受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2018年8月のBooks

 「事実は小説よりも奇なり」ということばがあります。現実に起こる出来事は、想像で作られた小説よりも不思議だという意味です。今月紹介する2冊の絵本はまさにこのことばどおり。一つは第一次世界大戦下の日本の捕虜収容所で、もう一つは同じ時代のカナダの森で、実際に起こったことが描かれています。どちらも「こんなことが本当にあるんだ」と驚かされるすてきなお話です。時にはこんな一味違う絵本も読んでみませんか。

『森のおくから むかし、カナダであったほんとうのはなし

  • レベッカ・ボンド=作
  • もりうちすみこ=訳
  • ゴブリン書房=刊
  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校低学年向け・小学校中学年向け

怖い山火事のさなかに 起こったこと、それは 奇跡のような出来事だった

注目の一冊

 カナダの森にある小さな町、ゴーガンダに住む少年、アントニオ。お母さんは湖のほとりでホテルを営んでいます。しゃれたホテルではありませんが、建物は3階建てで、大きな食堂といくつもの客室、そして二段ベッドが並ぶ大きな部屋がありました。大部屋には猟をする人や木を切り出す人など、何か月も森で働く人たちが泊まっていて、夜にはトランプをしたり、楽器を鳴らしたり、手柄話にどっと笑い声が起こったり。アントニオはそんな雰囲気が好きでした。
 アントニオが5歳になる夏、日照りが何日も続いた後のことでした。ホテルの客が森を見て大声を上げました。山火事です。火はまたたく間に広がり、アントニオも家族もホテルの客たちも慌てて逃げました。ところが逃げた先で、思いもよらないことが起こったのです。
 自然のなかでの人間と動物の出会いを描いた物語。何も知らなければそう思うだけかもしれません。でもこのお話が100年ほど前に本当に起こったことだと知れば、それだけで深い感動に包まれるのではないでしょうか。アントニオは作者のおじいさん。おじいさんが体験したことを子どもたちに語り、それをお母さんが作者に語ったことでこの絵本は生まれました。もし、おじいさんやお母さんが子どもたちに伝えなかったら、この奇跡のような出来事は誰にも知られることがなかったかもしれません。人間と動物の共存について、あるいは人間としての根源的な生き方について深く考えさせられるとともに、語り伝えることの大切さも教えてくれる絵本です。

きょうだいぎつねの コンとキン』

  • 村山桂子=作
  • 岡田千晶=絵
  • フレーベル館=刊
  • 定価=1,300円+税
  • 対象:幼児向け

「にんげんの子だ!」 泣いている子を見て きつねの兄妹は…

 いいお天気の日、外に遊びに行ったコンとキン。そこへ小さなウサギがやってきました。「うさちゃん、どうしたの?」と聞いてもウサギは泣くばかり。どうやら迷子のようです。コンとキンはウサギの家を探してあげることにしました。家はじきに見つかりました。それから2~3日たった日のこと。コンとキンが外で遊んでいると、泣き声が聞こえてきました。泣いていたのは、今度は人間の女の子でした。
 「人間には気をつけるんだよ」といつもお母さんに言われているコンとキン。困っている人間の女の子を見てどうするでしょう。「こんなふうに人間と動物が仲良くできたら」という気持ちになる、心温まる物語です。

交響曲こうきょうきょく第九だいくよろこびよ未来みらいへ!』

  • くすのきしげのり=作
  • 古山拓=絵
  • PHP研究所=刊
  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校低学年向け・小学校中学年向け

捕虜の兵士は言った 「歌いたい、 生きている喜びを」

 今からちょうど100年前の1918年6月。日本で初めてベートーベンの交響曲「第九」が演奏されました。場所は徳島県にあった板東俘虜収容所。演奏したのは捕虜となったドイツの兵士たちです。戦時下の捕虜収容所で、なぜそんなことができたのでしょうか。
 第一次世界大戦のとき、日本は中国の青島にあったドイツの根拠地を攻め、たくさんのドイツ兵を捕虜にしました。その一つ、板東俘虜収容所で実際にあった出来事をもとに書かれた物語です。戦争とは何か、人間の尊厳とは何か、平和とは何か、人と人とのつながりとは何か。歴史を習うなかでは語られることのない一つの出来事が、多くのことを考えさせてくれます。

