受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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2018年9月のBooks

 タイムスリップして江戸時代に行くとしたら何をしたいですか。今月紹介する『大坂オナラ草紙』の主人公は、絵が得意なことから、かわら版屋の絵師になります。現代でいえば、新聞社のイラストレーターかカメラマンみたいなものです。取材するのは外国から来た「象さま行列」です。ゾウが珍しい江戸時代、衣食住はもちろん、車の音がしない静けさも、街灯がない夜の暗さも、今とは大違い。そんな時代の空気を感じに、主人公と、一緒にタイムスリップしてみませんか。

『ビューティフル・ネーム』

  • 北森ちえ=作
  • 片山若子=装画
  • 国土社=刊

  • 定価=1,300円+税

  • 対象:小学校高学年向け

息が楽にできる方向に 人生を変えたいなら 勇気を出すしかない

注目の一冊

 クラスで「すみっこの人」と陰口を言われている主人公。休み時間は席にじっと座って文庫本を読み、昼休みは独りでお弁当を食べる毎日です。夏休み、先生の勧めで申し込んだ大学主催の中学生対象「サイエンスプロジェクト」が始まりました。主人公は担当の男子大学院生と一緒にラットを使った研究をすることになり、大学院生をブラックさん、自分をレッドさんと呼び合うことに決めます。2人が取り組んだ研究テーマは「名前をつけて育ったラットは、名前のないラットに比べて幸せになるかどうか」。ところがある日、ラットがいる動物実験棟で事件が起こりました。
 周囲からまるでそこにいないかのように扱われ、名前を呼ばれないことに悩む女子中学生が、科学イベントでの出会いをきっかけに変わっていく姿を描きます。ブラックさんとレッドさんの実験の様子がおもしろく、こうやって研究は進められていくのかと興味が湧いてきます。年齢は離れていても共通点が多く、すべてを語らなくてもわかり合える2人。人生でそんな存在に出会えたらどんなに幸せだろう、と思えてくると同時に、案外そう遠くないところにそういう人はいるのかもしれない、という気になります。
 主人公の本当の名前は明かされないまま、物語は進んでいきます。それだけに、終盤で初めてブラックさんがレッドさんの本当の名前を言う場面では、名前を呼ばれることの重さが伝わってきます。一人ひとりが名前を持つかけがえのない存在であることを描いた、希望に満ちた物語です。

『くいしんぼうのおつきさま』

  • なかたみちよ=作
  • 文研出版=刊

  • 定価=1,300円+税

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

やせたり太ったり 形を変えるお月さま その秘密とは?

 太陽が沈むと開店する星空レストラン。お店の前には早くも、おなかをすかせたお客さんが来ています。お月さまです。もうすぐ夜だというのに、おなかがぺこぺこで空に上っていけないのです。そこでコックさんはバナナを持ってきてあげました。バナナを食べたお月さまは、バナナの形になって西の空で輝きました。ところが少しすると、お月さまは再び下りてきました。バナナ1本ではすぐおなかがすいてしまうのです…。
 楽しみながら月の満ち欠けが学べる絵本です。お月さまは三日月、半月、満月と、どんどん太っていきます。三日月がバナナだとしたらさて、半月と満月になるときは、どんな食べ物を食べるのでしょうか。

『漢字はうたう』

  • 杉本深由起=詩
  • 吉田尚令=絵

  • あかね書房=刊
  • 定価=1,300円+税

  • 対象:小学校低学年向け

漢字の形から膨らむ 豊かなイメージを 詩とともに楽しむ絵本

 たとえば「字」という漢字。「宀」と「子」に分けると、どうでしょう。子どもの上にベレー帽がのっているように見えませんか。「傘」はどうでしょう。人が4人、一つの傘の下で窮屈そうに、でも仲良く譲り合って雨宿りしているように見えないでしょうか。
 漢字の各部分には、もともとの意味がありますが、それにとらわれずに見てみると、いろいろな方向にイメージが膨らみます。そんな漢字から感じ取れるイメージを詩にして、それぞれに楽しい絵を付けています。こんなふうにイメージできれば、難しい漢字の読み方や書き方も忘れにくくなり、漢字練習の宿題も楽しくなるのではないでしょうか。

