受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2021年8月のBooks

 時間がたっぷりとれる夏休みは、読書の幅を広げる絶好機。ふだんは読まないジャンルの本にチャレンジしてみませんか。たとえば図鑑ばかり読んでいる人なら、物語を読んでみるのはいかがでしょうか。とはいえ、読み慣れない本には手が出にくいもの。今月紹介する『食虫植物ジャングル』は、物語の展開を楽しめる一方、いろいろな食虫植物の登場で植物への興味も満たしてくれます。そんな「一粒で二度おいしい」本をきっかけに、新しいジャンルを開拓してみませんか。

『聞かせて、おじいちゃん ─原爆の語り部・森政忠雄さんの決意

  • 横田明子=著

  • 山田朗=監修

  • 国土社=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

なぜ戦争は起きたのか 過去を知ることは 明日の未来をつくること

注目の一冊

 東京・渋谷駅のマークシティ連絡通路に、芸術家・岡本太郎の巨大な壁画があります。タイトルは「明日の神話」。このエネルギッシュな絵の前を毎日、数多くの人が通り過ぎます。でもどれだけの人が、この絵が核兵器をテーマにした作品だということを知っているでしょうか。
 本書に登場する森政忠雄さんは初めてこの作品を見たとき、かつて自身が体験した原爆の爆風を思い出し、思わず身震いしたそうです。同時にこの作品が核兵器の恐ろしさだけでなく、残された人々が悲劇を乗り越え、明日をつくろうとする強さをも表現したものだと感じました。「自分も黙ったままではいけない」。そんな気持ちが原爆の語り部として活動し始めた森政さんの背中を強く押してくれました。
 11歳のときに広島で被爆した森政さんが、70歳を過ぎてから始めた語り部の活動と、その思いを描いています。小・中学校で講演するようになった森政さんはある日、子どもにこう質問されました。「戦争って何分で終わるんですか」。今の子は戦争をゲームのように思っている、そう思った森政さんは、原爆の悲惨さを伝えるだけではなく、なぜ原爆が落とされたのか、なぜ戦争が始まったのか、当時の社会情勢や歴史的背景も話すようにしました。
 そんな森政さんのお話はとてもわかりやすく、原爆投下が避けられないことではなかった事実が、聞く人の胸に突き刺さります。そして、そこから学ぶことの大切さを教えてくれる一冊です。

『うまれてそだつ わたしたちのDNAといでん』

  • ニコラ・デイビス=文

  • エミリー・サットン=絵

  • 越智典子=訳

  • 斎藤成也=監修

  • ゴブリン書房=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

すべての生き物は つながっている─ 絵本で知るDNA

 すべての生き物は生まれると、育ちます。植物も動物も人間も、育つと変化します。種が育って草花になるように。青虫がチョウやガに変化するように。人間もお母さんのお腹の中から生まれて、大きくなって複雑に変化していきます。どうやって変化していくのか。その指示をしてくれるのは「設計書」です。誰もが体の中に「設計書」を持っていて、それに従って自然に変化していくのです。
 「設計書」というのはDNAのことです。DNAと遺伝子について易しく教えてくれる絵本です。人間だけではなく、小さな虫や大きな動物、珍しい植物や絶滅した動物など、すべての生き物がDNAでつながっていることがわかります。

『食虫植物ジャングル』

  • 萩原弓佳=作

  • 十々夜=絵

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

突如、食虫植物出現! ジャングルになった 植物園で大冒険

 夏休みの宿題のため、市内の植物園に出掛けた莉々と舞花。そこで同じ目的で来ていた宏太と春直にばったり。さっそく園内を歩き始めた4人の前に、1羽のオウムが飛んできました。植物園のアイドル、ピーカちゃんです。ピーカちゃんに会うと願い事がかなうといううわさがあり、4人はそれぞれ小声で願い事を唱え始めました。
 仲が良いように見えて実は、それぞれ友だちにもやもやした思いを抱えている4人が、ジャングルと化した植物園での大冒険を通じて、そうしたもやもやを吹き飛ばしていきます。さまざまな植物が登場しますが、ウツボカズラやハエトリ草など、食虫植物の迫力ある出現シーンにも注目です。

