受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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2018年5月のBooks

 新緑の候。鮮やかな緑と、色とりどりの花が目を楽しませてくれる季節になりました。今月の「先生お薦めの一冊」は、指一本で花を咲かせることができる少年の物語です。少年が花を次々と咲かせる場面を読むと、自分まで花に包まれたような気分になります。シンプルな物語のなかに深いメッセージが込められた『星の王子さま』に似た雰囲気の童話です。はらはらする冒険物語も楽しいですが、たまにはこんなひと味違う雰囲気の物語も読んでみませんか。

『今日よりは明日はきっと良くなると 愛犬・太刀と暮らした16年

  • 茂市久美子=著
  • 講談社=刊
  • 定価=1,200円+税
  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

震災後の苦難の日々 心の支えになったのは 愛犬の存在だった

注目の一冊

 岩手県大槌町に住む小畑幸子さんは、東日本大震災で一人息子の剛さんを失いました。自宅も流されました。剛さんの遺体は地震から4か月以上たってから見つかりましたが、それから1か月後、夫の士さんも息子の捜索中のけがが原因で、亡くなりました。そのとき幸子さんは76歳。乳がんを患っていましたが夫には知らせず、葬儀後に手術をしました。幸い手術は成功し、新しい家に落ち着いたのもつかの間、今度は大腿骨を骨折するという大けがをします。「なぜ自分には次から次へと不幸なことが起こるのだろう。このまま寝たきりになったらどうしよう」
 そんなつらく苦しい日々の心の支えになったのは、愛犬の太刀の存在です。どんなに苦しいときも、幸子さんのそばにいた太刀。剛さんが津波で行方不明になったとき、がれきだらけになった自宅跡の地面を一生懸命に掘っていたという太刀の姿は涙を誘います。
 震災後、それについて書かれた数多くの本が出版されました。被災地の人々がどんな毎日を送ってきたのか、うかがい知れないものがありますが、本書も含めて感じられるのは、ことばでは表せないほどの苦難にあっても、人はまた立ち上がり歩いていく、その強さへの敬意です。わたしたちは毎日、ふだんどおりの生活があることに何の疑問も抱かずに過ごしていますが、「毎日を穏やかに暮らせることは奇跡のようなことだと思う」と同じ岩手県出身の著者は言います。明るく前を歩き始めた幸子さんに勇気を与えられるとともに、自分の今を振り返るきっかけを与えてくれる一冊です。

『きょう、おともだちができたの』

  • 得田之久=作
  • 種村有希子=絵
  • 童心社=刊
  • 定価=1,300円+税
  • 対象:幼児向け

「またあしたね」初めてできたお友だち 明日も遊んでくれるかな

 恥ずかしがり屋で泣き虫のゆうなちゃんに、お友だちができました。名前はりなちゃん。ゆうなちゃんはうれしくて、お母さんにもお父さんにも、そして恥ずかしくて話し掛けられなかった八百屋のおばさんにも話しました。でも夜になるとちょっと心配になりました。りなちゃん、明日も遊んでくれるかな。
 友だちができたうれしさが、どのページからも伝わってきます。主人公の気持ちの揺れ動きがていねいに描かれ、気持ちの変化が絵の色使いでも表現されています。八百屋のおばさんはお祝いに果物を一つくれますが、友だちができることはお祝いするくらいすばらしいことなのだと、あらためて気づかされます。

『おばあちゃんとおんなじ』

  • なかざわくみこ=作
  • 偕成社=刊
  • 定価=1,300円+税
  • 対象:幼児向け

おばあちゃんも 昔はわたしと同じ、 子どもだったんだね

 「なっちゃんは、おばあちゃんによく似ているなあ」。おじいちゃんはいつもそう言います。でもなっちゃんは、ずっと年の離れているおばあちゃんの顔が自分と似ているとは思えません。そんなある日、おばあちゃんと買い物に出かけたなっちゃんは、おばあちゃんがお店の人と立ち話をしているとき、迷子のネコを追いかけて、道に迷ってしまいます。
 ふとしたことから、おばあちゃんにも、子ども時代があったことを知ったなっちゃん。おばあちゃんと自分がなぜ似ているかに気づいてうれしくなります。何気ない日常のなかの2人のやりとりに心が温まります。割り箸で輪郭を描く画法を用いて、ていねいに描かれた絵にも注目です。