『大坂オナラ草紙』

  • 谷口雅美=作
  • イシヤマアズサ=絵

  • 講談社=刊
  • 定価=1,300円+税

  • 対象:小学校高学年向け

現代では学級新聞係 江戸時代ではかわら版屋 行ったり来たりで大忙し

 平太は、似顔絵が原因で親友を傷つけた過去が忘れられず、転校先でも友だちをつくる気になれません。心配した先生は、平太を学級新聞係に誘います。ある日、家の納戸で古い本の冊子を見つけた平太。落ちた冊子を拾おうとして手を伸ばした瞬間、ページの中に引き込まれていきました…。
 過去にタイムスリップする物語はよくありますが、ここでは絵が得意で新聞係の平太が、江戸時代の新聞「かわら版」屋の絵師になるところにおもしろさがあります。盗人の人相書きを描いたり、外国から来たゾウの「象さま行列」をスケッチしたり、特技を生かして大活躍。描くことで人々がつながっていくことが伝わる、人情味あふれる楽しい物語です。

『さよなら、ぼくらの千代商店』

  • 中山聖子=作
  • 岩崎書店=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校高学年向け

「どこかに行ってしまいたい」 願えば現れる謎のバス、 さてその行き先は?

 模擬テストの結果が返される日、英太は塾の前まで来たのに、中に入るのをやめてしまいます。ひどい点数を見たときの父と母の顔を想像すると、塾に行く気になれなかったのです。思わず目の前のバスに飛び乗る英太。バスを降りると、そこには木造の古い建物があり、「千代商店」という看板が掛かっていました。
 周囲との人間関係に息が詰まりそうになったり、自分と友だちを比べて沈んだ気持ちになったり。そんな小学生が経験する四つの物語を収めています。どこか違う場所に行きたい。そう思ったときバスが連れていってくれる懐かしい場所、千代商店。そこで昔を思い出すうちに、何かが子どもたちの心を変えていきます。

『世界の海へ、シャチを追え!』

  • 水口博也=著
  • 岩波書店=刊

  • 定価=940円+税

  • 対象:小学校高学年向け

家族愛、知性、好奇心…。 生き生きと語られる 海の王者の意外な素顔

 カナダのバンクーバー島と本土の間のジョンストン海峡。水を切って走るボートの真横に黒い背びれが姿を現します。直後に浮上する黒い巨大な背中。力強く噴き上がる白い息。続いて現れる黒い背中の群れ。辺りに生き物が発するにおいが漂います。そのとき著者は、シャチたちが吐き出した空気を呼吸していました。
 シャチを追って世界中の海を駆け巡ってきたカメラマンだけに、臨場感あふれる文章はまるでドキュメンタリー番組を見ているかのようです。大きく力強いシャチは、一方で知性があり、好奇心が旺盛。家族間には強い絆も感じられます。そうしたシャチの興味深い生態を、海の汚染問題にも触れながら、豊富な写真とともに生き生きと伝えます。

『子どもの難問 哲学者の先生、教えてください!

  • 野矢茂樹=編著
  • 中央公論新社=刊

  • 定価=1,300円+税

文中のひと言でもいい、 人生において何かを考える きっかけにしてほしい


海浜幕張校 校舎責任者
滝田 浩一 先生

 子どもたちは、純粋にいろいろな質問をしてきます。たとえば「勉強しなくちゃいけないの」。これに対して哲学者の一人はこう答えます。「勉強しなくても大丈夫です。勉強をやめてもすぐ死ぬようなことはありません」。「あれ?」と思って読み進めると、勉強しなくてもすぐに死にはしないけれど、生き続けるのは苦しくなる。でも勉強が必要なのは生きるためだけではない。たとえば宇宙がどうなっているか知りたくないだろうか。勉強するのは何のためでもなく、「知ること自体が大きな喜びだからです」と結びます。
 この質問以外に「頭がいいとか悪いとかってどういうこと?」「科学でなんでもわかっちゃうの?」「心ってどこにあるの?」「なぜ生きてるんだろう?」など、22の難問について、日本を代表する哲学者たちが語ります。ポイントは、どの質問にも2人の専門家が異なる視点から答えていることです。生きていくうえで、答えは必ずしも一つではありません。算数の計算のようにすっきり割り切れるわけではないのです。
 わたしは社会科の担当ですが、社会の入試問題でも賛成の立場の人と反対の立場の人を比較して記述するなど、最近はどちらが正解かを問う形ではない問題が多くみられます。わたしは大学で哲学を学びました。哲学は自分で考える学問です。答えは自分で見つけなくてはいけません。そのヒントになるのがこの本だと思います。
 質問を見ると難しそうに思えますが、文章自体は読みやすく、6年生ぐらいなら読めると思います。科学に関係する話もあれば動物の話もあります。神様の話、心の話、人に対する優しさの話もあります。人によって気になるところは違うと思うので、その部分だけでも読んでみてください。そして考えてください。考えることはとても大切です。これからの人生を生きていくうえで、この本の中の文章のひと言でもいいので、何かを考えるきっかけにしてくれればうれしいです。

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