受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2020年8月のBooks

 皆さんはランドセルを使っていますか。今月紹介する『7年目のランドセル』は、日本の子どもたちが使ったランドセルや文具をアフガニスタンの子どもたちに贈る活動を通して、現地の子どもたちの日常を伝える写真絵本です。写真絵本とは、写真に短い文章を付けた本のことですが、この本も物資不足の現実以上のものを、見る人に伝えます。文字が詰まった本が好きな人も、1枚の写真からたくさんのことが読み取れるこうした絵本に、たまには触れてみませんか。

『ぼくたちの緑の星』

  • 小手鞠るい=作

  • 童心社=刊

  • 定価=1,300円+税

  • 対象:小学校高学年向け

この灰色の世界で 大切なものを守るため ぼくたちは立ち上がった

注目の一冊

 学校から家に帰る途中にある小さな公園。誰も来なくなったさびれた公園には草花もなく、ぽつんと1本、ひょろりとした若木があるだけです。「ぼく」は学校帰りにこの公園に寄って、時々若木に水やりをしています。ある日、木のそばに紙切れが落ちているのを見つけました。紙には地図のようなものが描いてあり、裏には持ち主のものと思われるパーソナル番号が記されていました。「ぼく」は通信ボックスを使って、その番号宛てにメッセージを送ることにしました。
 名前ではなく番号で呼ばれ、歌うことも絵を描くことも、友だちや家族と笑い合うことも禁止。もし自分が生きる社会がそんなことになってしまったら、想像するだけで恐ろしくなります。物語の舞台はまさにそんな殺伐とした世界です。学校では考えることも質問をすることも禁じられていて、「ゼンタイ・モクヒョウ」のため、決まりを守ること、従属することが何よりも大事とされるのです。ついには大好きだった図書室の本を燃やすことまで命じられました。そんな生活のなかで、かつては覚えていた友だちの名前も、自分の名前すらも忘れていく主人公。ところがある日、偶然拾った1枚の紙切れが、主人公の心に希望の光をともします。
 大切なものを守るために何ができるかを問うSF小説です。当たり前の生活がどんどん失われていくなかで、身の回りにあった小さな物事が、尊くいとおしいものに思えてきます。「書く前から最後の一行だけは決まっていた」と語る作者。後半は、思いのこもった最後の一行に向かって急展開します。

『クラクフのりゅう』

  • アンヴィル奈宝子=文・絵

  • 偕成社=刊

  • 定価=1,300円+税

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

お城の地下にすむ 巨大な大食い竜 どうやって退治する?

 お城の地下にある大きな洞穴に、竜が住んでいました。時々外に出てはヒツジの群れを襲って、ヒツジを何頭も丸飲みしてしまうので、人々は困って王様に相談しました。「どうか、あの竜をやっつけてください」。そこで王様は国中に、「竜を退治した者は王女と結婚できる」というお触れを出しました。次の日、大勢の男たちが集まりました。ところが…。
 ポーランドの古都、クラクフにある、ヴァヴェル城という古いお城にまつわる昔話です。お城の下には実際に大きな穴があって、観光ガイドさんが穴の説明をするときには、このお話をするそうです。物語のなかでは恐ろしそうな竜ですが、イラストはユーモラス。外国の昔話らしいお話です。

『7年目のランドセル』

  • 内堀タケシ=写真・文

  • 国土社=刊

  • 定価=2,000円+税

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

ランドセルを手にした 子どもたち、 その笑顔が語るものとは?

 乾燥した大地の校舎もない学校で、先生が子どもたちの名前を一人ひとり呼びます。「タルワサ~」。瞳のくりっとした女の子が立ち上がりました。先生から手渡されたのは、日本から届いたピンクのランドセル。タルワサちゃんはとてもうれしそうです。
 戦闘が続くアフガニスタン。道には機関銃の薬きょうが落ち、頭上を軍のヘリコプターが飛ぶなかで、学校に通う子どもたち。ランドセルを手にした子どもたちのはじけるような笑顔を見ると、この理不尽な日常について考えずにはいられません。使用済みランドセルをアフガニスタンに送る活動を通じて、現地で取材を続けるカメラマンが、子どもたちの今を伝えます。

『ぼくはおじいちゃんのおにいちゃん』

  • 堀直子=作

  • 田中六大=絵

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,000円+税

  • 対象:小学校低学年向け

子どもみたいになった おじいちゃん ぼくにできることは?

