受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

「小学校英語教育」研究者からのアドバイス

英語を通して世界とつながり
多様な人々と共に生きる力を育む

阿部 始子さんAbe Motoko

(あべ もとこ)東京学芸大学 人文社会科学系 外国語・外国文化研究講座 英語科教育分野 准教授。中学・高校の英語教員を経てニューヨークに留学、TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)と幼児教育(バイリンガルの言語発達)を専攻。帰国後、小学校英語の教員研修に携わる。2015年度より現職。小学校英語教育に国際理解教育の内容を取り入れた「地球市民を育てる外国語教育」の在り方を研究するとともに、山梨県の「南アルプス子どもの村小学校」で週1回、英語や国際理解の授業を実践。NHK Eテレで放送中の『キソ英語を学んでみたら世界とつながった。』を監修。

 2020年度から、小学校の中学年では「活動」としての外国語が、高学年では「教科」としての外国語がスタートしました。英語教育の早期化が進むなか、子どもたちの「英語力」を高めるためには、どのような学びが必要なのでしょうか。また英語学習を通して、どのような力を育んでいけばよいのでしょうか。小学生に求められる英語力について、小学校英語教育の研究に取り組まれている東京学芸大学・准教授の阿部始子先生にお聞きします。

言語教育と国際理解教育の
融合をめざす

広野 阿部先生は、東京学芸大学で小学校英語教育の研究に携わっていらっしゃいます。まずは、その仕事の内容について教えてください。

阿部 わたしの仕事には二つの柱があります。一つは英語の教員養成と指導法の研究で、もう一つは小学校で実際に子どもたちに英語を教えることです。教員養成には、「養成」と「研修」という要素があります。養成は、大学生を対象に英語教育について教えたり、教育実習を通じて指導したりするというもの。研修は、現職の先生方に英語教育についてアドバイスをするというものです。わたしはその両方に携わりながら、小学校英語教育について研究しています。

 小学校で教えているのは、学生に教育法について教えるためには、自分自身も現場に立っていなくてはならないという考えからです。山梨県の「南アルプス子どもの村小学校」という、自由教育・探究学習を長年実践してきた学校で教えています。授業で心がけているのは、国際理解教育と外国語教育を融合させることです。たとえば、ウクライナ難民の支援をしているドイツの小学生と英語で交流しながら、戦争や平和について考えるといった体験型の取り組みを行っています。

広野 小学生の英語教育に興味をお持ちになったきっかけは何でしょうか。

阿部 もともとは中学校・高校で英語を教えており、「生徒たちに、いかに楽しく文法や語彙を学ばせるか」ということを日々追究していました。ただ、「英語を教えるからには、英語圏に住んだ経験もあったほうがよい」と思うようになり、アメリカに留学しました。アメリカでは、TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)、つまり、英語以外の言語を母語とする人たちに向けた英語教授法を学びました。その留学先で、多くのバイリンガルの子どもたちに出会い、子どもの言語発達に興味を持ったことから、子どもたちの言語教育について研究できる学部に転部しました。

 その後、2001年のアメリカ同時多発テロ事件に遭遇したことも転機となりました。「英語教師として何をすべきか」ということを突き付けられたような気がしたのです。世界の課題を解決し、平和な社会を築くために、英語教師として何ができるかを模索した結果、単にスキルを教えるものではなく、国際理解教育と融合した語学教育が大切であるという考えにたどり着きました。

「違うもの」に対する
受容性・寛容性の育成を

広野 2020年度から、小学校の中学年では「活動」としての外国語が、高学年では「教科」としての外国語がスタートしました。英語の学びは中学校・高校・大学、さらにその先へと続いていくわけですが、小学校での英語教育をどのように位置付けていらっしゃいますか。

阿部 先ほども触れたように、外国語教育には二つの側面があると考えています。一つは言語教育という側面、もう一つは国際理解教育という側面です。

 言語教育という側面での小学校期の位置付けは、音の基礎をつくること、そして基本的な語彙や表現をたくさんインプットすることです。もちろん、そこには文字に関する知識やスキルも含まれます。そして、言語が使われる目的や場面、相手のことを考えながら、それを実際に使うという活動を通して、スキルを身につけられるように支援することが大切です。

 一方、国際理解教育という側面から考えた場合、小学校期で大切なのは、多様な言語や文化に対する態度や価値観を育むことです。異なる文化的背景を持つ人と交流するためには、英語などの知識やスキルも大切ですが、この態度や価値観の育成こそが重要です。わたしはそれを「doorとmirrorを手に入れる」と表現しています。

 英語を使えば、日本語では交流できない人ともつながることができ、世界へのdoorが開きます。ただし、doorの向こうに世界と共存している自分が「見えている=mirror」ことが大切です。どの文化にもどの言語にも、それぞれに価値があり、さまざまな背景を持つ人が共に生きる世界があります。そのなかの一員として、自分はどう生きるべきなのかということを考えられるようになるためには、好奇心や寛容性、違うものに出合っても受け止める姿勢、自分のことを振り返る態度などが大切です。こうした態度や価値観を育成するために、小学校期はとても重要なのです。


サピックス小学部
教育情報センター 本部長
広野 雅明

 英語はあくまでもツールであり、それを使って世界の人とつながっていくことが、外国語教育の目的です。言語を学びながら、世界の人たちと共に生きるために、どういうメッセージを、誰に伝えたいのか、そのことを考えるようになってほしいと思います。

広野 最近は、小学校でも1人1台の端末が使えるようになり、英語の学習法も保護者世代とは様変わりしています。保護者は子どもの英語教育と、どう向き合えばいいのでしょうか。

阿部 端末から手軽に正しい音声にアクセスできるというのはすばらしいことです。検定教科書も充実しています。そうしたIT機器や教材を使えば、保護者の方も子どもと同じスタンスで学び、「学習者モデル」を示すことができます。また、インターネットで海外のことについて一緒に調べたり、世界のさまざまな人が発信している英語の動画を一緒に視聴したりすることもできます。保護者の方は、自分も一緒に英語にチャレンジしたり、英語を楽しんだりしている姿を子どもに見せることが大切ですね。

23年1月号 子育てインタビュー:
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