受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

「公衆衛生学」を専門とする医師からのアドバイス

「マスク・手洗い・換気」を徹底
体を動かすことも忘れずに!

高橋 謙造さんTakahashi Kenzo

(たかはし けんぞう)帝京大学大学院公衆衛生学研究科教授。国際保健学修士(東京大学)、医学博士(東京大学)。1988年、東京大学医学部医学科卒。東京大学医学部附属病院小児科、徳之島徳洲会病院小児科、千葉西総合病院小児科、恩賜財団母子愛育会リサーチレジデント、順天堂大学医学部公衆衛生学教室助手、厚生労働省大臣官房国際課国際機関専門官、国立国際医療研究センター国際協力部医師、横浜市立大学などを経て、2014年4月より現職。専門は、国際地域保健、国際母子保健、感染症学。

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって、家庭や教育現場はもとより、社会全体に大きな混乱が生じています。そうしたなかで、あらためて注目されるのが「公衆衛生学」の重要性です。そこで今回は、公衆衛生学の研究者であり、小児科医でもある帝京大学大学院公衆衛生学研究科・教授の高橋謙造先生にインタビュー。公衆衛生学の目的や重要性、家庭で実践できる新型コロナウイルス感染症対策などについて、お話を伺いました。

公衆衛生学が対象とするのは
「たくさんの人々」のための健康

広野 今回のコロナ禍で、新聞やテレビなどで「公衆衛生」ということばを見たり、聞いたりすることが多くなりました。高橋先生は帝京大学大学院の公衆衛生学研究科の教授でいらっしゃいますが、そもそも公衆衛生学とはどういった学問なのでしょうか。

高橋 公衆衛生は英語でPublic health(パブリックヘルス)といいます。公衆、つまり「たくさんの人々」のための健康というのが、公衆衛生の本質を言い当てていることばだと思います。医療の場合には、目の前に患者さんがいらして、その患者さんに対してどういった治療をしていくのかを探ります。公衆衛生は医療とは異なり、病気になってしまった人ではなく、病気になる前に、集団でどう予防をしていくか、というところが大きなポイントになります。

広野 日本における公衆衛生学の歴史は長いのでしょうか。

高橋 明治時代、軍医としてドイツ軍の衛生制度を学んだ森鷗外らが、公衆衛生の概念の基礎を持ち込んだといわれています。ただ、体系化された学問として取り組まれるようになったのは、戦後にアメリカからパブリックヘルスの考えが入ってきてからですね。

広野 アメリカでは、室内から有害物質をどう排除するのかなど、化学に近いアプローチもあると聞いています。

高橋 おっしゃるとおりで、アメリカでは医学とは少し離れたところで公衆衛生学が成り立っています。ハーバード大学やジョンズ・ホプキンズ大学といった公衆衛生学の「総本山」では、独立した公衆衛生の学部と大学院があります。

 一方、日本では公衆衛生学が医学や看護学の一分野として位置づけられたため、逆に公衆衛生学が広がりにくかったという面はあります。とはいえ、研究している内容はアメリカでも日本でも大きな違いはありません。 

広野 先生は、帝京大学大学院の公衆衛生学研究科で、どのような研究をなさっているのですか。

高橋 わたしは小児科医としてのベースがありますから、現在は大きくいって、小児医療と地域医療の2本立てで活動しています。

 小児医療に関しては、予防接種をいかに効果的に行っていくかということをテーマにしています。現在、保護者が予防接種を子どもに受けさせたがらない「ワクチン忌避」の問題があり、20年間以上、このテーマに取り組んできました。また、「医療的ケア児」、たとえば人工呼吸器などを使用している子どもたちを、災害時や感染症流行時にどう守っていくのかという問題にも取り組んでいます。 

 一方、地域医療に関する研究テーマの一つは、「なぜ、日本の乳児死亡率が低いのか」を解き明かすことです。日本の乳児死亡率の低さは世界でトップクラスなのですが、どうして急速に乳児死亡率を下げることができたのか、実ははっきりとわかっていないのです。諸外国からも「なぜか」とよく聞かれるのですが、誰もきちんと説明できません。経験を積んできた国だからこそ、その説明をしっかりと行う必要があります。 

 そしてもう一つ、その乳児死亡率に関連して、途上国の子どもたちの健康をいかに守っていくかということも大きなテーマにしています。これは、いわゆる国際保健という分野なのですが、わたしは途上国で国際保健に携わりたいという思いをずっと持ち続けていて、外務省の外郭団体である国際協力機構(JICA)の活動に専門家として参加し、途上国に何度も足を運んでいます。 

