受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

どうすればいい? 子どもの英語教育

目的を明確にして、
親子で楽しく学ぶことが大切

アレン 玉井 光江さんAllen TAMAI Mitsue

(あれん たまい みつえ)青山学院大学文学部英米文学科教授。教育学博士。Notre Dame de Namur大学英語学部卒業。サンフランシスコ州立大学大学院修士課程、テンプル大学大学院博士課程を修了。文京学院大学外国語学部教授、千葉大学教育学部教授を経て、2010年より現職。専門は児童英語教育、第二言語習得。日本児童英語教育学会会長を務める。著書に、小学校外国語用教科書『NEW HORIZON Elementary』(編集代表)(東京書籍)、『小学校英語の教育法 理論と実践』(大修館書店)、『小学校英語の文字指導:リタラシー指導の理論と実践』(東京書籍)など。

 2020年度から、小学3・4年生で「外国語活動」がスタートし、5・6年生では英語が「教科」として位置づけられ、成績もつくようになりました。英語教育の早期化が進むなか、家庭ではどのように英語と向き合えばよいのでしょうか。多くの保護者の方が抱く疑問や悩みについて、幼少期における英語教育の第一人者である、青山学院大学文学部英米文学科教授のアレン玉井光江先生に答えていただきました。

子どもの外国語学習に適した
「ジョイント・ストーリーテリング」

広野 アレン玉井先生は、子どもを対象とした英語教育の研究に携わり、「ジョイント・ストーリーテリング(Joint Storytelling)」という指導法を提唱・実践されています。これはどういうものでしょうか。

アレン玉井 わたしはアメリカの大学院で外国語(第二言語)の教授法を学び、帰国後は子どもを中心にさまざまな年齢層の方に英語を教えてきました。長年にわたる試行錯誤の末に、子どもたちが楽しく学べる方法として考案したのが、ジョイント・ストーリーテリングです。

 このメソッドでは、物語をカリキュラムの中核に置いて授業を行います。物語には、みんながよく知っている『赤ずきん』『うさぎとかめ』といったおとぎ話などを使います。授業では、まず先生が英語で話を語ります。子どもたちは、ただ聞くだけではありません。先生にならって、その話を自分たちでも語ります。

 また話の内容に沿って、たとえば『赤ずきん』であれば、狼の生態について調べたりしていきます。これは「クリル(CLIL=Content and Language Integrated Learning/内容言語統合型学習)」といって、外国語の学習と他教科の学習を組み合わせたもので、外国語の効果的な教育方法として注目を集めています。こうした「聞いたり、語ったり、調べたりする」活動を通して、英語の力を包括的に身につけていくのです。

広野 最近の子どもは内気で、人前であまり話したがらないといわれています。子どもたちが積極的に発話し、楽しみながら英語を覚えられるような工夫はありますか。

アレン玉井 ジョイント・ストーリーテリングでのスピーキングの部分では、おとぎ話を聞いた後に、場面ごとのやりとりを会話形式にしたものを話し、覚えていきます。会話の内容は文法的には中1ぐらいまでのものにします。そして、なるべく普通の会話でもよく使う、“Don't worry”というような表現を入れていきます。

 さらに、この会話文にアメリカの手話を使ったジェスチャーを付けます。これはTPR(Total Physical Response/全身反応教授法)という指導法で、体を動かすとことばが定着するという考え方に基づいています。おとぎ話を全編やると、かなり長い英語発話量になり、覚えるのが大変です。でも、動作を付ければ、会話を記憶したり、思い出したりすることが楽になるのです。また、動作とアクセントを連動させることで、日本人にとって難しい英語のリズムも取りやすくなります。

わかる部分から想像力を駆使して
ことばに接していくことが大切


サピックス小学部 教育情報センター
部長 広野 雅明

広野 わたしたちの学生時代は、英語学習に「ストーリー性」はほとんどありませんでした。その学年で覚えるべき文法事項に沿って、無理やり作られた会話文を丸暗記しながら学んでいた記憶があります。英文も日本語訳を機械的に丸暗記していました。そういう従来型の学習法では、英語の習得に限界があるような気がしますが、いかがでしょうか。

アレン玉井 おっしゃるとおりです。そのため、今はストーリー性を大事にしながら教えるようになってきました。物語、ストーリーを使った言語教育は第一言語でも第二言語でも重要だといわれています。日本でも保育園・幼稚園・こども園などでは物語を使ってさまざまな教育を展開しています。わたしは特に、おとぎ話や昔話を中心に取り上げています。

 それはなぜか。まず、おとぎ話や昔話には、隠喩・暗喩が非常に多く出てくるからです。つまり、おとぎ話のなかには人類の持っている普遍的なものが豊かに息づいているのです。一見すると荒唐無稽のようですが、実は知恵の宝庫であるというわけですね。また、おとぎ話であれば、子どもたちが話のあらすじを知っている場合が多い。ですから、英語だけではわからなくても、ジェスチャーなどの非言語的な情報を駆使すれば、内容をおぼろげながらも理解していくことができます。

 実は、この「おぼろげながらも理解していく」ことが、外国語教育に最も必要な「曖昧性に耐える力」を育てるのです。「すべてがわからないとだめ」と心を閉ざすのではなく、わかる部分から想像力をはたらかせて、そのことばに接していく。そうしたプロセスを通して子どもたちが英語を学んでいくためには、おとぎ話や昔話を題材にするのが最適だと考えています。特に小学校低学年以下の子どもたちは、従来型の教科書を使ったときと反応がまったく違います。意味のある文脈のなかで新しい言語に出合う機会を与えてくれることが、ストーリーを使った言語教育のすばらしさだと思います。

広野 英語をまったく知らなくても、物語や動作を介することで、自然に英語の音や意味が頭に入っていくわけですね。

アレン玉井 そうです。そしてこのメソッドでは、日本語訳はいっさい与えません。ですから、小さい子ほど、「わからないのが当たり前なんだ」と、日本語がなくても絵と先生たちのジェスチャーだけで授業についていきます。これは第一言語、わたしたちであれば日本語を習得するときとほぼ同じ状況です。何もわからないところから、少しずつ意味がわかっていくという流れです。

 その「わかる」についても、大人の「この単語は日本語のこういう意味で、進行形で…」というような枠にはまった理解とは異なります。おとぎ話のストーリーのなかで、最初は先生からの口移しでおどおどとまねをしていくうちに、次第に「こういうことかな」と部分的にわかっていき、全体像がぼんやりと見えてくる。やがて、先生や友だちが黙っていても、自分一人でなんとかストーリーをつかめるようになります。そして、そのとき、子どもは「わかった」と言います。それは、前述した大人の枠にはまった理解ではなく、「先生がいなくても、仲間がいなくても、自分一人でなんとかできるんだ」という実感です。語学の学習では、この「自分のことばになった」という感覚を得ることがとても大切で、わたしはこれを「Language ownership」と呼んでいます。

21年9月号 子育てインタビュー:
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