受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

この人に聞く

「アイランド教育」から「総合知」へ 教科横断型の新カリキュラムで
すべての学問に通じるスキルを養成

 山脇学園中学校・高等学校は、充実した施設・設備と最高水準の教育の実現をめざし、2010年から「山脇ルネサンス」と呼ばれる改革を進めてきました。その成果は、ここ数年の大学合格実績にも表れており、同校の躍進ぶりに注目が集まっています。これらの背景にある具体的な取り組みについて、校長の西川史子先生、中学教頭の鎗田謙一先生、学習進路部長の高桑浩一先生に伺いました。

山脇学園中学校・高等学校
左から:
校長 西川 史子先生
 中学教頭 鎗田 謙一先生
 学習進路部長 高桑 浩一先生

学校の在り方を見つめ直し
「山脇ルネサンス」が結実

サピックス小学部 教育情報センター本部長 広野 雅明サピックス小学部
教育情報センター本部長
広野 雅明

広野 初めに、「山脇ルネサンス」のこれまでの歩みについて教えてください。

西川 わたしたちがこの変革に踏み出したのは2010年のことです。「あらためて建学の精神に立ち返り、未来への指針を再定義しよう」というビジョンの下、施設と教育内容を大きく刷新しました。特に目玉となったのは、2011年に完成した「イングリッシュアイランド」「サイエンスアイランド」と呼ばれる、英語と理科に特化した教育施設です。

鎗田 イングリッシュアイランドとは、「学校の中に外国を作ってしまおう」という発想から生まれた、海外生活を疑似体験できる空間です。イギリスの町並みをイメージしたフロアには、ネイティブ教員が常駐し、気軽に英語でのコミュニケーションを楽しむことができます。

 一方、サイエンスアイランドには、最新機器をそろえた顕微鏡室や研究室を配置。本格的な実験や研究が可能な、大学レベルの教育環境が整いました。

広野 ここまでコンセプトを作り込んだ施設は、なかなか珍しいですね。

西川 反響は大きかったですね。施設のコンセプトを明確にし、そこで育てたい力を具体的なプログラムで示すことができれば、受験生や保護者の方に伝わる魅力は大きい、と思いました。さらにそこで行われている授業やプログラムに取り組む生徒の姿を見たり、一緒に体験をしたりしていただけると、「ここで学びたい」と思うお子さんや、保護者の方の入学後のイメージにつながることを感じました。

 イングリッシュアイランドとサイエンスアイランドができてから12年、ここでの学びを経て、多くの生徒たちが志を育てて巣立っていきました。プログラムは少しずつの改良を経て、現在も本校のカリキュラムを貫く大切な柱になっています。サイエンスアイランドでは、自然科学をテーマにした探究活動とデータを集めて正しく分析できる科学の活用力の育成を、イングリッシュアイランドでは、英語でディスカッションできるコミュニケーション力と表現力の育成をめざして実践的な活動を展開しており、学会やコンテストなどで実績を上げる生徒も出てきています。

広野 12年の年月をかけて「山脇ルネサンス」のコンセプトが浸透し、成果が結実してきたのですね。

生徒主体の進路指導で
多種多様な進路を実現

広野 さて、2022年春の卒業生は、現役で早慶上理に延べ77名、GMARCHに延べ300名が合格しています。ここ最近の実績の伸びには目を見張るものがありますね。

高桑 生徒の意思を尊重しながら、進路指導に当たっていることが大きいと思います。たとえば、進路相談の際に、生徒が「○○大学に行きたい」と話してくれたら、教員は「どうして?」「卒業後にどんなことがしたいの?」と、その理由をできるだけ深く掘り下げて聞くようにしています。そうすると、動機の根っこの部分から、「こういう大学もあるよ」「こういう学部もあるよ」と、広く選択肢を提示することができます。生徒自身が「行きたい」と志望する大学というのは、おのずと質の高い教育を行う“難関校”に集中しますから、結果として、それが合格実績の向上につながっているのだと思います。

広野 一人ひとりに寄り添った進路指導の先に、結果がついてきているということですね。キャリア教育には中学から力を入れているのでしょうか。

高桑 中学の間は、具体的なキャリア教育よりも、自分と社会とのつながりを学ぶことを重視しています。自分が大切にしたい価値観や、幸せだと感じる生き方をまず明確にしないと、その先の進路を具体的に描けないからです。入試科目の関係で、早めに志望校を決めたほうが有利な面もありますが、生徒には「あまり焦らないように」と話しています。成長段階によって価値観も変わってきますし、早期に志望校を固めることで、自分の可能性を狭めてほしくないからです。

広野 いろいろな選択肢を考えて、できるだけ多くの科目を履修しておくことは、その後の人生の財産にもなりますね。進学先の傾向や特徴はありますか。

西川 約9割は4年制大学に進みますが、なかには宝塚音楽学校に進学する生徒もいますし、海外大学に進学する生徒もいます。本校には中高合わせて約1600人の生徒がいますから、その数だけ、多様な進路があっていいと思っています。強い「志」を軸に自分の進路を切り開き、夢を実現する生徒が増えてきたことは、喜ばしいと感じています。

本格的な研究活動を実践する
二つの「チャレンジプログラム」

広野 そうした希望進路の実現には、相応の学力養成が必要だと思います。生徒たちの力を伸ばす、独自のカリキュラムについて教えてください。

西川 イングリッシュアイランドとサイエンスアイランドに紐付く教育として、中3の希望者を対象に、「英語チャレンジプログラム」と「科学研究チャレンジプログラム」を設けています。

 英語チャレンジプログラムでは、朝礼や終礼、ホームルーム活動、SDGsをテーマにした探究活動を英語で行います。年度末にはイギリスに赴き、ホームステイをしながら現地校の語学研修に参加する機会も設けています。一方、科学研究チャレンジプログラムでは、中3進級時にロボット・パソコン・生物の3グループのいずれかを選択。それぞれにテーマを設定し、研究活動を行います。また、「西表島野生生物調査隊」を結成し、沖縄県西表島でのフィールドワークなども体験します。

広野 中学生とはいえ、本格的な研究活動を実践していらっしゃるのですね。

鎗田 今年度から、高1に「サイエンスクラス」を新設しました。中3の科学研究チャレンジプログラムを発展させたクラスとして、学会での発表やコンテストへの出場をめざす生徒を積極的に育てていきたいと考えています。同様に、中3の英語チャレンジプログラムからつながる高1の「国際教養クラス(仮称)」も、2025年度までに設置する予定です。

広野 中学で培った興味・関心を、長いスパンで掘り下げることができますね。生徒にとっても非常に有意義な試みだと思います。

22年9月号 この人に聞く
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