受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあ職場見聞録

有限会社TAU設計工房
一級建築士事務所
代表取締役 小宮 歩さん
(一級建築士/管理建築士)

 地域に密着した建物を数多く手掛ける建築設計事務所は、過去の作品を見たお客さまから直接仕事を依頼されることが多いもの。そんな建築設計事務所で働く建築士は、実際にはどんな仕事をしているのでしょうか。前のページで紹介したTAU設計工房一級建築士事務所の2代目である、一級建築士の小宮歩さんに業務の内容や現在に至るまでの道のりなどを伺いました。

Qどんな仕事をしているの?

スケッチをして建物のデザインが決まったら、CADというコンピューターシステムで設計図を描きます

小宮 建築士の仕事は、お客さまの要望を聞くところから始まります。建築設計事務所に相談に来るお客さまは、かなりたくさんの要望をお持ちです。たとえば、住宅のリフォームなら、現在住んでいる家の不便な点について詳しく聞きます。一方、マイホームを新築しようというお客さまのなかには、自分のイメージに近い住宅の写真を貼ったスクラップブックを持参される方も珍しくありません。

 お客さまによって異なる要望の一つひとつをしっかりとヒアリングしたうえでアイデアを練り、その要望を上回る提案をすることが建築士の仕事です。そのために必要なのが、お客さまのライフスタイルを想像し、さまざまな方向からプランを出すこと。手掛けた物件のなかに一つでも自分のオリジナルのアイデアを入れることができて、それをお客さまに喜んでいただけたときは、とてもうれしくなります。もちろん、提案はお客さまの予算に合っていなければならないので、費用とのバランスをきちんと考えることも重要です。

 お客さまに最初にデザインを提案するときは、手描きのスケッチを見ていただくことが多いです。最もお勧めの案のほか、標準的な案、少しユニークな案など、たいてい3案を用意します。そのなかから一つの案に絞られたら、コンピューターグラフィックス(CG)で立体感のある絵を描いたり、建築模型を作ったりしてお客さまにお見せします。

 次に、アシスタントの建築士と力を合わせて設計図を描き、工務店に引き渡します。設計図を納品した段階で終了となる物件がある一方、工事の監理まで請け負うときは、建設現場をチェックし、お客さまを現場に案内して工事の状況を説明することまで行います。また、保育園を建築する場合は、近隣住民の同意を得るために説明に行くこともあります。このように、1週間の半分は事務所で仕事をして、残りの半分は現場に出向くのが平均的なワークスタイルです。

Q仕事のやりがいは?

小宮 建築士の仕事のやりがいは、何といっても自分の作品が何十年も先まで残ることです。建物は街の一部となり、さまざまな人が使うので、社会的な影響も大きいです。だから、心の通わないものは造りたくありません。以前、わたしが設計した住宅に住んでいるお客さまから、「この家に住み始めてから、子どもが建築に興味を持ちました」と言われたことがあります。そのように、自分の仕事が誰かに良い影響を与えたことを知ると、幸せな気持ちになります。

Q仕事の依頼はどうやって得るの?

小宮 良い作品を造ることがいちばんの営業活動です。それを見たお客さまから仕事が依頼されるからです。以前は広報活動もしていましたが、今はホームページに作品をたくさん掲載しています。また、良い作品を造り続けるために、自分の設計した住宅に住んでいるお客さまに「住み心地はいかがですか」と、意見や感想を必ず聞いています。

 10年ほど前から保育園も設計しています。過去に手掛けた保育園で働いている調理師さんから、「調理室は閉ざされた空間なので寂しい」という意見を聞いたので、次に保育園を手掛けたときは、園児が廊下の窓から室内を見られるオープンキッチンの調理室を設計しました。そんなふうに、使っている人の意見を聞くことがアイデアのヒントとなり、より良い作品へとつながっていくのです。

事務所での打ち合わせの様子。手掛ける物件が個人宅の場合、お客さまの休みの日に合わせて、日曜日に打ち合わせをすることも現場での打ち合わせ風景。お客さまが納得できる建物を建ててもらうために、大工さんに的確な指示を出します

Qどうして建築士になったの?

小宮 子どものころから父(前ページの小宮成元さん)の建築設計事務所によく遊びに行っていたのですが、建築模型がたくさん置かれた事務所の雰囲気がとても好きでした。絵を描くのも好きだったので、自然と建築士をめざすようになったのです。

 東京理科大学工学部第一部建築学科に在学中は、長期休暇などを利用して、よく海外の建物を見て回りました。さまざまな国や地域の建物を自分の目で確かめることは、建築士にとって大切な修業の一つです。今年の夏は、家族でイタリアの郊外に行きましたが、学生時代に見た建物でも、新たな“気づき”がありました。そうした古い建物を見るときは、建てられた時代の背景、使われている素材などについて文献で調べて参考にします。そうすると、今の時代で建物を設計している自分の悩みと共通する部分があることがわかり、仕事に役立つヒントが見つかるのです。

 建築士に興味を持った小学生の皆さんは、美しい建物をたくさん見てください。それは身近な場所にもあります。たとえば、東京駅の駅舎や都庁の建物などもそうです。そうした建物の前に立ち、さまざまな角度からじっくり眺め、そのデザインに感動することが、建築士への第一歩です。

建築士の仕事道具

パソコンのほかに、
こんな仕事道具を使います。

テンプレート/設計図に記号などを簡単に書き込める定規
雲型定規/微妙な曲線が書ける定規
三角スケール/三角柱型の定規で、一つの面に2種類の目盛りがついているのが特徴
コンベックス(メジャー)/現場で使う金属製の巻き尺
製図用コンパス/大きな正円を描くときに便利
スロープ定規/斜面の角度を測る定規
ブラシ/設計図や机の上の消しゴムかすなどを払うときに使用 sappy

第23回/建築設計事務所:
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