受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

この人に聞く

縦横のつながりを生むワンキャンパスの環境 琴線に触れる豊かな学びで
0ゼロ toトゥ 1ワン」の発想力を身につける

 1912年の創立以来、建学の精神である「個性の尊重」「品性の陶冶(とうや)」「勤労の実践」を核として、全人教育を掲げてきた成蹊中学・高等学校。武蔵野の豊かな自然環境に恵まれたキャンパスには小学校から大学・大学院までが集い、総合学園のメリットを生かした教育を実践しています。小学校から高校までを成蹊学園で過ごした卒業生であり、今年4月に校長に就任された仙田直人先生に、同校の教育内容についてお話を伺いました。

成蹊中学・高等学校
校長 仙田 直人 先生

100年を超える伝統を守り
多様性のなかで個性を育む

サピックス小学部 教育情報センター部長 広野 雅明サピックス小学部
教育情報センター部長
広野 雅明

広野 貴校は、私立の旧制7年制高等学校を前身とする数少ない学校の一つです。戦後すぐに共学化に踏み切ったという点でも、時代を先取りしていたといえますね。

仙田 成蹊学園は、大正自由教育運動のなかで生まれ、創立者・中村春二先生のめざした「個性尊重の人格教育」を受け継いでいます。戦後はいちはやく男女共学としました。昔も今も、生徒が生き生きと学べる自由な校風と、男女が分け隔てなく、当たり前のように一緒に活動する精神が息づいています。

広野 校舎にも古き良き時代の香りが感じられます。

仙田 今年、四十数年ぶりに学校に戻りましたが、校内にはわたしが高校時代を過ごしたころの雰囲気が残っていて、当時の思い出がよみがえってきます。

広野 卒業生にとっては、心の故郷のような場所なのでしょうね。

仙田 そのとおりです。わたしは、ここで培ったものや思い出をよりどころにして生きてきたと思っています。これから入学するお子さんにとっても、きっと同じように人生の糧となると思います。

広野 男子と女子がいて、小学校からの内部進学者も帰国生もいて、卒業生には成蹊大学に進む者もいれば他大学を受験して進学する者もいます。入り口から出口まで実に多様ですね。

仙田 新しく来た人を自然に受け入れるのが本校の良いところです。小学校からの内部進学者は、中学入試で入ってきた生徒を気遣い、フレンドリーに話しかけるので、すぐにお互いに打ち解け合います。高校から入った生徒が行事などでリーダーシップをとっている姿もよく見られます。卒業後の進路に関しても、それぞれの選択が尊重されています。

広野 国際社会のなかでは、ことばも通じない人と協働していかなければなりません。そういう意味では、中高時代にあまり均質すぎる環境で過ごすと、自分にはない要素を持った人たちの集団に溶け込むエネルギーを失ってしまいそうですよね。

仙田 わたしが成蹊小学校に通っていたときにも、英語しか話せない児童がクラスにいましたが、どうしたら日本語が通じるかをよく考えたものです。自分も英語を学びたいとも思いながら、みんなで楽しく過ごしていました。これからの時代には、そうした多様性を受け入れる力が求められるのではないでしょうか。

歴史あるグローバル教育と
ていねいな指導が英語力を高める

イメージ1アメリカの大学生・大学院生と学ぶ国内留学型のエンパワーメントプログラム

広野 貴校には充実した留学制度があり、帰国生の受け入れにも長い歴史がありますね。国際理解教育の取り組みについて、教えてください。

仙田 まず、海外への留学制度からお話しします。本校の大きな特徴は、アメリカの名門校「10スクール」のうち、セント・ポールズ校、チョート・ローズマリー・ホール校、フィリップス・エクセター・アカデミー校の3校と国際交流プログラムを実施していることです。今年度は留学生の受け入れを再開した学校もあり、この9月から高2の生徒が3年間の留学に向かいます。現地に居住している身元保証人が必要な場合は、成蹊学園の卒業生団体が動き、アメリカ在住の卒業生が引き受けてくれています。このようなプログラムを構築している学校は少ないのではないかと思います。さらに今後は、学期単位で多くの生徒が利用できるターム留学など、良質な短期プログラムも増やしていこうと考えています。

広野 海外の高校への入学を希望する人にとって、これだけ充実したシステムがあるのは心強いですね。反対に、海外からの留学生を受け入れる場合はどうですか。

仙田 国際教育専門の教員が在籍していて、アドバイザーとしてフォローします。長年積み重ねてきたノウハウがあり、受け入れ体制がしっかりしているので、留学生には「成蹊に来てよかった」と実感してもらえています。

