受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

『うんこドリル』の生みの親に聞く、子どもの心をつかむこつ

遊び心を羽ばたかせることが
能動的な学びにつながります

古屋 雄作さんFuruya Yusaku

(ふるや ゆうさく)1977年愛知県生まれ。上智大学卒。テレビ番組制作会社に勤務した後、2006年に映像作品『スカイフィッシュの捕まえ方』を発表。以降、オリジナルDVDを中心に、テレビドラマ、書籍、漫画原作などさまざまなジャンルで作品を手掛ける。2017年の著作『うんこ漢字ドリル』は、その年の流行語大賞にノミネートされるなど社会現象となり、シリーズ累計発行部数は2021年7月時点で890万部を超えている。

 2017年、例文すべてに「うんこ」が登場するという、それまでにないユニークな漢字ドリルが登場し、大きな話題となりました。この『うんこドリル』の生みの親が古屋雄作さんです。もともと映像作家だった古屋さんが、なぜ学習教材を手掛けることになったのか。そして、なぜこの奇抜なドリルが大ヒットしたのか…。商品化までの経緯とともに、子どもも大人も楽しませる自由でエネルギッシュな発想を育んだ少年時代についても伺います。子育てにも少しの余裕と、ちょっとした発想の転換が必要なようです。

ちょっとした遊び心から生まれた
子どもに大人気のドリル

広野 大人には抵抗があるけれども、小さな子どもたちが大喜びする「うんこ」ということば。それを例文に採用した『うんこドリル』シリーズが2017年より販売され、ベストセラーとなっています。古屋さんはその企画や問題作りを担当されたそうですね。まずはドリルの誕生の経緯をお聞かせください。

古屋 実は、最初は、教材を作ろうとしていたわけではありません。2003年ごろに自分のホームページ上で「うんこ川柳」というものを発表したんです。そこでは、基本句が「うんこを ぶりぶり もらします」で、「ぶりぶり」というオノマトペ(擬音語・擬態語)の部分を「ふわふわ」「こつこつ」などと変えて、「うんこが ふわふわ 浮いてます」とか「うんこを こつこつ 叩きます」というようなバリエーションを延々と作っていました。

 これがとても楽しく、本にしたいと考えました。「『雪がしんしん降っています』というような日本語の奥深さを学ぶということを大義名分にしたらどうか」「小学生にも受けるんじゃないか」などと考え、出版社やテレビ局に持ち込んだのですが、そのときは形になりませんでした。

 その後、2007年にはうんこ川柳をネタに映像作品を作りました。そのとき協力してくれた子どもたちがうんこ川柳づくりに熱中している姿を見て、「やっぱりこれはいける」と確信しました。しかし、自分の中では「いつか本にしたい企画」の一つで、半ば忘れていました。


「漢字」から始まった「うんこドリル」。評判が評判を呼び、ひらがな、ローマ字、算数、英単語など幅広い分野で展開しています。現在は、公共機関での防災用の教材などにも採用されています

 そうこうするうち、2015年ごろ、中高時代の同級生でもある文響社の社長の山本周嗣くんが「うんこ川柳」のことを思い出して、「あの企画、おもしろかったよね。一緒に形にしてみない?」と言ってくれ、とんとん拍子で具体化したのです。

広野 しかし、「うんこ」をメインに、商品化するのはなかなか勇気が必要ですよね。普通なら企画書を見た瞬間に没にされてしまいそうです。

古屋 そこは山本くんの英断でしょうね。テレビ局や出版社に企画を持ち込んだときも、「おもしろいけど、上司が何と言うか。厳しいかな」というような反応ばかりでしたから。

 ただ、山本くんは単なる「うんこ川柳」では多くの人に響かない、出版するからには、より多くの人に受け入れられる形にしたいと言うのです。それで、教育・教材と結びつけてはどうかという話になりました。そうやって何度も話し合いながら、「一般的なドリルって、いろいろ工夫はされているけれども、子どもはなかなかやりたがらない」「うんこの例文がたくさん出る漢字ドリルなら喜んでやってくれるんじゃないか」と企画がまとまっていきました。 

子どもが学ぶ教材として
しっかりとした〝土台〟を作る

広野 確かに、幼稚園の年中・年長くらいになってくると、保護者の方も子どもにいろいろなことばを覚えさせたいと思います。そして、小学校に入学すると、机に向かう習慣、鉛筆を持つ習慣を身につけさせたいと考えます。しかし、子どもはなかなかドリル的なものをやりたがりませんし、何をやらせてもすぐに飽きてしまいます。ある程度、知識を蓄えて、自分の力ですらすら解けるようになると、無味乾燥な問題でも喜んで取り組むのですが、そこに至るまでが大変です。その意味でも、子どもをその気にさせるには、相当な工夫が必要だとわれわれも思います。

古屋 その点、『うんこドリル 漢字』は、「このマスを漢字で埋めるとおもしろい文が完成する」「だからマスを埋めたい、漢字を書こう」と、子どもがそそられる作りになっています。その欲求のままに漢字を書くうちに、結果的に反復練習をし、漢字が覚えられるというわけです。ですから、おもしろい例文を作ることが子どもを引きつける肝になります。


サピックス小学部 教育情報センター
部長 広野 雅明

広野 たくさんの例文を作るのに苦労はありましたか。

古屋 例文自体はどんどん湧いて出てきます。最初は辞書を見ながらひたすら作っていました。しかし、途中で山本くんが「ちょっとストップしよう」と言い出しました。「学習教材として信頼性のあるものにするためには、専門家の力を借りないといけない」と言うのです。

 それで、学習教材を専門に手掛けている編集プロダクションの協力を得て、どういう語彙をどういう順番で収録するか再検討することになりました。それを踏まえて、例文をもう一度作り直すことになったのです。

 学習書としての土台をしっかり作ったことで、結果として、例文のおもしろさもより生きてきたように思います。一方、ぼくはひたすら例文のおもしろさを突きつめていった感じです。

 このやり方は、その後に企画した算数や英語の教材でも踏襲しています。最初に、子どもが学ぶべき要素を教育・教材の専門チームが洗い出す。それをベースにしてぼくが問題を作っていく。英語の教材の場合はさらにそれをネイティブが英訳するという流れです。最近は文章読解のドリルも作りましたが、やはり学ぶべき要素に沿って、題材となる文章を作っています。

広野 『うんこドリル』はチームで作り上げたものだったのですね。ちょっと前までは「1人の天才」の活躍がもてはやされる風潮がありましたが、今は違いますね。異なる才能を持った人が集まって、役割分担しながらみんなで考えることが求められるようになっています。今回のヒットもチーム戦だったからこそ生まれたのかもしれませんね。

21年10月号 子育てインタビュー:
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