受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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2021年10月のBooks

 読書感想文が苦手な人は多いもの。「読書は好きだけど、感想を書くとなるとどう書けばいいかわからない。『主人公の気持ちになって考えればいい』と言われてもわたし主人公じゃないし」。今月紹介する『先生、感想文、書けません!』は、そんな女の子がなんとか感想文を書き上げるまでのお話です。感想文が苦手な人なら「あるある」と思える部分が多く、それこそ主人公の気持ちになって考えられるお話です。この本の感想文を書いて、苦手克服に一歩踏み出してみませんか。

『こどもサピエンス史 生命の始まりからAIまで

  • ベングト=エリック・エングホルム=著

  • ヨンナ・ビョルンシェーナ=絵

  • 久山葉子=訳

  • NHK出版=刊

  • 定価=1,980円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

想像してみよう 今につながる過去のことを 今から続く未来のことを

注目の一冊

 今生きているわたしたち人類、「ホモ・サピエンス」という種が現れたのは約30万年前のこと。ホモ・サピエンスとは「賢い人」という意味です。賢い脳のおかげで、地球上の動物のなかでいちばん力を持つようになりました。でも「賢い人? ほかの名前にしたほうがよかったんじゃないかと思うことがある」と言う著者。人類はその長い歴史のなかで、作物を育て、文字やお金を発明し、国をつくり、産業を発達させ、そして人間のために働くロボットだってつくれるようになりました。でも一方で先住民族を滅亡させたり、奴隷売買をしたり、ひどいこともたくさんしてきました。「ホモ・サピエンスの歴史はきれいごとばかりじゃなかった」のです。
 ホモ・サピエンスの歴史について、イラストを交えて、子どもたちに優しく語りかけます。この長い時間のなかで人類がどう国や社会をつくり上げてきたのか、どう経済や科学を発展させてきたのか、そしてその過程で何をどう壊してきたのか。広い視点で捉えた説明は、何事も過去とつながって今があるということ、学校で学ぶいろいろな科目はみんなつがなっているということ、そして語られる歴史と同じくらい、語られてこなかった歴史があることを教えてくれます。
 国と政治、富と権力、戦争、人種差別、難民、SDGsなど、さまざまな問題について考えるきっかけを与えてくれる本です。親子で、友だち同士で、興味あるテーマを見つけてぜひ話してみてください。どうしたらより良い未来がつくれるかを。

『あっぱれ! どぐうちゃん』

  • 堀切リエ=文

  • 長谷川知子=絵

  • ポプラ=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け

「ドグ・グルル!」 呪文を唱えて 縄文の世界へ出発!

 雨が続く日。自分で植えたジャガイモが心配になって、おじいちゃんの畑を見に行くと、不思議なことに土の中からたくさんの土器のかけらが飛び出してきました。かけらはみるみるくっついて、人の形になりました。からだはぐるぐる模様で、目は卵みたいに大きいのです。その人形は言いました。「ド・グ…ドグウ」と。もしかして、きみはどぐうちゃん?
 土偶が盛んに作られたのは縄文時代。その縄文時代の雰囲気が紙面いっぱいに広がるユニークな絵本です。いつもにこにこしているように見えるどぐうちゃん。片手は空を、もう一方の手は地面を指さしてひとたび呪文を唱えると、いろいろな土偶が登場して、不思議なことが起こります。

『先生、感想文、書けません!』

  • 山本悦子=作

  • 佐藤真紀子=絵

  • 童心社=刊

  • 定価=1,320円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け・小学校中学年向け

主人公の気持ちに なって考える? 無理無理、絶対無理!

 夏休みの宿題である読書感想文の提出日に感想文を書いてこなかった、みずか。「だって書けないんだもん」。本を読むのが嫌いというわけではないのです。でも何がおもしろかったかを書こうとすると、おもしろかった気持ちが消えてしまうのです。「なんで感想文なんて書かなきゃいけないの? おもしろかった、だけじゃだめなの?」と不満を漏らすみずかに、先生は「感想文は思いをことばにする練習。修行のつもりでがんばって書いて」と言うのでした。
 苦手を克服できるかどうかは工夫次第。頭を悩ます感想文作りがいつのまにか、楽しい作業に変わっていきます。読書感想文が苦手なあなた、読めばお悩み解決のヒントが見つかりますよ。

