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海の写真を加工した芸術作品? それとも顕微鏡でのぞいた微生物の世界? 写真絵本『火星は…』の写真を何も知らずに見せられたら、そんなふうに思うかもしれません。それほど火星探査機が撮影した火星表面の精緻な写真は、神秘と驚きに満ちています。今月は本書を含め2冊の写真絵本をご紹介。細かい文字を読むのに疲れたら、ゆったりした気分で写真絵本を眺めてみませんか。きっとたくさんの発見がありますよ。
『チバニアン誕生』
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- ◆岡田誠=著
- ◆ポプラ社=刊
- ◆定価=1,650円(税込)
- ■対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け
想像してみよう 地層が教えてくれる 77万年前の世界を
2020年1月、地球の地質年代のなかに「チバニアン」と呼ばれる時代が誕生しました。「チバニアン」とはラテン語で「千葉時代」という意味です。46億年にわたる地球の歴史のなかで、77万4000年前から12万9000年前までが、日本の地名がついた時代として国際会議で認められたのです。
そのよりどころとなったのは千葉県市原市にある地層「千葉セクション」です。写真で見ると、どこにでもありそうな普通の崖です。でもこの崖にこそ、約77万年前の地球で起こった出来事の痕跡が、世界でいちばんはっきりと残されているのです。その痕跡とはどのようなものなのでしょうか。「チバニアン」とはどんな時代だったのでしょうか。興味が膨らみます。
新しい地質年代「チバニアン」が生まれるまでの歩みを、「チバニアン」を提案した研究チームの代表である著者がまとめています。中心となってチバニアン誕生に貢献した人だけに、いかにチバニアンが価値あるすばらしい地層か、国際的に認められるまでにいかに苦労したかが熱く語られています。
地層には地球で起こったさまざまな出来事の情報が刻まれています。たとえばプランクトンの化石からは、そのプランクトンが生きていた時代の海水温や、その場所の海の深さがわかります。陸上から運ばれた木や草の花粉がたまっていれば、その場所の気温や雨の量などがわかります。それを研究するのが地質学です。写真・イラスト・コラムを交えた説明は楽しく、どのページからも子どもたちに地質学のおもしろさを伝えたい著者の気持ちが強く感じられます。
『ホタルイカは青く光る』
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- ◆阿部秀樹=写真と文
- ◆小学館=刊
- ◆定価=1,430円(税込)
- ■対象:小学校低学年向け・小学校中学年向け
おいしいだけじゃない その美しくも不思議な生態にびっくり
富山湾の名物ホタルイカは、大きさが4~7cm程度の小さなイカです。漁が行われるのは夜から明け方にかけて。漁船の上から漁師さんが仕掛けた網を引き上げると、真っ暗だった海が青い小さな光でいっぱいになりました。
ホタルイカは深海で暮らしていますが、富山湾では春になると、産卵のために海面近くにやってくるので、その時期に漁ができます。産卵を終えたホタルイカは深海に戻ることができず、海岸に打ち上げられます。打ち上げられた大量のホタルイカが、浜辺に描く青い光の線は神秘的。30年以上ホタルイカの写真を撮り続けた水中写真家が、その魅力と生態を教えてくれる写真絵本です。
『バトン』
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- ◆中川なをみ=作
- ◆大野八生=画
- ◆くもん出版=刊
- ◆定価=1,430円(税込)
- ■対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け
持ち主は変わっても 思いをつないで 人形は生き続ける
圭はタイサンボクの木の堂々とした姿が大好きです。そのことは誰も知らないはずなのに、クラスの白井さんから突然「タイサンボクって知ってる?」と言われてびっくり。白井さんは学校ではほとんど誰とも話しません。たまに話すのは、人なつこいイラン人のハッサンだけ。ハッサンの家で会って親しくなった3人は、ひょんなことから圭のおばあちゃんから、ひな人形を譲り受けることになります。
天に向かって真っすぐに伸びる大きな木を見上げるとき、人は何を思うのでしょうか。自分が生まれるずっと前からそこにある木。過去から現在、そして未来へとつながる時の流れ、受け継がれていく人の思いが感じられる物語です。
『千曲川はんらん 希望のりんごたち』
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- ◆いぶき彰吾=文
- ◆文研出版=刊
- ◆定価=1,540円(税込)
- ■対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け
すべて水につかった それでも立ち上がる 独りじゃないから