四重奏カルテットデイズ』

  • 横田明子=作
  • 岩崎書店=刊
  • 定価=1,400円+税
  • 対象:小学校高学年向け

音楽はみんなを幸せにする 独りで弾いていても 幸せにはなれない

 タカは小さいころからピアノ教室に通っています。そのピアノ教室にドイツからの帰国生、マイが通い始めます。マイのピアノは音楽高校を受験するレベルの腕前。それに引き換えタカは、ろくに練習したこともありません。そんなタカの様子に、母は「ピアノをいとこにゆずろうか」と言い出します。
 12歳の主人公たちが、音楽をテーマに、迷いながら、悩みながら自分の道を探す姿を描く物語です。コンクールだけを目標にしてきた自分を振り返って、マイが言います。「音楽って誰かと分け合わなきゃもったいない。だから音が出る。響くんだもんね」。人の心を揺さぶる力、人と人とをつなぐ力、そんな音楽の力を感じさせてくれる物語です。

『ひとりぼっちの教室』

  • 小林深雪、戸森しるこ、吉田桃子、栗沢まり=作
  • 牧村久美=絵
  • 講談社=刊
  • 定価=950円+税

  • 対象:小学校高学年向け

加害者、被害者、傍観者 いじめをテーマに描く 中学生の「今」

 中学3年生の穂花はクラスでいじめにあっています。おしゃれでかわいい穂花は、夏休み前まではクラスのアイドル的存在でした。それががらりと変わったのです。実は穂花にはいじめをした過去があります。友だちを取られた嫉妬から、地味で真面目な千湖を仲間外れにしたのです。今になって、千湖が見ていた景色がどんなものだったかがわかる穂花でした。
 異なる作者による、いじめをテーマにした四つの物語を集めています。主人公はどれも中学生。いじめの加害者、被害者、そして傍観者。立場を変えた主人公たちが、周囲との関係を築き直すことで、自分を見つめる苦しさから解き放たれていく姿を描きます。

『司法の現場で働きたい! ー弁護士・裁判官・検察官

  • 打越さく良、佐藤倫子=編
  • 岩波書店=刊
  • 定価=860円+税
  • 対象:小学校高学年向け

弁護士、裁判官、検察官 13人の法律家が語る 仕事のやりがいと難しさ

 弁護士、裁判官、検察官として活躍する13人の法律の専門家たちが、今の職業をめざした理由、仕事のやりがいや難しさなどについて語ります。
 13人のうち8人は弁護士ですが、弁護士といってもさまざま。犯罪の被疑者の権利を守るために働く人、女性差別の問題を主に扱う人、労働者の権利を守るために働く人、非行で捕まった子どもを弁護、支援する人などさまざまです。また、13人のうち10人が女性です。まだ男性の職業というイメージがある法律家ですが、女子もめざしてほしいというメッセージが伝わってきます。進路選択への悩みや仕事をするに当たって大切にしている信念なども描かれているので、進路選択をするときの参考になるでしょう。

『センス・オブ・ワンダー』

  • レイチェル・カーソン=著
  • 上遠恵子=訳
  • 新潮社=刊
  • 定価=1,400円+税

身の回りにある自然の 驚くほどの豊かさに 気づかせてくれる壮大な本


豊洲校 校舎責任者
佐脇 洋一郎 先生

 著者はアメリカの海洋生物学者であり、ベストセラー作家でもあった女性です。一般には1962年に出版され、農薬が環境にもたらす甚大な影響をいち早く告発した『サイレント・スプリング』(邦題『沈黙の春』)の著者として有名です。今回紹介する『センス・オブ・ワンダー』は、彼女が自身の姪の息子と共に、彼女の別荘近くの森や海辺に出掛けたときの経験をもとに書かれたものです。
 「センス・オブ・ワンダー」とは「神秘さや不思議さに目を見張る感性」という意味です。年を重ねるほど、便利な生活を追求するほど、関心や興味の焦点は人工的なものにいきがちで、この感性は悲しいほどなくなっていきます。わたしが初めてこの本を読んだのは10年以上前ですが、そのときも、今回読み直しても、自分自身にこの感性がなくなっている事実に愕然としました。この本には美しい写真が多く添えられています。たとえば、赤い実を付けた低木の植物が地面に生えている写真があります。わたしはこれを「赤いかわいい実をつけた小さな木」とだけ認識するわけですが、巻末にある写真の説明を見ると、「トナカイゴケのじゅうたんとヒメコウジの赤い実」とあります。つまりわたしの目には単に無機質な背景であった地面のコケこそが、この写真の主題なのです。やはり感性を失っているようです。
 わが家には2歳にもならない男の子がいますが、庭に出ると黄色い大きなボールではなく雑草や石に、公園に出掛けると遊具ではなく木の葉や小さな虫に執着します。「ボールを投げてごらん」とか「滑り台で滑ってごらん」と言いたくなりますが、子どもの「センス・オブ・ワンダー」を尊重して見守らなくてはいけないな、と自分を戒める今日このごろです。短い本で1時間もあれば読み通すことができます。でも温かい読後感を与えてくれ、身の回りの何げない自然の驚くほどの豊かさに気づかせてくれる壮大な本だと思います。ぜひおうちの方も読んでみてください。

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