この人に聞く
「総合知」をコンセプトにした
新しいカリキュラムを編成
広野 昨年度から新たなカリキュラム「総合知」をスタートさせましたね。
西川 これまで、イングリッシュアイランドやサイエンスアイランドを活用した、いわゆる「アイランド教育」に力を入れてきたわけですが、それらはいわば“点と点”の状態でした。そこで、その“点と点”を一本の“線”でつなぎ、教科横断的なカリキュラムとして再構築したのが、この「総合知」です。
具体的には、文章を読む力や書く力を養う「知の技法」、探究活動の基礎的な手法を学ぶ「サイエンティストの時間」、エクセルを使った統計処理を学ぶ「探究基礎」などがあります。これらの授業は「総合知」のために新しく作られたものではなく、これまでに実績のある授業ばかり。これらを「総合知」として編成し直すことで、社会で活躍する力を育むという授業の目的がより明確になったように感じます。
左から、中学教頭 鎗田謙一先生、サピックス小学部 広野雅明先生、校長 西川史子先生、学習進路部長 高桑浩一先生
広野 これからの時代、一つの教科だけで収まる学びでは、複雑化する課題に対処できません。柔軟な対応力を身につけるためにも、「総合知」の学びが役に立ちそうですね。
鎗田 そのとおりです。そのために大事にしているのは、「全員が学ぶ」ということ。あえて選択制にはせず、どの学部に進んだとしても活用できる、汎用的な学びを提供することで、それぞれの志の実現に役立ててもらおうと考えています。
広野 どんな学問にも通用する実践的なスキルが身につきそうですね。さて、貴校は、「志」ということばを大切にしていらっしゃいます。そこには、どういう思いが込められているのでしょうか。
高桑 漢語としての「志」には、「高い目標に向かって進む」という意味があり、和語としての「志」には、「愛情」や「お礼」といった意味があります。つまり、「志」は、自分と他者という、ベクトルの異なる二つに心を向ける意味を含んでいるのです。生徒にめざしてほしいのは、他者への貢献を通じて自己実現をする、まさにこの「志」の精神というわけです。
西川 本校の校歌には「努め励みて世に立たん」というフレーズがあります。これもまた、「自己実現をしたうえで社会貢献をせよ」というメッセージです。代々受け継がれてきた山脇のアイデンティティーを、「志」というキーワードに集約させたことで、生徒たちの理解も深まり、日々の行動の指針となっています。
自分なりの課題を見つけて
研究に取り組む姿勢を重視
広野 貴校は来年で創立120周年を迎えます。今後の展望を教えてください。
西川 現在は、中1・2が約35名×8クラスで、中3になるとスタンダードクラスが4クラス、英語チャレンジプログラムが2クラス、科学研究チャレンジプログラムが1クラスという編成ですが、来年度からは、スタンダードクラスを「マイチャレンジクラス」に改称し、自分ならではの研究課題を見つけて、それを追究する生徒を育てたいと考えています。
ネイティブ教員が常駐するイングリッシュアイランド(EI)では、英語をツールとした活動を楽しみながら、4技能5領域をバランス良く伸ばします
たとえば、バスケットボール部の所属であれば、「どの角度でシュートを打てば得点率が上がるか」、吹奏楽部の所属であれば、「どういう練習をしたら上手に演奏できるか」など、身近なテーマでいいので、それぞれに研究活動を進めてほしいと思っています。生徒がどんな課題を立て、どう挑戦していくのか、今から楽しみです。
鎗田 これまでは、科学研究チャレンジプログラムでのみ、研究発表大会を開催していましたが、来年度からは、マイチャレンジクラスと英語チャレンジプログラムでも、生徒主導の研究発表大会を開こうと企画しているところです。
広野 全員に研究発表の場が設けられるとなると、研究レベルもさらに上がりそうです。一方で、高大連携の取り組みにも力を入れていますね。
本格的な実験・研究設備を整えたサイエンスアイランド(SI)には、生物・物理・化学の五つの実験室と、中学二つ、高校三つの継続研究室があります
高桑 積極的に理系の人材を育てていこうという狙いから、先日、芝浦工業大学と連携協定を結びました。この夏休みには、大学の研究室の協力を得て、高1・2の希望者が大学の研究室で研究に取り組むサマープログラムを計画しています。将来的には、そこで素質があると認めてもらえた生徒は、指定校推薦枠を使って大学に進学できるような制度を設けるなど、さまざまな広がりが生まれることを期待しています。
広野 女性研究者を増やすという視点からも、画期的な試みになりそうですね。最後に、受験生の保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
高桑 志望校を検討する際、お子さん自身が「合う」と感じる学校を選んだら、保護者の方には、「この学校のどこが気に入ったの?」「入ってどんなことがしたいの?」とお子さんの動機を掘り下げ、その学校について一緒に確認してもらいたいと思います。たとえ、保護者の方が想定していなかった学校を挙げてきたとしても、初めから否定するのではなく、本人が学校選びで大切にしている価値観に寄り添って、お子さんが自分の力で人生を切り開く第一歩を、温かく応援してあげてください。
議論やプレゼンテーションを行うリベラルアーツアイランド(LI)は、2022年度中に「探究活動」の拠点「Learning Commons」として生まれ変わります
鎗田 目の前に中学受験という目標があると、受験生本人も保護者の方も視野が狭くなりがちです。そんなときは、アジアや世界、宇宙を想像し、広い空間から見た自分をイメージしてみてください。あるいは、時間を超えて、2040年、2050年の自分を想像してみるのもいいでしょう。そうすると、今の自分に足りないもの、やらなければならないことがおのずと見えてくるのではないでしょうか。目の前のことにとらわれすぎず、視座を高く持って受験に臨んでほしいと思います。
西川 わたし自身、母として中学受験、高校受験、大学受験のすべてを経験しましたが、中学受験の時期がいちばん苦しい思いをしました。本人の前でため息をついたり、「そんなことならやめてもいいのよ」と言ってしまったり。一般的にタブーとされる言動はひと通りやりました(笑)。そんなわたしから皆さんにお伝えできるのは、「良いときも悪いときも笑顔でいる」ということです。
この春の高校卒業生のアンケートを見てみると、中学入学時に、本校が「第一志望校ではない」と答えていたのは、全体の55%でした。しかし、高3の卒業時には97%が「この学校に来てよかった」と答えています。生徒は入学した学校で新たな志を見つめ、しっかりと歩き出せるということ。ただ、子どもの気持ちをうまく導くためには、保護者の方の働き掛けが必要不可欠です。どうか、お子さんの力を信じ、どんな結果もプラスに変える前向きなサポートをお願いします。それは保護者の方にしかできないことなのです。

山脇学園中学校・高等学校
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