受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2020年9月のBooks

 伊能忠敬といえば、江戸時代に全国を歩いて測量して、日本地図を作った人として有名です。完成させた「大日本沿海輿地全図」は、現代の計測値との誤差がわずか1000分の1という精度の高いものでした。今月の「先生お薦めの一冊」は、古代から現代まで世界各地で作られた地図を集めた本です。それぞれの地図には、作った人の情熱が感じられます。地図の上では空想は自由です。夏の終わりに、地図をたどりながら、時空の広がりを感じる旅をしてみませんか。

『命のうた ぼくは路上で生きた 十歳の戦争孤児』

  • 竹内早希子=著

  • 石井勉=絵

  • 童心社=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

どこで食べ物を手に入れるか、 子どもたちは、それだけを 考えて生きていた…

注目の一冊

 埼玉県で中学校の教員をしていた山田清一郎さんは、10歳のとき、神戸の空襲で両親を亡くしました。頼る親せきのない清一郎さんは、それから独りで生きてきました。当時はそんな子どもがたくさんいたのです。焼け野原になった町で、生き延びるために食べ物を盗み、ごみ箱をあさり、駅の地下道で眠る毎日。服はぼろぼろ、手足はあかだらけです。そんな彼らを周囲の人たちは「汚い、あっちに行け。野良犬ども!」と追い払いました。なぜ彼らは、こんなつらい目に遭わなくてはならなかったのでしょうか。
 清一郎さんの体験談をもとに、第二次世界大戦での戦争孤児たちの姿を、読みやすい物語の形で描いたノンフィクションです。空襲におびえて暮らす毎日。炭の塊の中に父の遺体を探した日。母のいる防空壕が崩れるのを見ながら、逃げるしかなかったあのとき。そして腐った残飯を食べたせいで命を落とした友。清一郎さんのそばにはいつも死がありました。それでも生き延びるために、食べ物を手に入れなくてはならない。毎日それだけを考えて過ごすうちに、自分が学校に通っていたことも、自分の苗字すらも忘れそうになったそうです。
 「なかったことにしてはいけない」「二度と繰り返してはならない」。そんな強い思いに駆られて書いたと語る著者。つらく悲しい場面の連続ですが、戦争というものがいかに人々を苦しめるのか、いかに人々の心をむしばみ絶望のどん底に突き落としていくのかを、子どもたちにわかりやすく伝えてくれます。

『ランカ にほんにやってきたおんなのこ

  • 野呂きくえ=作

  • 松成真理子=絵

  • 偕成社=刊

  • 定価=1,300円+税

  • 対象:小学校低学年向け

話すことばが わからなくても 友だちはできる!

 森や川がいっぱいある暖かい国から、日本にやって来た女の子、ランカ。日本の小学校に通い始めますが、ことばも文字もわかりません。おまけに日本の小学校は、ランカの国の小学校とは違う不思議なことばかり。「帰りたいな。帰って国の友だちとおしゃべりしたいな」。ランカは、地球に独りぼっちの気分になって泣いてしまいました。ところが…。
 日本の小中学校には、日本語が母語ではない子どもたちも通っています。作者はそんな子どもたちに日本語を教える先生をしています。外国から来た子どもたちが、「早くありのままの自分を教室で出せるようになったらいいな、といつも思っています」。そんな気持ちから生まれた心温まる絵本です。

『つなげ! アヒルのバトン』

  • 麦野圭=作

  • 伊野孝行=絵

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

航平は思った、 おれは背だけじゃなく 心もチビだった

 産休を取る担任の先生に代わって、航平のクラスに新しい先生がやって来ました。アヒル柄の手提げ袋を持ち、アヒル柄のネクタイを締めた小太りのおじさん先生です。「なんでアヒル?」そう思った航平は、先生のあいさつのことばを聞いてさらにびっくり。「初めまして。阿比留です」
 ひょんなことから、運動会で一輪車リレーに出場することになった航平と仲間たちが、アヒル先生の助けを借りながら、一輪車への挑戦を通して成長していく姿を描きます。なぜ先生はこんなにアヒルにこだわるのか。その秘密はストーリーが進むにつれて明らかになっていきます。人を思う優しい気持ちにあふれた物語です。

『だから拙者は負けました。』

  • 本郷和人=監修

  • 宝島社=刊

  • 定価=1,200円+税

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

将軍も戦国武将も 負けるべくして負けた 理由がある!