『かぶきわらしの義経千本桜よしつねせんぼんざくら

  • 庄司三智子=文・絵
  • 出版ワークス=刊
  • 定価=1,800円+税

  • 対象:小学校低学年向け・小学校中学年向け

大がかりな仕掛け、 物語のおもしろさ、 絵本で味わう人気演目

 歌舞伎の有名な演目「義経千本桜」は、兄・頼朝の追っ手から逃げる義経と、恋人の静御前、お供をする家来の佐藤忠信、そして滅んだはずの平家の人々が織りなす物語です。その舞台を芝居小屋に住む「かぶきわらし」の男の子がわかりやすく解説します。
 見どころは、歌舞伎の大がかりな仕掛け「けれん」を、仕掛け絵本で再現したところ。階段から姿を現した忠信が次の瞬間、床下から出てくる「床下の早抜け」、宙に吊られて舞台の上を飛び回る「宙のり」など、ダイナミックな仕掛けの臨場感が味わえます。ことば遊びのようなセリフや、趣向を凝らしたストーリー展開など、歌舞伎の魅力のエッセンスが詰まった絵本です。

『ぼくらのジャロン』

  • 山崎玲子=作
  • 羽尻利門=絵
  • 国土社=刊
  • 定価=1,300円+税
  • 対象:小学校中学年向け

河原にあった 謎の勇者の石像 誰が何のために?

 4年生のそんとく。家はお寺で、朝は毎日、本堂の雑巾がけ。庭の落ち葉掃きや草取り、お客さんへのお茶出しも言いつけられます。なんでお寺に生まれたんだろうと、そんとくは時々思うのでした。ある日、友だちと3人で出掛けた河原で、作りかけの謎の石像を発見したそんとく。3人はその石像を「勇者Ⅹ」と名付けます。一体誰が何のために作ったんだろう。それを探りに夜中に河原に行くことになりました…。
 一つの石像と作った人の思いをめぐって、人と人とのつながりの大切さを知り、前を向いて踏み出していく少年の物語です。河原に謎の石像が作られたという、実際に起こった出来事に着想を得て書かれた物語です。

『しだれ桜のゴロスケ』

  • 熊谷千世子=作
  • 竹熊ゴオル=絵
  • 文研出版=刊
  • 定価=1,300円+税

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

絶対にヒナを探すんだ 探して家族の下に 返してあげるんだ!

 父さんの転勤で、母方の祖父母の家で暮らすことになった李乃と弟の由宇。由宇には、土砂崩れで母さんと車ごと埋まって自分だけ助かった過去があるので、李乃はいつも由宇を気遣っています。祖父母の家の裏にはしだれ桜があり、以前、フクロウの家族が住んでいたことを知った李乃は、森にフクロウを探しに行くことにしました…。
 幼いころ、フクロウの家族を見て育った母。ヒナを育てる母フクロウの姿に、李乃と由宇は母の姿を重ね合わせます。珍しいフクロウの生態がよくわかり、興味を駆り立てられます。自然界でたくましく生きるフクロウとの出会いを通じて、家族が少しずつ前に歩き始める姿を描きます。

『みどりのゆび』

  • モーリス・ドリュオン=作
  • 安東次男=訳
  • 岩波書店=刊
  • 定価=640円+税

指一本で花がいっぱい!! 町がどんどん変わっていく様子が まるで奇跡を見ているよう


町田校 校舎責任者
福泉 秀司 先生

 主人公は、お父さんが兵器工場を経営する裕福な家庭で暮らすチトという少年です。チトはあるとき自分が「みどりのゆび」という力を持っていることを知ります。どんなところでも、指で触れば草花を咲かせることができる不思議な力です。チトは刑務所や病院、動物園などを次々と花でいっぱいにして、人々の心を豊かにしていきます。
 わたしが初めてこの物語を読んだのは、小学校4年生のときです。花を咲かせて人々を幸せな気持ちにしていく展開が痛快で、一気に読んだのを覚えています。たくさんの草花によって町がどんどん変わっていく様子が、まるで身近に起こった奇跡を見ているようでわくわくしました。
 その後も何回か読んでいますが、大人になってから読むと、また違う読了感があります。大人になると先入観にとらわれて、子どもたちを枠にはめようとしがちです。でもチトは枠にはまらず、物事を純粋にとらえて自由な発想で解決していきます。その姿がおもしろく、また物語の展開だけでなく、出てくるすてきなことばやチトの純粋な視点に勇気づけられます。たとえば、歩く希望をなくしている病気の女の子の病室をチトが訪れる場面があります。チトはそのとき「病気を治すには生きる望みを持つことが大切だ」ということに気づきます。そして病室に花をいっぱい咲かせます。その日の夕方、女の子は歩けるようになり、「女の子は生きていることが楽しくなったのです」ということばでその章は終わっています。
 フランスの童話には、物語の筋よりもきめ細かさ、詩的な雰囲気やことばのおもしろさを大切にして、それらをうまく使って宝石のような美しい文章を作り出す。そんな特徴があるということが巻末の「訳者のことば」に書かれています。多感な時期の皆さんがこうした詩的な童話を読むことによって、心の糧にしていただけるとうれしいです。

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