手だけでなく顔も洗うと効果的
ゲームよりも運動でストレス発散を


サピックス小学部 教育情報センター
部長 広野 雅明

広野 新型コロナウイルス感染症対策として、家庭では、どのようなことを心がければよいのでしょうか。

高橋 ウイルス感染というと、くしゃみでしぶきが飛んで、それを吸い込むという「飛沫感染」のイメージが強いようですね。しかし、それ以外に、感染者が触った手すりなどから感染するという「接触感染」も少なくありません。新型コロナウイルスは存続時間が長いため、接触感染には特に注意が必要です。

 飛沫感染対策としては、当たり前のことですが、マスクを着用すること。いちばん効果が高いのは、N95という医療用マスクですが、これは息苦しくて日常使いできるものではありません。それ以外のマスクについては、効果にそれほど大きな差はありませんから、とにかくお子さんが長時間使用できる素材や形のものを選ぶとよいでしょう。

 接触感染を防ぐには、手の消毒が大事です。アルコールが入手できなければ、石けん洗いでかまいません。石けん洗いでも、ウイルスを殺すことができます。帰宅したら、必ず手洗いをすること。これを徹底するだけで、かなりの感染を避けることができます。また、手だけでなく顔も洗うといいですね。顔の表面にウイルスがつくと、顔をこすったりするうちに口から入るということもありますから。さらに、消毒用ジェルなどを持ち歩いて、電車の手すりやつり革につかまったら、さっと消毒をする、家庭内のドアノブなどもこまめに消毒する、といったことも心がけるとよいでしょう。

広野 「密閉」が良くないという意味では、換気もするべきでしょうか。

高橋 エアコンを使っている部屋も「密」になりがちです。実は、一般的なエアコンには空気清浄機能は付いていないので、2時間ごとに15分などと決めて、定期的に窓を開けて換気をしたほうがいいですね。

広野 感染予防を徹底すると、子どもが家にこもりがちになり、ストレスがたまらないか心配です。

家庭でできる「コロナ対策」
●マスクをきちんと着ける
長時間使用できる素材・形のものを選ぼう。
●手洗いをしっかりと
石けん洗いでも十分。帰宅しらた必ず実行を。
●ついでに顔も洗おう
顔にもウイルスが付着するので要注意。
●消毒用ジェルを持ち歩く
手すりやつり革に触ったら、さっと消毒を。
●部屋の換気を心がける
定期的に窓を開けて、空気を入れ替えよう。

高橋 わたしは今でも小児科の外来を担当しているのですが、最近、目立つようになってきたのは「目が見えづらくなった」というお子さんです。状況をよく聞いてみると、肩こりや腰痛もあると言います。そこで生活環境を尋ねると、「ストレスがたまるから、ゲームをさせている」という回答が少なくありません。しかも長い時間させているようです。「目が見えづらくなった」というのは、恐らくそれが原因なのでしょう。

 ですから、ゲームでストレスを解消するというのは、あまりお勧めできません。ストレスを発散させるには、やはり運動が一番だと思います。今は屋外での運動は難しいかもしれませんが、たとえば早起きして、あまり人のいない場所でラジオ体操などをするとよいでしょう。 

広野 新型コロナウイルス感染症については、多様な情報が飛び交っていて、混乱している保護者の方も多いようです。情報の真偽はどうやって見極めたらよいのでしょうか。

高橋 わたし自身は、まず学術論文をきちんと読むということを義務づけています。専門的で、しかも長い英語の論文を読むのは疲れますが、それは信頼できる根拠となります。権威ある国際学術誌、たとえば、『ネイチャー』『サイエンス』『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』『ランセット(LANCET)』などは、複数の研究者が査読をしたうえで、十分に学術的な価値があると認められなければ、論文として掲載されません。ですから、情報源として非常に信頼できるわけです。今、わたしたち公衆衛生の専門家の間で、そういった論文を読み込み、あれこれ議論をしているところです。

 もちろん、一般のご家庭でそうした情報に直接触れることは難しいかもしれません。でも、メディアで発信される情報が、きちんとした学術論文に基づいたものかどうかという疑問を常に持つことは大切だと思います。 

家庭でできる「コロナ対策」
●マスクをきちんと着ける
長時間使用できる素材・形のものを選ぼう。
●手洗いをしっかりと
石けん洗いでも十分。帰宅しらた必ず実行を。
●ついでに顔も洗おう
顔にもウイルスが付着するので要注意。
●消毒用ジェルを持ち歩く
手すりやつり革に触ったら、さっと消毒を。
●部屋の換気を心がける
定期的に窓を開けて、空気を入れ替えよう。
20年10月号 子育てインタビュー:
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