さぴあ職場見聞録
東京消防庁 品川消防署
総務課・管理係 品川1部中隊長
金子 憲明さん
東京消防庁の各消防署には、「ポンプ小隊」「はしご小隊」「救急小隊」「救助小隊」「指揮隊」から構成される大隊(部隊)が三つあり、24時間いつでも出場(※)できるよう、三つの部隊が交代で勤務しています。消防官の仕事は、このような「隊」だけでなく、予防業務などを担当する「係」の仕事も行います。ここでは品川消防署で活躍する金子憲明さんにお話を聞きました。
※出場…消防車や救急車が現場に赴くこと
東京消防庁 品川消防署
総務課・管理係 品川1部中隊長
金子 憲明さん
Qどんな仕事をしているの?
消防官が着用する防火衣は、上下合わせて約10kgもの重さ。出場の指令が出たら、装備を整え、1分以内に消防車両に乗り込まなければなりません。火災現場に到着したら、さらに10kgを超える空気ボンベを背負い、投光器や発電機を運ぶこともあります。右手に持っているのは「とび口」という道具で、建物の天井を突いて壊し、中で火がくすぶっていないことを確認するためなどに使います
東京消防庁に入庁してから、ポンプ隊やはしご隊、指揮隊などで、さまざまな災害現場を経験してきました。そのなかで「指揮隊」は、現場で火災の実態や被害状況を把握し、出場した全部隊を指揮する役割を担います。わたしはこの指揮隊で、災害救急情報センターに、現場の状況や大隊長の活動方針を無線で伝える「通信担当」を経験しました。当初はこの仕事を希望していませんでしたが、実際にやってみると、自分たちの指揮次第で、現場の消火活動の善し悪しが決まるほど責任のあるポジションで、とてもやりがいを感じたのです。自分には向かないと思っていた仕事でも、与えられたことを突き詰めれば、それまで気づいていなかった自分の長所や、やりがいが見つけられると実感しました。このときの気持ちを忘れずに、何でも前向きに取り組んでいます。
また、「隊」の仕事だけでなく、新築建物を審査する「予防係」、既存建物を検査する「査察係」、消火栓の調査をする「防災安全係」なども経験しました。現在は、ポンプ隊を指揮する「中隊長」として活動しています。中隊長は、災害現場にポンプ隊がいちばん早く到着した場合、大隊長に代わって全体の統括指揮を行います。また、大隊の業務を調整する必要もあるため、コミュニケーション力も求められます。
災害対応に当たる消防官の勤務体系は、朝8時30分から翌日8時40分までを当番日の勤務時間とする交替制です。当番日には午前と午後に訓練があり、車両や装備の点検も行って、いつでも出場できる態勢を整えていますが、事務の仕事をする時間も、仮眠の時間もあります。また、当番日の翌日は非番となり、4週間に8日の割合で休みがあります。一方、「係」だけを担当する場合は、週休2日制で土日祝が休みです。
Q消防官として、大切にしていることは?
かつての上司によく言われた「凡事徹底」が座右の銘で、これは「当たり前のことを徹底的に行うことが、非凡な成果をもたらす」という意味です。活動中は派手に見える消防官ですが、その裏には地道な訓練の積み重ねがあります。消防官は、人命にかかわる失敗が許されない仕事なので、一生懸命に訓練するだけでなく、ふだんから身なりを整える、人や仕事に対して誠実であることを心がけるなど、人としての基本をとても大切にしています。どんなに能力がある人でも、ふだんの生活がきちんとしていなければ、いざというときに信頼できませんよね。
Q消防官になろうと思ったのはなぜ?
10時40分、午前の訓練が始まり、中隊長の金子さんがその指揮をします。消防署の裏にある訓練棟を火災現場に見立て、消防官たちは本番さながらの真剣さで、ホースを抱えながら階段を上ります。こうした日々の訓練の積み重ねが、いざというときの人命救助につながるのです
大学では教育学を学んでいたので、教育関係の一般企業に就職しようと考えていましたが、自分に合っているか悩んだときもありました。そこで、就職活動を機に、幼いころから好きだったことを思い返してみると、それは部活動、体育祭、文化祭などで、仲間と一緒に活動することでした。そのため、チームで取り組む仕事が自分に向いていると思ったのです。そんなわたしが消防官をめざすきっかけとなったのは、友人とのロサンゼルス旅行の帰りの飛行機で、たまたま隣の席に座ったのが消防官だったことです。フライト中、その方は消防官の仕事について、さまざまな話をしてくださりました。わたしは、その楽しそうに語る姿に心を打たれ、自分の職業として消防官を意識するようになったのです。
Q消防官になるため、どんな勉強をしたの?
消防官の採用試験(学科)は基本的な問題が多く、範囲が広いです。わたしは試験の半年前に当たる大学3年の秋から準備を始めたので、効率良く勉強しないと間に合いませんでした。そのため、過去問をしっかりと分析し、自分で方針を決めて取り組みました。
入庁後は、初任教育を受けるために消防学校に入校します。初任教育は消防活動だけでなく、社会人としての人間教育の場でもあり、心身共に鍛えられました。また、初任教育では道具の扱い方も学びますが、不器用なわたしは、最初のうちはロープを結ぶのも大変でした。何でも器用にこなす仲間を見ると、後れを取っていると感じましたが、「不器用でも一生懸命やる人のほうが最後は伸びる」と信じ、人一倍、時間をかけて練習しました。その後も、ポンプ機関員、救急隊員、はしご機関員などになるための研修を受けましたが、そうした技術を習得する際も、できるまで人一倍の努力をしました。
わたしは、消防官になる前も、なった後も、さまざまな試験を受けてきましたが、試験の前に集中力を発揮できるのは、学生時代に、バスケットボール部の活動を一生懸命やった経験があったからだと思います。消防官の仕事に興味を持ってくれた皆さんも、自分が一生懸命になって打ち込めることを見つけてください。
金子憲明さんの主なキャリア
「隊のお仕事」 | 「係のお仕事」 | ||
2010 | 渋谷消防署 | ポンプ隊員 | 予防課予防係 |
(消防士 | ポンプ機関員 | 総務課経理係 | |
消防副士長) | |||
▼ | |||
2015 | 神田消防署 | ポンプ隊員 | 予防課予防係 |
(消防士長) | 通信担当 | 警防課防災安全係 | |
ポンプ小隊長 | 予防課防火管理係 | ||
▼ | |||
2018 | 品川消防署 | はしご隊長 | 予防課査察係 |
(消防司令補) | 中隊長 | 総務課管理係 |

●修了した研修など
ポンプ機関技術研修
(ポンプ機関員になるための研修)
救急標準課程研修(救急隊員になるための研修)
特別操作機関技術研修
(はしご機関員になるための研修)
消防官は、ポンプ隊員からスタートし、高度な専門性を持つ業務に必要な知識と技術を庁内研修で身につけながら、キャリアアップしていきます。ハイパーレスキュー隊を希望していた時期があった金子さんは、ブルドーザーのような建設機械を扱う資格など、庁外で取得する資格もたくさん取ったそうです
- 第29回/東京消防庁:
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