受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2018年10月のBooks

 多くの物語は、最後まで読むと、謎が解けたり疑問が解決したりして、すっきり終わります。でもなかには、引っ掛かるものが残ったまま終わる話もあります。「主人公は何を言いたかったのだろうか」「こんな形で終わっていいのだろうか」。今月紹介する『チャルーネ』もそう感じる人がいるかもしれません。あえてすべてを語らず読者に考える余地を残す話は、人によって持つ感覚が違うでしょうから、それを話し合ってみるのも楽しいものです。さて、この『チャルーネ』、皆さんの感想はどうでしょうか。

『奏のフォルテ』

  • 黒川裕子=作
  • 北村みなみ=画
  • 講談社=刊

  • 定価=1,200円+税

  • 対象:小学校高学年向け

相手のミスを受け入れ 自分も受け入れてもらう さらけ出すのがアンサンブル

注目の一冊

 中2の奏の夢は世界的なホルン奏者になること。そのためニューヨークにある世界に名だたる音楽学校、ジュリアード音楽院の入学オーディションを受けに行きます。ところが、あこがれのホルン奏者、レオニード・アブトから、「技術はあるが、きみの音には愛がない」と言われてしまいます。オーディションの後、奏は自分と同じ年齢の天才オーボエ奏者、タカサキ・リュージュの演奏を聴きに行き、そのすばらしさに圧倒されます。
 プライドを打ち砕かれて帰国した奏を待っていたのは、敵意むき出しの吹奏楽部のメンバーたちでした。才能があるゆえに部活でも浮いた存在の奏は、口を開けば誰かを傷つけてばかり。「アブトに認められたい」という思いでがんばってきた奏でしたが、部活もホルンもやめる決意をします。そんな奏の前に突如、リュージュが現れました…。
 ホールや公園、ホテルのロビーなど、いろいろな場所での演奏場面の描写が緻密で、木管・金管楽器のすばらしさ、アンサンブルのすばらしさが生き生きと伝わってきます。「たたかうことをあきらめるやつを、おれは許せない」と言うリュージュ。すべてにおいて恵まれていると思っていたリュージュが、自分よりもっとつらい苦しみのなかにいたことを知って、奏は自分を見つめ直します。人を受け入れるとはどういうことか、人に受け入れられるとはどういうことか。音楽でも日常生活でも人と合わせることが苦手な少年が、仲間とのぶつかり合いを通して、人の心に踏み込む勇気を手に入れていくまでを描きます。

『こちらムシムシ新聞社しんぶんしゃ ~カタツムリはどこにいる?~

  • 三輪一雄=作・絵
  • 偕成社=刊

  • 定価=1,500円+税

  • 対象:小学校低学年向け

「イノシシの非常食!?」 カタツムリの取材は 驚くことばかり

 虫たちがはたらくムシムシ新聞社に、小学生からお手紙が届きました。「わたしはカタツムリが大好きです。でもわたしの町では最近、カタツムリが見つかりません。どこに行けば見つかりますか」。テントウムシの七星あまみち記者は、部長の指令でさっそくカタツムリの取材に出かけたのでした。
 七星記者は行く先々で、カタツムリを食べて生きている生き物たちに出会います。食べ方も食べる部分もそれぞれ違い、カタツムリを食べるのに都合がいい体つきになった生き物もいて、取材は驚くことばかり。カタツムリの生態だけでなく、生態系のなかでの食物連鎖について、ユーモラスなイラストと楽しい会話を通して、わかりやすく教えてくれます。

『そうべえときじむなー』

  • たじまゆきひこ=作
  • 童心社=刊

  • 定価=1,500円+税

  • 対象:小学校低学年向け

「南の国へ行きまひょ!!」 沖縄に行った4人組が てんやわんやの大騒動

 軽業師のそうべえ、医者のちくあん、歯抜き師のしかい、山伏のふっかい。4人は寒いのでたき火をしているうちに、気球を作って南の国へ行こうと思い立ちます。ところが琉球王国までたどり着いたものの、怪しい身なりの一行はお役人さんにつかまってしまいます。助けに来てくれたのは、妖怪のきじむなーでした。
 きじむなーは沖縄に伝わる樹木の妖怪。人間が大好きな優しい妖怪ですが、4人があまりに無茶な行動をするので困ってしまうという楽しい物語です。4人の関西弁や、きじむなーの沖縄ことばの語り口がおもしろく、声に出して読みたくなります。シリーズ誕生40年、「じごくのそうべえ」シリーズの6作目です。

『魔女のレッスンはじめます』

  • 長井るり子=作
  • こがしわかおり=絵

  • 出版ワークス=刊
  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

おばあちゃんちの魔女修行は 掃除に料理にお墓参り これで魔女になれるの!?

