受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

この人に聞く

アクティブラーニング型授業が主軸めざすは「新しい進学校」
大学以降も伸びる生徒を育てる

 今春、桐蔭学園の理事長に就任した溝上慎一先生は、アクティブラーニング研究の第一人者として知られています。京都大学の教授時代から同学園の教育顧問を務め、アクティブラーニング型授業の導入をはじめとする教育改革に取り組んできました。めざしているのは、大学に進んだ後、さらには社会人になった後の成長を見据えた「新しい進学校」です。学園で5年前から取り組んでいる改革の中身や、新理事長として考える学園の理想像などについてお聞きしました。

桐蔭学園理事長
桐蔭学園トランジションセンター所長・教授
溝上 慎一先生

教育改革の柱として実践する
正しいアクティブラーニングとは

SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表 髙宮 敏郎
SAPIX YOZEMI GROUP
共同代表
髙宮 敏郎

髙宮 溝上先生は、桐蔭学園において「新しい進学校」をキーワードにした教育改革を進められています。その具体的な内容をお聞かせいただけますか。

溝上 進めているのは「アクティブラーニング型授業」「探究」「キャリア教育」を3本柱とする教育改革です。めざしているのは、大学に合格させるだけの進学校ではなく、主体的な活動を通して子どもたちが育っていく学校。学園ではこれを「新しい進学校」と定義し、学園が創立50周年を迎えた2015年から、その実現に向けて改革に取り組んできました。

髙宮 溝上先生は京都大学でアクティブラーニングを長く研究されてきました。これからの教育にはアクティブラーニングが不可欠なのでしょうか。

溝上 アクティブラーニング型授業は1990年代にアメリカの大学で広まったとされます。教室で教員の話を聞く「インプット」だけではなく、グループワークや、みんなの前に出て発表するといった「アウトプット」をプラスして展開する授業です。わたしはアメリカで実際に見て、これは優れた教育手法だ、日本の学校にも広げていきたいと思いました。

 そこで、2006年ごろから、日本の大学でも、アクティブラーニング型授業の導入を推進してきたのですが、一部の極端な大学は、授業をすべてアクティブラーニングにしようとしました。それは少し違います。「インプット」プラス「アウトプット」が大切なのです。わたしがアクティブラーニングにあえて「型授業」ということばをつけて、「アクティブラーニング型授業」と言っているのは、誤った誘導をしないためです。

髙宮 アウトプットばかりで、インプットをなくしてしまうと意味がないということですね。

溝上 そうです。50分の授業なら40分が講義で10分がアウトプット、単元で考えるなら7〜8割が講義で、残り2~3割がアウトプットというのが配分の目安です。

 また、学校から仕事・社会へのトランジション(移行)の概念が入っているかどうかでもまったく違ってきます。大学でアクティブラーニングへの改革に長年かかわってきましたが、京都大学のような日本のトップ大学でも、社会に出て活躍できるかどうか、怪しい学生がいました。そういった点も踏まえて、桐蔭学園では「大学進学後」を意識した教育を行っています。

髙宮 学力が高くても、社会に出てつまずく人は少なくないということですね。

溝上 難関大学に進学する学生は、知識や思考力といった個の力は確かに高い。ところが、協働の場面でつまずく人がたくさんいます。自分の考えを持っているのに発言しない、逆に、人の目も見ないで言いたいことだけ言う。そういう学生も少なくありません。彼らは就職活動でもとても苦戦していますし、たとえ就職できても、職場で苦労します。

大学からでは伸びない
資質や能力を高める

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小田急線「柿生」駅、同「新百合ヶ丘」駅、東急田園都市線「あざみ野」「市が尾」「青葉台」各駅よりバス

TEL:045-971-1411

URL:toin.ac.jp 別ウィンドウが開きます。

髙宮 周りの人とコミュニケーションをとって協働していく力が足りず、社会に出る際につまずいてしまうのはなぜなのでしょうか。

溝上 大学が学生に“ブランド”だけ与えて、「後は社会で」とトランジションできたのは昔の話。今は、コミュニケーション力や協働する力を植え付けたうえで社会に送り出さなければなりません。しかし、いかんせん教育の力が弱い。大学で身につけるべき共通の能力、すなわち「学士力」を大学が養成できていないのです。

髙宮 学士力ということばは、産業界からも大学側からも出てきていますね。

溝上 必要性はずっと議論されていて、大学教育のど真ん中で改革を進めてきました。しかし、コミュニケーションや協働、社会への関心といった力は大学では大きくは伸ばせないのです。

髙宮 学力は高くても、そうした力は大学に入ってからでは伸びないということでしょうか。

溝上 「人間力」ともいえますが、人とかかわって自分の考えを形成し、外に出していく力は、大学生になってから簡単に身につくものではありません。高校の先生たちは、しっかり受験勉強をした生徒なのだから、そこからでも大丈夫、コミュニケーション力や探究心は大学でも伸びる。高校では志望する大学に進学できるよう、教科の勉強に専念すればいいと考えていますが、実際はそうはならないのです。

 それを全国の大学のデータで示そうと、わたしは、2013年から全国400校の約4万人の高校生を大学卒業まで追い掛ける「10年トランジション調査」を行ってきました。そこでは「他者理解力」「計画実行力」「コミュニケーション・リーダーシップ力」「社会文化探究心」という四つの資質・能力の経年変化を測定したのですが、その結果から、これらの資質・能力は大学ではあまり伸びないことがわかりました(下図参照)。

髙宮 確かに、大学入学後も、ほとんど“停滞”していますね。

溝上 社会人に求められる力も昔と今とでは違います。25歳から29歳の社会人3000人を対象にした別の調査では、「外向性」「経験への開かれ」「勤勉性」という三つのパーソナリティーをもとに、各タイプの職場での状況を見てみました(2ページの図参照)。「外向性」とは、他者や集団に向かう傾向のこと、「経験への開かれ」とは、開放性、つまり新しい物事に向かう姿勢で、好奇心や探究心と言い換えてもいいでしょう。そして「勤勉性」とは、物事に真面目に取り組む傾向のことです。図は、左に行くほど、職場での評価が高いと考えてください。

 三つのパーソナリティーが高いほど評価が高く、三つとも低ければ評価も低いのは当然です。注目すべきは、タイプ2とタイプ4です。たとえ勤勉性が低くとも、好奇心や探究心が高いタイプ2は高い評価を得ていますが、タイプ4のように、勤勉性が高くとも、これらが低ければ、評価されていません。

 職場や仕事はいろいろな人とのコラボレーションが基本で、その前提として個の作業があります。個の作業がいくらていねいにできても、協働の作業でうまくつながれなければ、仕事はできないのです。

髙宮 逆に、好奇心や探究心が高いタイプは、こつこつ努力する力が多少足りなくても何とかなるわけですね。

溝上 仕事は複数でやるものですから、こつこつやる人が補完してくれればうまくいくともいえます。

社会人に必要な四資質の経年変化

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19年7月号 この人に聞く①
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