長野県長野市長沼地区はリンゴの産地です。リンゴ園は千曲川に沿って広がっています。2019年秋、収穫の時期に、この地を台風19号が襲いました。しかし最初は、人々にあまり危機感はありませんでした。3年前に堅固な堤防、桜づつみが完成していたからです。ところが一夜明け、避難所の人々が目にしたのは、リンゴ園が見渡すかぎり、氾濫した川の水の中に沈んでいる姿でした。
千曲川氾濫で被災した長沼地区の人々の体験から、水害の現実がよくわかります。ニュースを見ただけでは実感できない、被害の生々しい実態とともに、被災しながらも、支え合って困難に立ち向かっていく人々の強さが伝わります。
『火星は…』
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- ◆スザンヌ・スレード=文
- ◆千葉茂樹=訳
- ◆三河内岳=監修
- ◆あすなろ書房=刊
- ◆定価=1,980円(税込)
- ■対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け
不思議な表面の模様の数々 高性能宇宙カメラが捉えた驚異の世界
風が砂丘を動かし、氷が岩を持ち上げ、ガスがぶくぶく吹き上がり…、火星はひと時もじっとしていません。砂嵐、隕石の衝突、気温の上下、地震など、火星ではさまざまな動きがあるのです。その変わり続ける火星を、NASAの探査機MROに搭載された高性能宇宙カメラ「ハイライズ」が見せてくれます。
1枚1枚の写真が、さまざまな現象が起こる火星表面の姿を精緻に捉え、まるで芸術的な写真集のようです。砂丘や渓谷、クレーターや火山、溶岩流など火星の地形の様子もよくわかります。地球と同じように山があり谷があり、風があり雲がある惑星。そこには大昔の火星の姿を伝える痕跡もあり、興味をかき立てられます。
『海を見た日』
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- ◆M・G・ヘネシー=作
- ◆杉田七重=訳
- ◆鈴木出版=刊
- ◆定価=1,760円(税込)
- ■対象:小学校高学年向け
初めて海を見て思った きっと世界は、そんなに ひどいところじゃないと
ミセスKの家には、事情により親と暮らせない3人の子どもたちが住んでいます。家事一切をやらされている年長のナヴェイア。自分を極秘任務に就くスパイと思うことで、つらい現実から身を守ろうとするヴィク。誰とも口を利かない小さなマーラ。そんな彼らの家に新しい里子がやってきました。その子のためにヴィクは母親探しをすることに決めますが…。
物語にはアメリカの里親制度の現状が投影され、里子たちが生きる現実の厳しさに驚かされます。母親探しを通して、お互いにかけがえのない存在になっていく子どもたち。みんなで海で遊ぶシーンからは、彼らの強さと温かさがあふれて胸を打ちます。
『いじめのある世界に生きる君たちへ ーいじめられっ子だった精神科医の贈る言葉』
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- ◆中井久夫=著
- ◆中央公論新社=刊
- ◆定価=1,320円(税込)
いじめの構造を知り 複雑な社会に潜む 人間関係の深層を知る
新浦安校 校舎責任者著者は高名な精神医学の先生で、いじめられっ子だったみずからの体験を交え、研究で知り得た知見を駆使して、いじめについて細かく分析しています。基になったのは「いじめの政治学」という著者自身の論文です。これを小学校高学年から読めるよう易しいことばに直し、いわさきちひろさんのきれいな挿絵を付けて書き下ろしています。
著者は「いじめのしくみは政治的」として、その進行段階を「孤立化」「無力化」「透明化」の三つに分けています。国語の教材で扱う物語文でもいじめを題材にしたものがあり、いじめられる人を孤立化させていく話はよく出てきますから、「孤立化」の話は小学生にも理解できるでしょう。ただほとんどの物語はその先の段階に進むことはありません。でも現実はもっと厳しく、「無力化」「透明化」の段階に進んでしまうと、より残酷で深刻な事態になってしまいます。ここまでくると、小学生にはぴんとこない話かもしれません。
でもいじめの構造を知ることには、大きな意味があります。人間は社会的な動物です。いろいろな人とコミュニケーションをとって生きていかなくてはなりません。そのとき普通なら相手の表情や発言、行動をもとにその人の内面を理解していくでしょう。ところがいじめが深刻化した場合は、そうした表面的なことばや行動だけでは捉えられない相手の内面や、関係する人たちの力関係を考える必要性が強く出てきます。普通であればなかなかうかがいえない世界ですが、そうした世界があると知ることは、この複雑な社会を生きていくうえでとても大切だと思います。
6年生が読んでも理解できるのは3分の1ぐらいかもしれません。でも中学・高校生になって、あるいは大人になってまた読むと、わかる部分も多くなります。読むたびに理解が深まる本なので、そんなつき合い方をして読んでほしいと思います。
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