難民選手団なんみんせんしゅだん オリンピックを目指した7人のストーリー

  • 杉田七重=文

  • 国連UNHCR協会=監修

  • ちーこ=絵

  • KADOKAWA=刊

  • 定価=792円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

いつかきっと帰る ぼくは絶対に 希望を捨てない

 東京オリンピックに出場した難民選手団の選手たち。難民選手団が初めて結成されたのは、前回のリオデジャネイロ大会のときです。そのとき水泳選手として出場したユスラ・マルディニさんは、2011年に母国シリアを離れ、ゴムボートでギリシャに渡った難民です。ぎゅうぎゅう詰めのボートはエンジン故障で立ち往生。ユスラさんは泳ぎながらボートを押し、何とかギリシャにたどり着いたのでした。
 難民選手団の選手たちが体験を語ります。なぜ母国を離れたのか。どのようにオリンピック選手になったのか。どんな気持ちだったのか。同じくシリア出身の水泳選手、ラミ・アニスさんは言います。「いつか母国に帰る。平和が戻ったシリアに。絶対に希望を捨てない」と。

『スウィートホーム わたしのおうち

  • 花里真希=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

「美しい場所には 美しい心が宿る」 って本当なの!?

 わかってはいても、片付けられない人はいるものです。千紗のお母さんもそう。そのせいで、中学生になったばかりの千紗は、学校帰りにトイレを貸してほしいという友だちの頼みを断ってしまいます。散らかり放題の家を新しい友だちに見られたくなかったのです。いつもいらいらしているお母さん。自分の思いどおりにならないと怒鳴るお父さん。もうこんな家にいたくない、そう思う千紗でした。
 部屋を片付ける、そんなちょっとしたことでも人は変わることができます。周りに、片付けるきっかけを与えてくれた人がいたからです。一歩踏み出すことで見えてきた新しい世界のなかで、自分を見つめ直していく少女の物語です。

『「自分らしさ」と日本語』

  • 中村桃子=著

  • 筑摩書房=刊

  • 定価=946円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け・一般向け

「わたし」「うち」 「ぼく」「おれ」 どれがぴったりくる?

 女の子は「わたし」。男の子は「ぼく」。当たり前のように思えますが、小中学生の女子のなかには自分のことを「ぼく」という人がいます。これは最近になっての話ではなく、明治時代にも見られました。なぜ女子が自分を「ぼく」と言うのでしょうか。そこには「わたし」と言いたくない、アイデンティティーにかかわる理由がありました。
 若い読者に向けた社会言語学の入門書です。自分を指すことば、相手を指すことば、敬語、女ことば、方言などの観点から「自分を表現する」とはどういうことかを考えます。漫画・アニメ・テレビ番組など身近な実例でわかりやすく、当たり前に使われている表現のなかにも問題点がひそんでいることに気づかせてくれます。

『こころ彩る徒然草 兼好さんと、お茶をいっぷく

  • 木村耕一=著

  • 黒澤葵=イラスト

  • 1万年堂出版

  • 定価=1,650円(税込)

700年前も言っていた! 「今日できることを 明日に延ばすな」と


用賀校 校舎責任者

 日本人に親しまれている古典の一つ『徒然草』は、鎌倉時代後期に兼好法師によって書かれた随筆です。『枕草子』『方丈記』と並ぶ日本三大随筆の一つとして、国語や社会の授業で名前だけは聞いたことがあるかもしれません。ただ、内容までは知らない人が多いと思います。でも内容を知ってみると、およそ700年も前に書かれたものなのに、今の時代に通じるものが多いことに驚かされます。
 この本では『徒然草』全244段のうち、時代考証がなくてもわかる66の話を選んで、わかりやすく説明しています。たとえば92段には、弓の稽古の話が出てきます。弓を習い始めた人に師匠が「矢は一本にしなさい。二本持つと、失敗してももう一本あるからという気の緩みで、初めの矢がいい加減になる」と言います。この戒めは弓だけでなく、すべてのことに通じる大切な心構えです。何かやるべきことがあるとき、つい「あとでやろう」「明日やろう」と後回しにしがちですが、それは「今を怠けている姿」だと兼好法師は言います。現代人にもぐさりとくることばですね。
 歴史を学ぶことは、生き方のヒントを得て将来の予測を立て、未来を良くするためだと思います。『徒然草』にはその参考になる部分もあるでしょうし、一方で今とは全然違うと思うものもあるかもしれません。でも昔の人が書き残したことばのなかに、今も通じるものがあるということは、何か根本的に共通の部分があるということだと思います。そう考えると、時代の流れのなかで変えていいものもあれば、変えてはいけないものもあるように思います。そうしたことを考えるヒントにもなります。
 一つひとつの話は短いので、最初は目次を見て、おもしろそうなものだけを読んでもいいでしょう。家の人と一緒に読んで「昔の人はこんなことを言っているんだ。自分たちだったらどうだろうね」なんて話し合ってみるのもいいと思います。何か一つでも心に引っ掛かるものがあればうれしいです。

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