 カイトの家族と一緒に暮らすため、九州からおじいちゃんがやってきました。保育園の運動会のときは応援に来てくれた、優しいおじいちゃん。ところが、おじいちゃんはカイトの顔を見てにっこり笑うと、「まもる兄ちゃん!」と言いました。どうなってるの? ぼくはカイトだよ。
 まもる兄ちゃんは、カイトと同じ7歳のときに亡くなった、おじいちゃんのお兄ちゃんの名前です。子どものようになってしまったおじいちゃんの姿に、カイトは怒ったり戸惑ったり。でも自分なりにおじいちゃんに全身でぶつかっていくうちに、おじいちゃんとの間に温かいものが流れていきます。大人にもお薦めの、小学1年生男子の夏休みの物語です。

『保健室経由、かねやま本館。』

  • 松素めぐり=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校高学年向け

温泉の女将は言った 「泣きたいときは 泣いていいんです」

 佐藤まえみは、明るく人付き合いが上手。新潟から東京に転校してきたときもすぐクラスに溶け込み、人気者の舞希と親しくなります。ところがある日、舞希から付き合うのが「しんどい」と言われて大ショック。保健室に逃げ込むと、床には大きな穴が開いていて、下から硫黄の臭いがしてきました。「なんなの、ここ…」
 「かねやま本館」とは、保健室の床下から行く中学生専門の湯治場のこと。そこには学校が嫌になった中学生に効く、さまざまな効能を持つ温泉があります。無理して人と付き合うのは疲れること。そんなとき、こんな温泉があったらどんなにいいでしょう。温泉のぬくもりが、「心の凝り」を解きほぐしてくれる物語です。

『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密

  • 稲垣栄洋=著

  • 筑摩書房=刊

  • 定価=800円+税

  • 対象:小学校高学年向け

生き物たちの 生存戦略から学ぶ オンリーワンの生き方

 自然界は弱肉強食の世界。餌や生存場所を得るために日々、ナンバーワンの座を巡って厳しい戦いが繰り広げられています。でも戦いに敗れたものが必ず死に絶えるわけではありません。ナンバーワンになれる別の場所で生きることを選ぶものもいます。たとえばミミズ。もともとは頭や足を持っていたと考えられていますが、土の中で生きていくために足を捨てました。ミミズは土の中の生き物としては最強なのです。
 著者は植物学者で、その著作は中学入試の国語の問題にも非常に多く取り上げられています。本書では生存戦略や進化の不思議について説明するとともに、それを人間社会に当てはめて、本当の個性とは何か、若い世代に生きるうえでのアドバイスを伝えます。

『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』

  • 松原始=著

  • 山と溪谷社=刊

  • 定価=1,500円+税

思い込みで決めつけず 自分で考え、判断できる人に なってほしい


西船校 校舎責任者

 見た目や第一印象は、実際の姿と異なることがよくあります。「こう見えるけど本当にそうなんだろうか」と、興味を持って疑問に思うことは学習面でも大事なことです。この本は動物行動学者の著者が、「きれい」「かわいい」といった「見た目の誤解」、「賢い」「優しい」といった「性格の誤解」、「亭主関白」「子煩悩」といった「生き方の誤解」の三つに分けて、わたしたちが無意識に思っている生き物の偏ったイメージを取り払ってくれます。
 たとえばカラス。ゴミをあさる姿からは汚いものの象徴のように思われますが、実際はとてもきれい好きです。餌を食べた後にカラスがまず行うのは、くちばしを磨くことです。電線や枝に何度もくちばしをこすりつけてクリーニングをします。次に行うのが水洗い。「カラスの行水」ということばは、よく洗わず短時間で入浴を済ませてしまうときに使います。でもカラスは違います。毎日1回は必ず水浴びをして、まずくちばしと顔をよく洗い、次に翼を使って全身を洗います。一日に朝昼晩と3回水浴びをすることもあり、人間より身ぎれいだと著者は言います。
 世間で言われていることが本当に正しいとは限りません。勝手にそう思い込んでいるだけのこと、あるいはそう思い込まされているだけのことは、けっこうあるものです。新型コロナウイルス感染症の影響でマスク不足になった結果、紙製品もなくなるという誤った情報に踊らされ、トイレットペーパーやおむつまでが買い占められたことはその典型です。
 常識であるかのように言われていることでも、果たして本当にそうなのか。自分できちんと考えられる人になってほしいと思います。わたしたちは教えるのが仕事ですが、あえて教え過ぎないようにしています。子どもたちが自分で考えを導き出せるよう、子どもたちが気づくのを助ける立場でいたいからです。そんな気持ちを込めて、この本をお薦めします。

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