受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

中学受験に取り組む家族へのメッセージ

「自分になれる場所に向かって羽ばたけ!」
子どもの翼を守るのは大人の務め

朝比奈 あすかさんAsahina Asuka

(あさひな あすか)1976年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。2000年、大叔母の戦争経験を記録したノンフィクション『光さす故郷へ』(マガジンハウス)を発表。同年、『憂鬱なハスビーン』(講談社)で第49回群像新人文学賞を受賞。主な著書に『不自由な絆』(光文社)、『人間タワー』(文藝春秋)、『人生のピース』(双葉社)など。子どもの生きづらさに寄り添う作品は、多数の中学校の入試問題に取り上げられている。

 その作品が多くの中学校の入試問題に採用され、「入試問題頻出作家」ともいわれる朝比奈あすかさん。2021年9月に発表した『翼の翼』(光文社)は、まさに中学受験そのものがテーマとなっています。受験に奮闘する家族の姿を生々しく描いた作品には、どのような思いが込められているのでしょうか─。家族一丸となって中学受験に取り組む読者に向けて、応援メッセージをいただきました。

入試問題で求められているのは
人の気持ちになって考えられる姿勢

広野 朝比奈先生の著書『君たちは今が世界(すべて)』(KADOKAWA)は、2020年度に13校もの中学入試で取り上げられて話題となりました。先生は、この作品が多くの中学で注目された理由をどうお考えですか。

朝比奈 本の表紙に“All grown-ups were once children”ということばが書いてあるのですが、これは「すべての大人が子どもだった」という意味です。もともとこの作品は、かつて子どもだった大人に向けて書いたものでした。子どもが読むことを想定せず、嫉妬心、優越感、劣等感といった心の裏側のどろりとした部分を大人に読んでもらえるように書きました。ですから、一斉にいろいろな学校の入試に使っていただいたことは、本当に驚きでした。最初は、「これを子どもが読んで大丈夫かな」と思いました。

広野 国語の先生方によると、問題文を選ぶときは、まず著者の論旨がはっきりしていることを重視しているそうです。一貫した考えで書かれていないと、問題を作りづらいのです。とはいえ、ストレートに答えがわかる文章では困ります。全体をきちんと読み込まないと、意図がわからないものが望ましい。そういった観点で選んでいるようです。そこに当てはまったのでしょうね。

朝比奈 そうかもしれませんね。それからもう一つ、本の表紙に巻いてある帯にも書かれているのですが、「人の気持ちになって考える」という姿勢が求められているのだと思います。出されている問題を見ると、異性の気持ちや他者の心の動きを問うものが多いようです。

 社会はIT化が進み、インターネットを介した交流が盛んになっています。ネットを通して簡単に人を傷つけることもできる時代を生きていく子どもたちには、わたしが子どものとき以上の早熟さ、モラル、人を許す寛容の心など、さまざまなものが求められるようになっています。技術の発展で、ある意味、子ども時代が短くなっているといってよいでしょう。それに耐えながら、周りの子どもに良い影響を及ぼせる人物に育てたいと、学校側は考えているのでしょうね。大人の読者を想定して書いた子どもの本を読んで、他者の気持ちになって考えられるような人を育てたいのだと思います。

読書好きに育てるために
興味のある本と出合える工夫を

広野 国語の入試問題が難化する一方で、近年は子どもの読解力の低下や読書量の減少などが指摘されています。こうした問題に家庭ではどう対応すればいいのか、と悩む保護者は多いようです。

朝比奈 取材でもたびたび、「子どもに本を読ませるにはどうすればいいのか」ということを聞かれて、わたしも気になっている問題です。雑誌などではよく、「家にたくさん本を置いて、読み聞かせをたっぷりしてあげましょう」「保護者が読んでいれば、自然に子どもも読書好きになります」などと書かれています。でも、一概にそうとはいえないのではないかと感じています。本をよく読む職業、たとえば出版社や新聞社に勤めている保護者と子育ての話をする機会もありますが、親が読書家で家に多くの本がある場合でも、「子どもが本を読まなくて…」とおっしゃる方が意外にたくさんいるのです。

