受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

※お好きな本のタイトルをクリックして下さい。その本に関する内容が、表示されます。

掲載月一覧 2020年11月|2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月
2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月
Books目次へ△

2020年11月のBooks

 秋も深まりました。昔の人は1年を24に分けて「節気」と呼び、さらに一つの節気を三つに分けて「候」と呼びました。それが「二十四節気七十二候」です。11月に入って1週間ほどたつと節気は「立冬」。その最初の候は「山茶始開」で「つばきはじめてひらく」と読みます。このつばきの仲間なのがサザンカで、花ことばは「困難に打ち勝つ」。今月紹介する『ハジメテヒラク』の題名にはそんな意味が込められています。

『ハジメテヒラク』

  • こまつあやこ=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校高学年向け

「こちら生け花部です。 実況をお送りします」 今日も脳内に声が響く

注目の一冊

 綿野あみには、ひそかな趣味があります。それは脳内実況。目の前の人を観察して、その様子を心の中で実況中継のようにしゃべるのです。初めて脳内実況をしたのは小5のとき。教室にいる教育実習生を観察して、外見、生徒とのからみ、失敗したときの表情などを実況していたら、楽しくなってきました。
 その後、中高一貫校に入学したあみは、生け花部に入ることになります。「こちら生け花部の活動場所、家庭科実習室です」。部活初日、さっそく、脳内実況のスイッチが入ります。部員は真面目でルールに厳しい高2の男子部長、生け花など不似合いに見える派手な感じの中3女子、そして無口で近づきにくい中1女子の3人だけ。廃部寸前のこの部で、叫びにも似たあみの声が脳内に響きます。「綿野あみを取り囲むのは、まとまりのない3人。綿野あみ、入る部活を間違えたかもしれません!」
 生け花と実況という、異質な二つの組み合わせが、物語全体におもしろさを醸し出しています。異質といっても、生け花は一つひとつの枝をよく観察して、魅力を引き出そうとするもの。実況も相手をよく観察して、良さを伝えようとするもの。角度を変えれば違う表情が見えてくるという点も、共通しています。
 何といっても、あみの実況が楽しく、人を応援する温かさが伝わってきます。花々を通じて豊かな世界が広がる生け花の魅力もたっぷり。さわやかな読後感で、読む人を前向きな気持ちにしてくれます。多くの中学校が入試問題に取り上げた前作に続く、作者にとって2作目の青春小説です。

『せんそうがやってきた日』

  • ニコラ・デイビス=作

  • レベッカ・コッブ=絵

  • 長友恵子=訳

  • すずき出版=刊

  • 定価=1,500円+税

  • 対象:小学校低学年向け

戦争は突然やってきて、家も家族も奪った そのとき子どもたちは…

 窓辺には花が咲き、お父さんは弟に子守歌を歌っていました。お母さんは朝ご飯を作り、学校まで送ってくれました。学校では火山の勉強をして、鳥の絵も描きました。いつもの一日。でもランチタイムの後、雷のような音がとどろき、町はがれきになりました。
 2016年春、イギリスでは孤児になった難民の子どもが避難所収容を断られ、座る椅子がないとの理由で学校への入学を拒否されました。そのことを聞いた作者が書いた詩をもとに、この絵本が生まれました。戦争や迫害で親を亡くし、独りで避難所で暮らす子どもたちがたくさんいる事実。「安全な国にいる子どもたちにも考えてほしい」という作者の気持ちが強く伝わってきます。

『団地のコトリ』

  • 八束澄子=作

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校高学年向け

悲しいことがあっても ささいなことで笑いながら 人は日々を生きていく

 団地の2階で母と暮らす美月。バレー部の練習から疲れて帰ってきても、インコのピーコの声を聞けば癒やされる毎日です。ある日、鳥かごの掃除をしているすきに、窓からピーコが逃げてしまいます。急いで階下に降りると、ピーコは1階の部屋の窓に足を挟まれていました。部屋に住むおじいさんに頼んで、ピーコを救出。でもそのとき、独り暮らしのおじいさんの部屋から、誰かがのぞいていました。
 団地の窓の一つひとつに、さまざまな暮らしがあります。中学生の女の子には想像できないようなものかもしれません。所在が確認できない「居所不明児童」の問題にかかわることを通じて、自分を見つめ直していく美月の姿を描きます。

『科学でナゾとき! わらう人体模型事件

  • あさだりん=作

  • 佐藤おどり=絵

  • 偕成社=刊

  • 定価=900円+税

  • 対象:小学校高学年向け

次々と起こる怪事件を ちょっと変わった 理科教師がずばり解決!

