が強いのですが、時には「下剋上」などということばが出てきたりして、盛り上がるそうです。

 これは男子校の感覚では出てこない発想ですね。今後は、こうしたほかの女子校の取り組みなどを参考にして、女子の特性を伸ばす環境を整えていきたいと考えています。

髙宮 チーム作りという点では、鷗友学園は入学当初、席替えを3日に1度行うとお聞きしました。海外のボーディングスクールでも、ある女子校ではルームメートを年に複数回シャッフルするそうです。おそらく特定の生徒同士で仲良くなってしまうと、チームがばらばらになる可能性があるので、それを避けようという意図があるのでしょうね。

柳沢 それについては男子も同様で、開成でも毎年クラス替えがありますし、運動会で中学生は通常のクラスとはまったく違うカテゴリーで分けます。最初の段階でなるべく多くの人と接することで、広い視点に立った人間関係を築いてほしいという考えですね。

20年7月号 子育てインタビュー:
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