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今月紹介する『カワネズミを見てみたい!』は、大学院生が研究対象の野生動物を追った日々を振り返って書いたもの。彼女がこの世界に入ったのは、後に指導教授となる先生の書いた本がきっかけでした。夜間高校に通っていたときにこの本を読み、自分もこの先生がいる大学で動物とかかわりたいと思い、急きょ大学受験の勉強を始めたそうです。こんな出合いがあるのも本のすごいところですね。
『時計がない!』
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- ◆小松原宏子=作
- ◆シライシユウコ=絵
- ◆文研出版=刊
- ◆定価=1,430円(税込)
- ■対象:小学校中学年向け
「時間がない」って!? 時計で計れないほど 時間はたくさんあるのに?
朝起きたら突然、時計がなくなっていたらどうしますか。家の時計だけではありません。学校の時計も役所の時計もテレビ局の時計もなく、世界中から時計というものがすべてなくなってしまったとしたら…。
とりあえず学校には行ってみましょうか。学校でも時間がわからなくて大混乱でしょう。ところが物語の主人公、佐藤ミコが学校に着くと、何時かわからないのに先生は「遅刻ですね」と言いました。理由は「いつも遅刻する小島くんより遅かったから」。では小島くんは遅刻ではないのでしょうか。「小島くんは遅刻ではありません。いつも遅刻しない佐藤さんより早かったからです」と先生。ややこしい話ですが、無遅刻・無欠席を続けているミコには大問題です。
その日は転校生が来る日でした。名前は時野メグミさん。彼女は、時計がなくても時間がわかる特技を持つ不思議な少女です。何となく授業が終わったとき、時野さんに時間を聞くと「11時42分」という答えが返ってきました。長く学校にいた気がしたのに、まだお昼前だったとは。 時計がないと時間が長く感じられるのでしょうか。それともまだお昼前だとわかったとたん、時が進むのが遅く思えたのでしょうか。
時間の「長い」「短い」って何なのでしょう。「時間が足りない」「もっと時間が欲しい」とは、どういうことなのでしょう。読み進むうちに次々と時間についての疑問が湧いてきます。それにしても時野さんは何者なのでしょう。時間について、さまざまな思いをめぐらすきっかけになる不思議な物語です。
『ちいさなおじさんとおおきな犬』
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- ◆バールブロー・リンドグレン=文
- ◆エヴァ・エリクソン=絵
- ◆菱木晃子=訳
- ◆あすなろ書房=刊
- ◆定価=1,430円(税込)
- ■対象:小学校低学年向け
「友だち募集中」の 貼り紙をしたおじさん、 さてやってきたのは?
あるところに小さなおじさんがいました。おじさんは親切なのに、おじさんに親切にする人はいません。いつもいじわるされてばかりです。おじさんは寂しくて、家の前に「友だち募集中」と書いた貼り紙をしました。でも何日待っても、友だちになってくれる人は現れません。ところが10日目の夜になって…。
春になるとマツユキソウの花が咲き、クロウタドリが歌を歌います。やがて花はしぼみ、クロウタドリはどこかに飛んでいきます。そしてまた春が来て…。季節の移り変わりとともに進行する、おじさんの物語。さておじさんには、どんな友だちができるのでしょうか。スウェーデン発の温かくてちょっとほろ苦いお話です。
『こずえと申す』
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- ◆吉田道子=作
- ◆宮尾和孝=絵
- ◆ポプラ社=刊
- ◆定価=1,650円(税込)
- ■対象:小学校中学年向け
こずえどのは言った 「雪の朝は山の足跡が にぎやか、おすすめでござる」
両親の別居で、母と弟と共にじっちゃんの家で暮らし始めた草多。毎朝、郵便受けに新聞を取りに行くのは草多の役目です。ところがある朝、郵便受けに新聞はなく、代わりに草でくくられた葉っぱが置いてありました。この事件をきっかけに、草多は武家ことばを話す少女、「こずえどの」と知り合い、地元の天狗山の自然に興味を持ち始めます。
草多たちが、天狗山の自然を守るために行動を起こすまでの物語です。生き物の痕跡を探す、天狗山でのフィールドワークが楽しそうで、一緒に参加したくなります。指示を出すのは自然に詳しい「こずえどの」。「何があってもしっかり立っているものでありたい」と言う凛とした姿が光ります。
『カワネズミを見てみたい! 水にもぐる銀色の小動物の研究』
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- ◆森本祈恵・小林朋道=著
- ◆くもん出版=刊
- ◆定価=1,540円(税込)
- ■対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け
疑問に思ったら即行動 「思いついたことは なんでもやろう」作戦だ!