 常に「パーフェクトな児童会長」であることを心がけている彰吾。ところが理科教師の父が、彰吾の小学校で教えることになって焦ります。父は普通の物差しでは測れない変人。親子だと知られると、自分のイメージが崩れてしまいます。あるとき父は彰吾に、理科準備室の片づけを手伝うよう命じました。この理科準備室には、おばけが出るといううわさがありました。
 学校で起こる事件の謎を、理科教師の父ならではの科学的アドバイスで解決していきます。「音の伝わり方」「酸性とアルカリ性の性質」など、理科で習う題材が謎解きの鍵なので、物語を楽しむうちに理科にも興味が湧いてくるかも。表題作を含めた四つの物語を収録しています。

『10分あったら…』

  • ジャン=クリストフ・ティクシエ=作

  • ダニエル遠藤みのり=訳

  • 森川泉=絵

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,500円+税

  • 対象:小学校高学年向け

引っ越してきた古い家 部屋の壁紙をはがすと 出てきたのは…

 父親の仕事の都合で、田舎町の古い家に引っ越してきたティム。退屈な毎日にうんざりしていたある日、両親が出かけるため、一晩家で、独りで過ごすことに。お父さんは電話で言いました。「もし10分あったら部屋の壁紙をはがしておいてくれよ」。仕方なく壁紙はがしをしていると、隣に住む女の子レナが言いました。「悪運払いができていいかもね」と。だって「この家で1人死んでるのよ」
 「10分あったら」で始まった壁紙はがしから、スリルとサスペンスに満ちたストーリーが始まります。南西フランスを舞台にした謎解きミステリー。きしむ階段と地下室のある、外国の古い家を思い浮かべながら読んでください。

『あおいの世界』

  • 花里真希=著

  • 講談社=刊

  • 定価=1,400円+税

  • 対象:小学校高学年向け

カナダでの生活が 教えてくれた 「自分は自分でいればいい」

 父親の転勤で、家族とカナダで暮らすことになったあおい。英語がわからず、初対面の人と話すのも苦手なあおいは、新しい学校に不安がいっぱいです。初日、担任の先生はあおいにアディソンという女の子を紹介してくれました。「ハーイ、ナイス・トゥ・ミート・ユー」。気軽にあいさつするアディソンを前に、どうしていいかわからず固まってしまうあおいでした。
 日本にいたときは、「ふつう」に振る舞えないことに引け目を感じていたあおい。でもカナダでは、あおいは最初から「ふつう」ではない存在です。でも「ふつう」って何でしょう。異文化に戸惑いながらも、人々との交流を通して成長する主人公の6か月間の物語です。

『ぼくを探しに』

  • シルヴァスタイン=作

  • 倉橋由美子=訳

  • 講談社=刊

  • 定価=1,500円+税

読む時期によって 違う自分に出会える 折に触れて手に取りたい一冊


下高井戸校 校舎責任者

 子どもが生まれてから絵本に触れる機会が多くなり、あらためて自分が子どものころに読んだ本を整理してみました。そのなかにあった一冊です。「何かが足りない それでぼくは楽しくない 足りないかけらを 探しに行く」。そんな文章で始まる、主人公が「足りないもの」を探しに旅をするお話です。
 いつも本棚に置いてあったので、大人になってからも、たまに手に取って読みましたが、いつ読んでも感じるところが全然違う本です。小学生のころに読んだときは、特別な感想は持ちませんでした。でも中学生になって読んでみると、小学生のころには気づかなかった発見があり、意外とおもしろいと思いました。大人になってから読むと、教訓のようなものが得られたり、親になってから読むと子育てについて気づくことがあったり…。そんな本です。最初のページに「だめな人とだめでない人のために」とあります。自分はだめだと思っている人が読めば思うところがあるでしょうし、そうでない人が読んでも感じるところがあると思います。
 「足りないかけらを探す」という目的からすると、この旅は失敗です。でも旅をしたことによって、ある真理に到達し、今持っているもののすばらしさに気づくことができます。その意味では結果的に成功したといえます。最近の世の中は、自分にぴったりのものを求め過ぎる風潮があると思います。でもぴったりじゃなくてもいいじゃないか。そう思うと気が楽になります。ぴったりのかけらを探しに旅に出た、そのことが大事なのです。
 本棚に置いて折に触れて読んでほしい一冊です。本の帯に書かれている紹介文のことばを借りれば「ちょっと心が折れたとき、新たな一歩を踏み出すとき、大切な人を想うとき、何かを変えたいと思ったとき、そして何も変わらなかったとき」、この本がそばにあるといいなと思います。

ページトップ このページTopへ