 では、どうしたらいいのか。わたし自身の経験を振り返って思ったのは、子どもと書店に行くのを楽しいイベントにしてはどうか、ということです。書店には文芸書だけではなく、雑誌・写真集・漫画など、いろいろなジャンルの本が並んでいますし、静かな図書館に比べて、親子で話をしやすい気がします。子どもを書店に連れて行くと、わたしはよく、「好きな本を1冊だけ買ってあげるよ」と言っていました。そして本を持ってきたら、選んだ理由を聞いて、できる限り否定しません。「センスいいね」「おもしろそうだね」「この本はママも知らないなあ」などとやりとりして、まず選書することに楽しみを見いだせるようにしていました。もちろん、その本は買って帰り、読んだら感想を語り合うわけですが、子どもが自分で選んだ本を親も読んで、「おもしろかった」と言うと、子どもはうれしいと思います。

 逆に、「入試に出るから」と保護者から薦められた本は、子どもにとっておもしろくないでしょう。そうではなくて、自分で探し出して、「自分だけの本」としてわくわくできるような、そういう本との出合いの体験が子どもには必要だと思います。

 読書には目的がなくてよいというのが、わたしの考えです。何かに役立つから読むのではなく、ただ出合い、心を動かされる、その経験が子どもの世界を豊かにしてくれるのではないでしょうか。わたしの著書にも、できればそんなふうに出合ってほしいと思います。たとえば、模試などで問題文として読んで、「おもしろかったから続きを読みたい」と思ってもらえたら、うれしいですね。

広野 自分自身の体験を振り返っても、自分の好きな本しか読みませんでしたね(笑)。中学生のころ、国語の授業で知った星新一のショートショートがとてもおもしろくて、「ほかにどんな本あるのかな」と、いくつもの本屋で探し回ったことを思い出します。サピックス生にも、塾や通信教育の教材で物語文を読み、それがおもしろくて続きを読みたくなったことが、読書や国語が好きになったきっかけだという子がたくさんいます。塾に低学年から通うメリットの一つは、多くの本のなかから講師が選りすぐった文章に日々触れられることです。講師も総力を挙げて、小学生が興味を持って読める作品、思わずその続きを読みたくなるような文章を選んで、テキストを作っています。

朝比奈 わたしも拝見しましたが、サピックスの国語のテキストは、塾の先生方が「こういう本を読んでもらいたい」という思いで選んでいることがよくわかります。サピックス生から「読んでいて、泣いてしまった」という声を聞いたことがあります。

広野 ありがとうございます。テキストや模試を作るために、国語科の講師たちは新刊本を次々に購入し、手分けして読み込んでいます。そのなかから厳選して出していますから、読み応えがあるのでしょう。

『翼の翼』
朝比奈あすか 著
光文社 刊
1,760円(税込)

 専業主婦の円佳は、小学2年生の息子・翼に、ちょっとした好奇心から進学塾の全国テストを受けさせる。その成績が良かったことから中学受験に挑戦させることに。やがて円佳は、世間の噂や親族、ほかの保護者たちに振り回され、自身のプライドに絡み取られていくことに…。中学受験に奮闘する家族の姿を描きます。

『ななみの海』
朝比奈あすか 著
双葉社 刊
1,760円(税込) 
※2022年2月18日発売

 児童養護施設で暮らす高校生のななみは、医学部進学をめざして受験勉強に励んでいる。部活の発表会、進学費用のためのアルバイトなど、密度の濃い高校生活を送るなか、ななみが自分の意志で選択した道とは――。「教育に十分にお金を注いでもらえない子どもの存在を知ってほしい」という著者の思いから生まれた最新作です。

22年3月号 子育てインタビュー:
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