モグラの仲間なのに名前はネズミ。川で暮らし、銀色に光りながら泳ぐというカワネズミの存在を初めて知ったとき、著者は「こんな不思議な動物がいるのか!」と、一瞬でとりこになりました。
大学院生の著者が、カワネズミを調査、研究した日々をつづります。カワネズミはゼミの教授も見たことがない珍しい動物。失敗続きの深夜の捕獲作戦、生態を調べるためのウンチの実験など、どれも生き生きと語られ、引き込まれます。さまざまな動物とのかかわり、研究を支えてくれた指導教授とのやりとり、集落の人々との交流などもおもしろく、「大変だけど楽しい」野生動物研究の魅力をたっぷり教えてくれます。
『もうひとつのアンデルセン童話』
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- ◆斉藤洋=作
- ◆広瀬弦=絵
- ◆偕成社=刊
- ◆定価=1,320円(税込)
- ■対象:小学校高学年向け
みにくいアヒルの子、 本当は白鳥ではなく アヒルだった!?
ハクチョウのハンネは、水の中でウナギを見つけてつかまえるのが得意です。ある日、ハンネは見知らぬアヒルの子から「ウナギのつかまえ方を教えてほしい」と頼まれます。アヒルの名はミカエル。何日かしてウナギ捕りができるようになったミカエルは、今度は「空の飛び方を教えてほしい」と言い出しました。
実はこのミカエルこそ、グリム童話の名作『みにくいアヒルの子』の主人公だったのです。ということは「みにくいアヒルの子」は、白鳥ではなくアヒルだったということなのでしょうか。そんな不思議な“もう一つの”グリム童話3篇を収録。『はだかの王様』も『人魚姫』も、登場人物の一人が、驚きの打ち明け話を熱く語ってくれます。
『天の台所』
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- ◆落合由佳=作
- ◆講談社=刊
- ◆定価=1,540円(税込)
- ■対象:小学校高学年向け
元気な大人になるために おれは料理を作って 食べるんだ!
6年生の天は、お父さん、弟、妹の4人家族。以前は、ばあちゃんが食事を作ってくれましたが、ばあちゃんが亡くなってからは、朝は卵かけご飯、夜はお父さんが買ってきたお弁当やお惣菜で済ませています。ある日、天はひょんなことから近所のがみがみばあさんと親しくなり、料理を教わることになりました。卵もうまく割れなかった天の料理修業が始まったのです。
料理修業を通じて、亡くなったばあちゃんの愛情の深さに気づく天。絆を取り戻した家族が、喪失感から立ち直っていく姿をさわやかに描きます。ホウレンソウ入りケーキ、トマトカレーなど、作ってみたくなる料理のアイデアも詰まっています。
『ワンダー』
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- ◆R・J・パラシオ=作
- ◆中井はるの=訳
- ◆ほるぷ出版=刊
- ◆定価=1,650円(税込)
きれいごとではない リアルな現実を知って 一人ひとりが考えてほしい
自由が丘校 校舎責任者SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが広がってきたこともあって、昔に比べて差別や不平等をなくそうという意識は高まってきました。それでも昨今の世の中を見ると、まだ排他的な空気が感じられるのは事実です。だからといって「差別はやめましょう」と言えば済む問題ではありません。世の中はそう簡単ではないのです。本書はそうしたところをしっかり描いています。その意味では現実がわかってきた高学年の、特に本を読み慣れている人にお薦めします。
主人公のオーガスト少年は遺伝子疾患のため、生まれつき顔に障害があります。何十回も手術をしたため傷があり、目も鼻も口も耳も普通の人とは大きく違っています。そんなオーガストが10歳になって初めて学校に通い始めます。それからの出来事がオーガスト、姉のヴィア、親友のジャックなど何人かの語り手によってつづられていきます。たとえばヴィアは弟を守ろうとするとても優しいお姉さんです。でも一方で、弟の存在を新しい学校の友だちに隠しておきたい気持ちも持っていて、そんな自分自身にショックを受けて罪悪感を抱きます。人間はそういうものです。きれいごとでは語れないのです。
各章が語り手を変えて、自分とオーガストとのかかわりについて、正直な思いを語っていきます。それぞれの立場、感じ方がリアルに伝わってくるので、読む人もそのなかの誰かに共感できると思います。それもこの本の魅力です。
誰しも差別意識は持っています。それを理性で抑え込める人になってほしいと願っています。そのつもりでサピックスでは国語の教材を選んでいますし、わたしもそういう気持ちでずっと教壇に立ち続けてきました。サピックスは「合格すればそれで終わり」という塾ではありません。自分の身の回りを見て考えてください。それができる人に、これからの世の中を支えていってほしいと思います。
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