受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

Booksコーナー

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2022年1月のBooks

 昔は子ども向けに『少年少女文学全集』のような本がよく出版されていました。その広告の一つにこんなキャッチコピーがありました。「早く読まないとおとなになっちゃう」。それを見て数学者の藤原正彦さんは「なるほど」と感激した、というお話が今月の「先生お薦めの一冊」の『世にも美しい日本語入門』に出てきます。確かに子どものうちに読まないと感動しない本はありますね。いちばん感動できる時期に感動する本に出合いたいものです。

『セカイを科学せよ!』

  • 安田夏菜=作

  • 講談社=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

「哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属 ホモ・サピエンス種」 肌の色は違ってもヒトは1種だけ

注目の一冊

 藤堂ミハイルは父が日本人、母がロシア人。顔立ちのせいで何をしても目立ち、からかわれることも多いので、自己主張は抑え、地味に目立たず過ごすことにしています。クラブに科学部電脳班を選んだのも、やる気のない部員がパソコンをいじるだけの地味な部だからです。
 そんなある日、ミハイルのクラスにアメリカ人の血を引く転校生、山口アビゲイル葉菜がやってきます。アフリカ系のイメージとはまったく遠い、運動もダンスも苦手だと自己紹介し、さらに好きなのはクモやカメムシなどの小さな生き物だと言うので、クラス一同どん引きです。それでも本人は休部中だった科学部生物班に入って、独りでも気にすることなく、部室の理科準備室で虫を飼って楽しそうです。ところがある日、山口さんが持ち込んだボウフラの飼育箱の上のネットが外れ、理科準備室が大変な騒ぎに…。
 山口さんの強烈なキャラクターに引き込まれていくうちに、楽しく一気に読めます。カナヘビ、ワラジムシなど、次々と学校に生き物を持ち込んでくる山口さん。聞かれると「有鱗目カナヘビ科カナヘビ属ニホンカナヘビ種です」などと言ってうれしそうに説明します。でも、生き物の分類に詳しい理由を聞かれると、「わたしだけ色も姿も違って、自分がどこに属するのか考えてきたから」と答えるのでした。周りに合わせて生きてきたミハイルと、周りを気にせず自分らしく生きてきた山口さん。2人の対比を軸に、物語の随所に散りばめられたさりげない会話が、生きていくうえで大切なことに気づかせてくれます。

『わたしたちのもり

  • ジアナ・マリノ=作

  • 小手鞠るい=訳

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,760円(税込)

  • 対象:幼児向け・小学校低学年向け

山火事で燃えても 命の森は 必ず戻ってくる

 動物たちが生まれ育った森。そこは動物たちの家のようなものでした。ところがある日、乾いた枝の先に火花が舞い上がり、あっという間に炎が広がりました。煙のにおいが押し寄せ、空は真っ黒。炎が襲いかかってくる前に逃げなくては! 動物たちは必死で走りました。
 世界のあちこちで発生している大きな山火事。小さな炎からあっという間に燃え広がり、森を焼き尽くしていきます。そのとき森の生き物たちはどうしていたのでしょうか。作者が経験した北カリフォルニアの山火事では、弱ったシカやコヨーテなどが数日後に森に戻ってきたそうです。その姿に胸を打たれたことがきっかけで作られた、森と動物の物語です。

『めいたんていサムくんと なぞの地図ちず

  • 那須正幹=作

  • はたこうしろう=絵

  • 童心社=刊

  • 定価=1,210円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け・小学校中学年向け

焼け跡で見つけた古い地図 ここはいったいどこ? 謎の印は何なの?

 サムくんが住む青葉町の隣町で夜中に火事が発生。燃えたのは坂田さんという江戸時代から続く古いお屋敷でした。幸いけが人はいませんでしたが、気になったサムくんは次の日、友だちと一緒に焼け跡を見に行きます。そこで消防の水でびしょぬれの封筒を発見。中には地図がかかれた紙が入っていました。
 推理が得意なサムくんが友だちと一緒に、古い地図に書かれたお宝を探しに行きます。古い地図と今の地図を見比べながら、読む人も一緒に謎解きをしていくことができる楽しい物語です。『ズッコケ三人組』でおなじみの作者によるミステリーシリーズですが、この夏逝去され、残念ながら遺作となってしまいました。

『きけんなゲーム』

  • マロリー・ブラックマン=作

  • もりうちすみこ=訳

  • 佐竹美保=絵

  • 文研出版=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け

病気はあるけど ぼくは弱虫じゃない! ぼくが助ける!

