受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあ職場見聞録

お寺で働くって、どんなこと?

小室 典証さん写真 浄土真宗本願寺派
築地本願寺
僧侶
小室 典証さん

 今回訪問した築地本願寺には、100人近い僧侶が勤めています。そのほとんどが、代々お寺を営む家に生まれ育った人ですが、なかには一般家庭の出身の人もいます。ここに登場していただく小室典証さんも、その一人。僧侶になることを選んだ理由や、僧侶になるまでの道のり、日々のお勤めの内容などについてお聞きしました。

小室 典証さん写真 浄土真宗本願寺派
築地本願寺
僧侶
小室 典証さん

Qどんな仕事をしているの?

小室 築地本願寺で毎朝7時から行われる読経などのお勤め(勤行)は、どなたでも参拝できます。わたしが担当の日は、朝5時半に出勤し、掃除と準備を行って6時に開門します。勤行が終わると、8時から1時間ほど休憩し、9時から事務仕事をします。そして、12時から午後1時までお昼休みを取り、午後の事務仕事を行った後、3時半に退勤します。以上のような勤務パターンの日が週2~3日あり、それ以外の日は、朝9時から午後5時まで勤務。休日は不定期です。

 法事でお経をあげるだけでなく、訪れた人の相談に乗るのも、僧侶の大切な仕事。仏事やお墓のことだけでなく、人間関係や日ごろの生活の不安など、さまざまな相談に乗っています。また、重い仏具の手入れなど、体力を使う仕事も意外と多いです。そのほかに、わたしは、お寺や仏教を身近に感じてもらうための事業「築地本願寺倶楽部」の企画・運営も担当しています。この倶楽部では、婚活や終活のサポートなど、さまざまな取り組みをしています。

僧侶の仕事道具

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郵便局勤務で見えたもの画像

僧侶が持ち歩く仕事道具には「お念珠(数珠)」や「引鏧」があります。お念珠は、仏様の前で手を合わせるときに、手に掛けて持ちますが、持ち方などは宗派によって異なります。引鏧は、お墓参りなどで使用する携帯用の「おりん」です。

Q僧侶になろうと思った理由は?

小室 小さいころは、昆虫などの生き物が好きで、やんちゃな少年でした。小学3年生で転校しましたが、そのころから「母子家庭だから」という世間の偏見の目に気づき、勉強ができないことを母のせいにされては申し訳ないと思って、勉強をがんばるようになりました。

 そんなわたしが僧侶の道に進むきっかけを与えてくれたのは、母の再婚相手である育ての父です。父は浄土真宗を信仰し、お寺の門徒推進員(お寺の活動をサポートするボランティア)をしていたのですが、わたしは父をとても尊敬しており、よく一緒にお寺を訪問しました。父と血はつながってはいませんが、何かつながりがほしくて、高校卒業後は、父の出身校である慶應義塾大学の文学部に進学しました。

 しかし、就職活動の時期になると、それまであった高校受験、大学受験という次の目標がなくなり、「自分とは何か。自分は将来、どう生きていけばいいのか」と悩むようになりました。就職活動も、もやもやしながら、しっくりとこないものだったのを覚えています。

 そんなわたしに「お坊さんが向いていると思う」と勧めてくれたのが父です。それまでまったく考えていなかった選択肢ですが、大学で専攻していた倫理学とも通じるものを感じ、地元のお寺に相談に行って、仏教について学べる東京仏教学院を紹介してもらいました。進学当初は研究者になることも視野に入れていましたが、学んだ知識を社会に生かすには僧侶になるのがいちばんだと考え、得度しました。築地本願寺には、2018年から勤務しています。

Q僧侶として大切にしていることは?

小室 東京仏教学院で学んでいたころ、恩師に「僧侶は仕事ではなく生き方だ」と言われました。僧侶になってからは、そのことばを常に念頭に置いて、「仕事だから」と割り切らずに、「自分は24時間いつでも僧侶である」という意識を持つことを大事にしています。

 また、相談に来られた方に対しては、その方の悩みを親身に聞いて、安易に解決策を提案するのではなく、自分のことのように一緒に悩み、寄り添うことを心がけています。直接解決に結び付かなくても、その方の心の癒やしになれたらと、日々思っています。

 相談された方が、すっきりとした気持ちになってくれたときは、僧侶としてやりがいを感じます。逆に、「こう言ってあげたら、もっとよかったかもしれない」「このことを知っていれば、伝えてあげられたのに」と、反省することもあります。

築地本願寺では、早朝・午前・午後・夕方など、さまざまな時間帯にお勤めを行っています。午前7時から始まる朝のお勤めの前には、本堂の掃除や仏花への水やり、輪灯と呼ばれる灯火具の灯芯の確認()などといった準備を行い、6時になったら本堂の門を開けて参拝者を招き入れます()。輪灯は、金属なのでとても重いのですが、ろうそくの火のすすがつくので、定期的に取り外して磨き、きれいにします(おみがき)()。

Qこれからの目標は?

小室 頼りがいのあるお坊さんになれるように、ゆめゆめおごることなく、精進したいと思っています。

 中学受験に挑戦する小学生の皆さんにお話ししたいのは、人は学歴や肩書などに関係なく、どう生きたかが大切だということです。結果にかかわらず、努力は皆さんの人生の糧となります。やりたいことがあれば、それを突き詰めるのもいいと思います。ただし、授業中はしっかりと先生のお話を聞きましょう。

 勉強でも習い事でも、自分が取り組んでいることに、無駄なことは一つとしてありません。たとえば、わたしは子どものころに弓道を習っていましたが、そのときは嫌々通っていました。しかし、僧侶になった今、弓道で身につけた立ち座りなどの所作が役に立っています。

 日々を過ごすなかで、「こんなことをする必要はあるのだろうか」と思うときもあるかもしれません。それでも、後にそれが役に立つ場合があることを忘れずに、何事にも一生懸命に取り組んでくださいね。

僧侶はみんな丸刈りなの?

僧侶の画像阿弥陀様は、姿形にとらわれずお救いくださる仏様であるため、浄土真宗では、頭をそっている僧侶もいれば、そらない僧侶もいます。わたしは「自分は僧侶である」と自覚するために、2、3日おきにそっています。頭・顔・体と、一気に洗えるので、おすすめです。

第31回/お寺:
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