広野 帰国生の受け入れについてはいかがですか。

仙田 本校では、中1に「国際学級」を設置しています。生徒は15名の少人数クラスで1年間学び、中2からは一般クラスに入っていきます。国際学級では、ディベートやディスカッションなど、ネイティブの専任教員による質を高めた英語の授業を行っているので、海外で身につけた英語力をさらに磨くことができます。

広野 国際学級で勉強をスタートして、日本の学校生活になじんだころに、ほかの生徒と一緒に勉強できるようになるのは安心ですね。一般クラスでは、どのような英語教育が行われていますか。

仙田 成蹊小学校では英語の学習に熱心に取り組んでいます。そのため、中学から本格的に英語学習を始める生徒が不安にならないよう、入学時に学習経験に応じてクラスを分けますが、その差はだんだん縮まっていきます。これは、ロールモデルとなる小学校からの内部進学者や帰国生が身近にいて、生徒たちが互いに教え合う風土があるからだと思います。中1から「話す」「聞く」を重視して、発音指導も徹底的に行うようにしています。

広野 英語が暗記科目ではないことを理解するためにも、出発点での発音指導は大切ですね。

仙田 中学では、少人数で展開する指導でコミュニケーションを重視した英語力をつけ、高校では習熟度別のクラスで4技能を伸ばします。海外進学や留学をめざす生徒のために、ネイティブの専任教員によるレベルの高いTOEFL®講座も用意しています。5~10人の生徒のために開講するので、効率的ではないかもしれませんが、それも個性を大切にする本校らしさだといえます。

ワンキャンパスの環境を生かして
生徒一人ひとりの意識を高める

広野 内部推薦で成蹊大学に進学する卒業生は、どのくらいいるのでしょうか。

仙田 約3割が成蹊大学に進学しています。高校では、大学教員による模擬授業が行われます。また、一部の授業科目を履修し、単位を取得できる制度があり、自分のやりたいことと合致する内容の学部や学科がある場合に、内部進学を選んでいます。

広野 ワンキャンパスのメリットですね。

仙田 そうですね。縦のつながりを持ち続けることもできます。たとえば、高校時代に難民問題に取り組んでいた生徒が、大学生になってからも高校生と一緒に活動することもありました。

広野 大学と連携した活動は多いのですか。

仙田 中3の希望者を対象に、大学教員の講義を受ける「中3×大学ゼミ」を行っています。また、ユネスコ本部よりユネスコスクールの認定を受けている成蹊学園では、小学校から大学までが一緒にSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた取り組みを進めています。

広野 現代社会では異なる年齢の子どもが一緒に活動することが少なくなっていますが、一つのキャンパス内にいると大学の先生や学生も身近に感じられますね。

仙田 「夏の学校」と呼ばれる小学生の臨海学校や中学生の林間学校には、高校生や大学生が参加してサポートします。このようなつながりは、ほかにはあまりないと思います。

広野 他大学を受験する生徒へのフォローはありますか。

仙田 多様化する進路に対応するため、個々の教員による個別指導を充実させています。広い職員室の中に1対1で指導できるスペースがあり、一人ひとりに合わせて対応しています。

広野 学校推薦型選抜や総合型選抜では、問われるのは学力だけではありませんからね。

仙田 大学受験の2次試験などでは、暗記するだけでは得られない、もっと本質的な学びが必要になってきます。「こういうことがやりたいから、この大学へ行く」という意識を持って勉強することが大切ですし、本校にはそうした生徒が多いと感じています。わたしが夏に開講した日本史の講習にも、日本史の教員になりたいという生徒が申し込んでくれました。「校長先生がどんな授業をするのか、見てみたい」というのです(笑)。

広野 それは楽しみです。どんな内容ですか。

仙田 たとえば、仏教の伝来には538年説と552年説とがありますが、年号を覚えるだけではつまらないですよね。でも、なぜ百済が日本に仏像を贈ろうとしたのか、その理由を探めると、百済が遷都している年があることがわかります。これは隣の新羅の攻撃に対応するためで、「となると、仏像を贈ったのは日本に助けてもらいたかったからか」と、考えたほうが歴史はおもしろいのです。生徒たちにはいつも、「『なぜ』という疑問を忘れないでほしい」と話しています。

広野 「なるほど」と腑に落ちるようで、知的好奇心が高まりますね。それに、そういう分析はAIには難しいと思います。

仙田 わたしは、新たなものを創造する「0to1」の発想を育んでいこうと考えています。AIは将棋の手を何億通りも読むことができます。しかし、将棋のルールを作ったり、新たな概念を生み出すのは人間です。もし、そういうものを構築できる力を持てれば、AIが人に代わって仕事をする社会になっても安心です。

21年10月号 この人に聞く
1|

ページトップ このページTopへ