受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

グローバル時代の今、礼法を学ぶ意義を考える

「礼法とは形ではなく、
『心の美しさ』を求めるもの」

井出 徹さんIde Toru

(いで とおる)小笠原流礼法師範。光英VERITAS中学校・高等学校において礼法の授業を担当。大学(國學院大学)では日本史を専攻。指導教授から先代の小笠原礼法宗家、32代・忠統(ただむね)氏を紹介され、氏の「内弟子」となり、師範に。1988年、当時の聖徳学園の礼法科教員として着任。現在に至る。

 グローバル化の進展を受け、多くの学校が語学教育・国際教育に力を入れています。一方で、グローバル社会だからこそ、自国の文化や日本古来の礼法を大切にしなければならないという声もあります。今回は、光英VERITAS中学校・高等学校(旧・聖徳大学附属女子中学校・高等学校)で長年にわたって礼法の授業を担当する小笠原流礼法師範の井出徹先生に、礼法を学ぶ意義について伺いました。

武家社会で生まれ、将軍家の下
受け継がれてきた小笠原流礼法


サピックス小学部 教育情報センター
部長 広野 雅明

広野 貴校では、国際教育やICT教育など最先端の教育を行う一方、日本古来の礼法を重視し、1983(昭和58)年の開校以来、必修授業として取り入れていらっしゃいます。礼法については、その歴史や起源をご存じではない方も多いかと思いますので、そもそも礼法とはどのようなものか、まずはそこからご説明いただけますか。

井出 本校で取り入れている「小笠原流礼法」の起源は鎌倉時代にさかのぼります。当時は武家社会ですから、必要な知識・技能といえば、弓道・馬術・戦の能力ですね。小笠原家はなかでも弓道と馬術に優れた家柄でした。それを代々ずっと守ってきて、一子相伝、つまり親から自分の子のなかの1人だけに教え、引き継いできたわけです。

 そして室町時代になり、武士にも礼儀が必要だという気運が芽生えてきました。礼儀がないとトラブルのもとですからね。そこで、足利義満が、小笠原家・今川家・伊勢家の三家に武士の一般常識をまとめさせました。これが礼法の古典として現在も使われている『三議一統』です。

 その後、戦国時代に、信濃国松本城主だった小笠原貞慶が『三議一統』後に加えられた作法を踏まえながら、特に室内作法に特化した『小笠原礼書七冊』をまとめ、武家社会に、統一した礼儀を浸透させていきました。こうして小笠原流というのは、将軍家の礼法として、徳川家はもちろん、それに仕える者も身につけなければいけない作法となっていきました。城中において失礼がないよう、他者とうまくやっていけるよう、礼法が洗練されていったのです。

広野 小笠原流礼法が武家から生まれたというのは興味深いですね。それが今日のように、礼法といえば女性のたしなみというイメージがついたのはなぜなのでしょう。

井出 一子相伝の小笠原流ですが、幕末期から、小笠原家に勤めた経験のある人たちが市中で習い事として礼法を教えるようになっていきました。それが商家の奥さまやお嬢さまなどを中心に広がっていき、「礼法は女子教育に使う」というイメージが出来上がったようです。

 その後、明治維新によって、小笠原家はいったん礼法を封印します。しかし、戦後、自由主義や個人主義が日本に急速に浸透していくなか、わたしの師匠でもある小笠原家32代目の忠統氏が、このままでは、日本人に備わっていた奥ゆかしさや思いやりといった精神が失われていくのではないかと憂えるようになりました。そして、「礼法のうち武芸に関する部分はもう使えないとしても、他者との関係を円滑にするような部分はまだ生かせるのではないか」と考え、礼法を一般の方々にも広めようと考えたのです。そうしたなか、当時の学園理事長である川並弘昭氏と忠統氏が意気投合し、1983年に中学校と高校を立ち上げるタイミングで、礼法を学校教育に取り入れることになったのです。

中高6年間の礼法の授業を通じて
美しい形だけではなく「心」を学ぶ

広野 貴校には中高6年間にわたる礼法のカリキュラムがありますが、具体的にはどのようなことを学ぶのですか。

井出 礼法の授業は週に1コマ、中学3年間で計100コマ用意しています。最初に教えるのは、「なぜ礼法を学ぶのか」、その意義についてです。ほとんどの生徒は、礼法に触れるのは初めてです。なかには、礼法にあまり良いイメージを持っていない生徒もいます。「足がしびれる」「いろいろうるさく言われて、面倒くさそう」と思うようです。しかし、実は礼法とはそういうものではない、というところから話をします。

 たとえば、飲食店で水を出されるとき、店員さんがコップをわしづかみにしてテーブルにどんと置いたら、客であるあなたはどう思うだろう。そうではなく、指先で優しく側面を持ち、もう片方の手でコップの底を支えながら静かに出されたらどうか。同じお水でもおいしく感じるのではないか、といった具合です。

 たとえ心の中で相手のことを思っていても、思っているだけでは伝わりません。ことばで、そしてしぐさで、心や気持ちを形に表してこそ相手に伝わるのです。こういった、礼法の根幹を最初に話しています。

広野 それを踏まえて実践に入るわけですね。

井出 中1では、箸の使い方、和食のいただき方を学びます。それから、洋室での作法に進みます。教室で過ごすことが多いので、立礼のしかたや椅子の座り方、ドアの開け方、廊下で人に会ったときの振る舞いなどを学びます。そして、中1の後半から中2にかけて、玄関の入り方や、和室での過ごし方に進みます。障子を開ける、座布団を使う、座礼をする、といった立ち居振る舞い全般を学びます。中3ではそれらの連続動作をやりながら、次のステップとしてお茶のいただき方を学びます。

 高校ではさらにレベルアップしていきます。高1でもう一度、和食の作法をおさらいし、「贈る心」を理解してもらおうと、のし袋を作ります。のし袋を和紙から折って、金銀の水引を付けて、さらに表書きを筆で書くのです。


光英VERITAS中学校・高等学校
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 高校2年生では浴衣の着付けも学びます。高校生はこれをとても楽しみにしているようです。浴衣は脱いだら畳まなくてはなりませんから、畳み方も教えます。また、修学旅行に備えてテーブルマナーを勉強します。行き先はオーストラリアですから、国際的なマナーも必要です。 

 高校3年生では最後の総仕上げとして、お茶を学びます。床の間の拝見、座礼の作法、扇子の扱い方など、かなり発展的な内容を扱います。いただき方だけでなく、お茶の出し方など、おもてなしの作法についても学びます。それから、大学受験などでの面接を意識し、面接の受け方や洋間での作法をおさらいします。 

広野 貴校は今年度から共学化し、男子も入学してきました。礼法の授業に変化はありますか。

井出 今後はグローバル社会を視野に入れ、思いやりの心を持ち日本文化を意識したうえでのコミュニケーション力の向上に取り組みます。より発展した内容を盛り込み、グローバルスタンダードとしての礼法に進化させていくつもりです。


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21年5月号 子育てインタビュー:
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