 今川義元といえば、桶狭間の戦いで織田信長に敗れた戦国武将。義元は尾張を2万人を超える大軍で攻め込みましたが、軍勢わずか数千人の信長軍に奇襲をかけられ、討ち取られてしまいます。圧倒的に多い兵力を持っていたのに、なぜ信長に敗れたのか。そこには三つのしくじりポイントがありました。
 蘇我入鹿から犬養毅まで、日本史の"負け組"たちを取り上げ、"しくじり"の訳を楽しくわかりやすく解説しています。教科書で学ぶ歴史は、どうしても勝った人が中心になります。でも負けた人にも優秀な人は多く、彼らにも言い分はあります。敗者はなぜ負けたのでしょうか。そこに注目すると、大きな時代の流れが見えてきます。

『ドーナツの歩道橋』

  • 升井純子=作

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校高学年向け

おばあちゃん、 もう「ごめん」って 言わなくていいよ

 麦菜は、パン屋を営む両親・弟・祖母と暮らす高校1年生。ある朝、学校に行く準備をしていると、家にいるはずの祖母の姿が見えません。慌てて探しに出ると、近くの歩道橋をとぼとぼ歩く白髪頭が見えました。麦菜が呼びかけると、祖母はぼんやりした表情で言いました。「どうしてわたしはここにいるの?」
 戸惑いながらも祖母の世話を手伝う麦菜。介護と家業に疲れる母との関係はこじれ、入学したばかりの高校生活も気疲れの連続です。自分のことだけ考えていればよかった生活から一転、家族の問題に向き合い、一つひとつ壁を乗り越えていく麦菜。誰もが直面するであろう問題を、高校生の目線でさわやかに描きます。

『無限の中心で』

  • まはら三桃=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校高学年向け

挑戦を続ける 数学男子を見て思った 「わたしもがんばりたい」

 友人に新聞部の助っ人を頼まれた野崎とわ。任されたのは、数学オリンピックに挑戦する数学研究会の取材です。数研の部室に行くと、部員たちが一枚の紙を囲んで興奮気味。聞けば、問題を置いて帰ると、次の木曜日にその問題が解かれた状態で置いてあるというのです。誰に聞いても心当たりはありません。いったい誰が?
 昆虫好きイケメン男子、美を追求する音楽男子、相撲部兼任の巨漢男子。3人の部員に、顧問の美人先生が加わった数学好きの世界は、驚くことばかり。摩訶不思議な彼らの言動とつき合いながら、木曜ミステリーの謎に迫るとわ。「数学者の心はこんなことでは折れない」。きっぱり言い切る数学男子にしびれます。

『地図の物語 人類は地図で何を伝えようとしてきたのか

  • アン・ルーニー=著

  • 高作自子=訳

  • 井田仁康=日本語版監修

  • 日経ナショナルジオグラフィック社=刊

  • 定価=2,700円+税

古今東西の地図で知る 未知なるものへの 飽くなき探究心


渋谷校 校舎責任者

 古くは2万5000年前から現代に至るまでの、世界各地で作られたさまざまな地図を紹介する一冊です。たとえば、今から1600年前のヨーロッパを描いた地図があります。これは旅や移動のための道を示したもので、河川や森、宿場・浴場、町の間の距離など、旅に必要な知識が詳細に記されています。描かれた道の長さは何と10万キロを超え、7メートル近い巻物になっています。
 地図は本来、実地に検分した「最新の今」を誤りなく示そうとするものですが、古い時代の地図は「いまだ知られていない、未知のもの」も、当時の知識や想像力で補いながら描いています。その想像力の一例として、今から500年前に作られたイタリアの都市ヴェネチアの地図があります。これはヴェネチアの都市全体を、斜め上空から立体的に描いた作品です。500年前なので当然、飛行機などで見渡す手段はありません。製作者はおそらく、視点を空の高みに置き換え、想像力を駆使して描いたのだろうと思います。
 一方、現代では想像もできないものを素材とした地図も紹介されています。興味深いのは、北極圏で生活していた民族が作った地図です。「木切れ」を大きく削って海岸線の形や島の位置を表すことで、寒いなかでカヌーを操りながら、手袋をした状態での手触りで、さまざまな情報が確認できるようになっています。また、南太平洋に暮らす海洋民族の地図は、ココヤシの茎で組まれていて、カヌーで数百キロ先の島へ渡るため、波の荒い区域や海流の変化も、茎の配置でわかるよう工夫されています。
 このように人類の生活は、異なる場所にあって、限られたものをうまく活用しながら、「未知」を「既知」へ変えていく、絶え間ない営みだったと気づかされます。そして、その道具としての地図は、わたしたちに「知ることへの欲求」や「未知への想像力」をかき立てるものだとえいます。今回ご紹介する一冊は図版も多いので、広く楽しんでもらえればと思います。

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