 つばさの親友、由紀は魔女にあこがれています。今日も「ばあばちゃんが空を飛んでいた」と大はしゃぎ。ばあばちゃんとは、つばさの祖母。薬草や暮らしの知恵に詳しいせいか、由紀には魔女に見えるようなのです。そんな由紀の希望で、つばさは夏休みに、ばあばちゃんの家で魔女修行につき合わされることになります。
 魔女メニューやハーブティーの作り方が出てくるので、魔女になった気分で作ってみたくなります。森の近くの古い家で掃除や料理を習ったり、お墓参りをしたり。緑に親しむ生活を通じて、つばさは自分が広く輝きに満ちた世界にいること、過去から未来につながる大きな流れのなかで生きていることを感じていきます。

『チャルーネ』

  • ホーコン・ウーヴレオース=作

  • オイヴィン・トールシェーテル=絵

  • 菱木晃子=訳
  • ゴブリン書房=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

ペンキ缶片手に 真夜中にやってきた スーパーヒーローとは?

 ルーネは、友だちのアトレと丘の上に小屋を作っています。ところがその大切な小屋が乱暴な年上の少年たちに壊されてしまいます。悔しい思いで帰ってきたその夜、小屋を塗るためにもらった茶色のペンキを見ているうちに、ルーネは少年たちに仕返しをするいい方法を思いつきました。
 友だちも加わって作戦は大成功かと思いきや、事態は思わぬ方向に進みます。「これでいいんだろうか」と読む人に疑問を抱かせたまま終わる奥行きある展開。面倒なことを嫌がる大人たちのなかで、ただ一人、ルーネを勇気づけてくれるおじいちゃんとの心温まるやりとり。ノルウェーの海沿いの小さな町を舞台にしたユーモアたっぷりの物語です。

『マンザナの風にのせて』

  • ロイス・セパバーン=作
  • ひだかのり子=絵

  • 若林千鶴=訳
  • 文研出版=刊

  • 定価=1,500円+税

  • 対象:小学校高学年向け

戦争で敵味方になった日米 日系アメリカ人の生活は その日からがらりと変わった

 アメリカのシアトルに近いベインブリッジ島で暮らすマナミは、祖父の代に日本からこの島に渡ってきた日系アメリカ人。1942年3月のある日、いつものように学校に行ったマナミは先生に呼び出され、「今日が最後の登校日」と告げられます。戦争でアメリカと日本が敵国同士になり、日系アメリカ人は収容所で暮らすことになったからです。一家で島を離れる日、愛犬のトモをコートの中に隠したマナミ。ところが兵士に見つかって、トモはおりに入れられてしまいます。
 第二次世界大戦によって収容所生活を強いられた数多くの日系アメリカ人たち。語られることの少ないその苦難と力強く生きた日々を、1人の少女の物語を通して鮮やかに描き出します。

『日本昔話百選』

  • 稲田浩二・稲田和子=編著

  • 丸木位里・丸木俊=絵
  • 三省堂=刊

  • 定価=1,700円+税

桃太郎は実は怠け者!? 語り伝えられてきた 昔話のおもしろさ


青葉台校 校舎責任者

 6年生の授業で、『夕鶴』というタイトルの詩を題材とした入試問題を取り上げたことがあります。『夕鶴』といえば木下順二さんの戯曲ですが、もともとは昔話の『鶴の恩返し』を土台にしています。授業でその話に触れたとき、生徒から「『鶴の恩返し』って何?」と聞かれました。ほかの学年にも聞いたところ、『鶴の恩返し』を知らない生徒が何人もいました。『夕鶴』の詩は『鶴の恩返し』を知らないと読み取れません。同様に小説でも評論でも、読む人が昔話や昔の名作を知っていることを前提として書かれている文章はたくさんあります。昔話を常識として知っているか否かで、ほかの文章を読めるかどうかが大きく違ってくるのです。
 それがこの本を薦めようと思ったきっかけですが、まずは昔話はおもしろい、触れてほしいというのがわたしの願いです。この本なら絵本で昔話に触れてこなかった人にとってもおもしろいし、絵本で読んだ人も新しい発見ができると思います。たとえば『桃太郎』。備中・備後地方に伝わる桃太郎は、山仕事に誘われると、のらりくらり断る怠け者です。最後は鬼退治をしますが、一般に知られている桃太郎とはずいぶん違うので衝撃を受けるでしょう。
 それぞれの昔話には短い解説がついていて、同じようなストーリーの昔話が世界のいろいろな地域で語り伝えられていることを教えてくれます。わたしは小学生のときにこの本を読みましたが、解説を読んで「不思議だな」「人間はどこでも同じなんだな」と思いました。そしてそれをきっかけに、外国の神話を読むようになりました。
 昔話は、豊かな自然を背景とした貧しい暮らしのなかで、人々が語り伝えてきたものです。昔話を通じて、そうした日本人の根っこにあるものに触れてほしいと思います。奇想天外な話、滑稽な話、今の時代にも当てはまる話など、昔の人の生き方、考え方がわかるおもしろい話が詰まっています。ぜひ読んでみてください。

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