『りんごの木を植えて』

  • 大谷美和子=作

  • 白石ゆか=絵

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

おじいちゃんは言った 「死んだらおしまい、 とは思うてない」と

 二世帯住宅の2階に住むみずほは、1階に住むおじいちゃんと仲良し。そのおじいちゃんが最近、食欲がなく、日課の散歩も休みがちです。気になって聞いてみると、5年前に手術したがんが転移しているとわかったとのこと。でも、みずほの願いをよそに、おじいちゃんはがんをやっつけるための積極的な治療はしないと言うのですが…。
 がんを抱えながらも、大好きな絵を描き、庭仕事をして毎日を伸びやかに暮らすおじいちゃん。そんなおじいちゃんとの静かな語らいが、みずほの気持ちを少しずつ変えていきます。人はなぜ生きるのか。死んだら終わりではないのか。そんな疑問に一つの答えを与えてくれる物語です。

『5文字で百人一首』

  • すとうけんたろう=著・イラスト

  • 講談社=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け・一般向け

難しそうな和歌も 言い換えれば ずばりこういうこと!?

 ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
 百人一首のなかの有名な和歌です。「神様の時代にもなかったほど、竜田川が紅葉でいっぱいになった」という意味です。「紅葉」ということばは使っていませんが、「こんな見事な紅葉は今まで見たことがなかった」ということなので、5文字でまとめるならずばり「空前の紅葉」です。
 百人一首の100首全部を5文字に要約しています。5文字とは大胆な話ですが、あくまでもざっくりした内容をわかるようにしたもの。細かい意味や味わいなどは、「訳」と「解説」で知ることができます。語句や季節、歌人の官職の説明など、豆知識も盛りだくさんです。

『今読みたい太宰治私小説集』

  • 太宰治=作

  • 小学館=刊

  • 定価=770円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け・一般向け

苦悩した若き日々をつづる 若い読者に向けた 珠玉の5話を収録

 私小説とは、作者の体験や心情をもとに、作者自身を主人公として書いた小説です。読者は書かれたことが、実際に起こったことのように感じますが、高校生作家の鈴木るりかさんは、本書の解説でそのことに触れ、こう言っています。「書かれた出来事が事実かどうかはさほど重要ではない、作者が感じ取った心情は事実を超えたところにあり、その意味ではすべて嘘いつわりのない真実なのだ」と。
 『帰去来』『津軽』など太宰治の私小説5編を収録しています。生きにくい社会のなかで自分の弱さと向き合いながら、人間らしく生きようとした太宰治。その若き日の心情に触れてほしいとの願いで編集された、若い人たちに贈る一冊です。

『生きづらい明治社会 ー不安と競争の時代

  • 松沢裕作=著

  • 岩波書店=刊

  • 定価=880円(税込)

教科書のその先の 深くておもしろい 学びの世界に導く入門書


茅ヶ崎校 校舎責任者

 日本が近代化に向けて歩き始めた明治時代は、社会の仕組みが大きく変化し、その変化についていけない人々にとっては、不安と競争の時代でもありました。本書ではそんな明治時代の社会を、現代社会と対比させながら解説しています。
 本書のテーマの一つが、「通俗道徳」です。これは「人が貧困に陥るのは努力が足りないからだ」という考え方で、江戸から明治時代にかけて人々に幅広く受け入れられていました。しかし、明治時代は、努力しても、その先に世界が広がらない人々のほうが多く、また、そのような人たちの声が社会や政治に反映されにくい時代です。明治政府は富国強兵政策を進めますが、その陰で貧困に苦しむ人が多くおり、そのような人々は自分の生活がうまくいかないことを社会のせいではなく、「自分の努力が足りないから」と思い込むしかない「生きづらい」時代であったことを本書は解き明かしていきます。
 努力をすることは確かに大切です(だから「道徳」です)。しかし、努力が正しく反映される社会の仕組みをつくり上げるのは非常に難しいことです。「通俗」とはわかりやすい、一般的などという意味のことばですが、社会環境が整っていないのにもかかわらず、失敗や貧困を自己責任という「通俗道徳」に当てはめてしまうことは、あまり良いこととはいえないでしょう。
 そして、このような明治時代の世の中を、本書は現代社会の諸問題と比較しながら考えていきます。過去の歴史のなかにも今につながることがたくさんあり、それを参考により良い社会を考えていく材料にしていくことは、歴史を勉強する意味の一つではないかと思います。
 著者は大学の教授で、内容の一部は大学の講義を基にしています。本書はとても易しい文章で書かれているので、歴史を一度勉強した6年生であれば、十分読むことができると思いますし、小中高の先にある、大学の講義を垣間見ることができるかもしれません。
 また、紹介されている「通俗道徳」という考え方は、2016年に亡くなった歴史学者である安丸良夫の著作に基づくものです。巻末の参考文献から、次に読む本を探していくことも、新たな学習のきっかけになると思います。

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