 病気のために疲れやすく、すぐに息切れするサム。発作が起こると、入院することもよくあります。学校ではサッカーもだめ、水泳もだめ、みんなと同じことができないため、意地悪な子から「弱虫」と言われることもあります。そんなある日、あきらめていた林間学校行きに、両親の許可が出て大喜び。その日からサムの頭の中は、林間学校のことでいっぱいになりました。
 周りから病人扱いされることにうんざりしているサム。それだけに、自分もクラスのみんなと同じようにできることを見せたい、という強い気持ちを持っています。楽しいはずの林間学校で思わぬアクシデントが発生したとき、サムのそんな気持ちが周りを救います。

『宇宙への扉をあけよう』

  • ルーシー&スティーヴン・ホーキング=著

  • さくまゆみこ=訳

  • 佐藤勝彦=日本語版監修

  • 岩崎書店=刊

  • 定価=2,090円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

宇宙で暮らせるの? 宇宙には誰かいるの? 興味深いエッセイが満載

 2018年に亡くなった、天才物理学者スティーヴン・ホーキング博士と娘のルーシーさんが、子どもたちに贈る宇宙への入門書です。宇宙の誕生から宇宙での生活、未来につながる科学技術、気候変動などまで、専門家のエッセイを交えて、わかりやすく説明しています。
 特におもしろいのは、さまざまな専門家たちのエッセイです。火星生活実験所で火星生活を疑似体験している宇宙飛行士、無線電波でエイリアンとの交信を試みている博士、虫がリンゴに貫通させる穴のような、宇宙のワームホールを使ったタイムトラベルの可能性を語るノーベル物理学賞受賞者等々。わかりやすく楽しい語り口で、知的好奇心を広げてくれます。

『食べものから学ぶ世界史 人も自然も壊さない経済とは?

  • 平賀緑=著

  • 岩波書店=刊

  • 定価=902円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

生命の糧である「食」を 「商品」に変えた 経済のしくみとは?

 現在、約78億人いる世界人口のうち、慢性的な栄養不良に陥っている飢餓人口は7~8億人で、飢餓というほどではなくても十分な食料を得られない人は約20億人いるといわれます。一方で、時間とお金をかけて生産された食料の約3分の1が廃棄されているのも事実です。どうしてこのようなことが起きているのでしょうか。
 その原因を著者は、自然の恵みである食べものが、「商品」となり、資本主義経済のしくみに取り込まれたことにある、と言います。小麦・砂糖・豚肉など身近な食べものから資本主義経済の歴史を解き明かします。毎日何げなく食べているものに、世界の歴史と経済と政治がどのようにかかわっているかがよくわかります。

『世にも美しい日本語入門』

  • 安野光雅・藤原正彦=著

  • 筑摩書房=刊

  • 定価=836円(税込)

ことば、芸術、定理・法則… 人が生み出した美しいものに触れ 豊かな人生を歩いてほしい


練馬校 校舎責任者

 画家・絵本作家の安野光雅さんと、数学者で著書『国家の品格』で知られる藤原正彦さんが、2人の専門外の日本語をテーマに対談をしているというので、興味を持って手にしました。読んで知ったのですが、安野さんは藤原さんの小学校時代の先生だったそうです。
 ひと言でいえば、2人がひたすら日本語への熱い情熱を語っている本です。日本語の美しさ、表現の豊かさについて、理屈だけで説明するのではなく、日本語のリズムや情緒的な部分を大事にしたところで語られています。さまざまな本が引用され、明治時代の文学作品や唱歌などの固有名詞がたくさん出てくるので、難しいと思うかもしれません。でも固有名詞が難しいだけで、全体的には読みやすく、2人の考えはすんなり頭に入ってくると思います。
 皆さんはこれから中学・高校に進むと、古文や漢文を学び、古典といわれる文学作品に触れる機会も多くなります。そのときに、単に「入試に必要だから」という受け身の姿勢ではなく、自発的なモチベーションを持って触れてほしいと思います。この本はそれを助けてくれるものです。
 日本語も含め、音楽や美術、数学の定理や理科の法則など、人が発見したり脈々と作ったりしてきたものには美しさがあります。それをぜひ知ってほしいと思います。幼少期から“世にも美しい日本語”をたくさん浴びて育った藤原さんは、その後「数学は美しい」と思って数学を究めました。道を究めた人に「なぜその道を選んだのか」と聞くと、「美しいから」と答える人が多いと思います。人間が行動を起こす根拠には「美しさ」というものが大いに関係しているのではないでしょうか。自分で何かを「美しい」と思って追究していく。そんな豊かな人生を送ってほしいと思います。
 同じ藤原さんの著書で『世にも美しい数学入門」もあります。作家の小川洋子さんとの対談で、こちらもおもしろいので興味があったら読んでみてください。

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