受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあ仕事カタログ 特別編

「第49回 宇宙飛行士」:
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第49回 宇宙飛行士

 ロシアのソユーズ宇宙船で宇宙へ旅立ち、2016年7月から約4か月間、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した大西卓哉さんは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士です。ISSにある日本の実験棟「きぼう」では、小動物の飼育、高品質のタンパク質結晶生成など数々の実験・研究を行いました。今回はそんな大西さんに宇宙飛行士の仕事についてお聞きするとともに、中学受験を経験した先輩として貴重なアドバイスもいただきました。

映画『スター・ウォーズ』を見て 宇宙にあこがれ、科学者をめざす

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
宇宙飛行士 大西 卓哉さん
1975年生まれ(41歳)

―大西さんの夢は幼いころから宇宙飛行士になることだったのですか。

大西 子どものころは、「宇宙の研究をする科学者になりたい」と思っていました。小学校低学年のとき、父と映画館で『スター・ウォーズ』という映画の最新作を見て、宇宙にあこがれを持つようになってから、宇宙に関する本をたくさん読みました。

 宇宙についてより深く学びたくなり、航空宇宙工学科のある東京大学工学部に進みました。大学1年生のときに見た『アポロ13号』という映画で、人々の夢や希望を背負って宇宙へ旅立つ宇宙飛行士の姿に感動し、魅力的な仕事だと思いました。職業として「宇宙飛行士」を意識し、「宇宙に行きたい」と思ったのはそのときが初めてですが、実は、それからすぐに宇宙飛行士になるための努力を始めたわけではありません。

タンパク質結晶生成実験は、大西さんが宇宙で行ったさまざまな実験の一つ。写真はタンパク質結晶生成装置(PCRF)にサンプルを設置しているところです。無重量状態で物に重さがなくなるISSでは、サンプルが攪拌されることなどがないため、結晶がきれいに、かつ大きく育ちやすいというメリットがあります。こうして宇宙で得られた結晶を地上に持ち帰り、タンパク質の構造を解明するのが実験の狙いです。得られたデータは、新しい薬をつくる研究などに生かされます

―大西さんは中高時代を聖光学院で過ごされました。中学受験の思い出についてお聞かせください。

大西 ぼくが3年生から5年生まで住んでいた地域では当時、中学受験をする小学生はほとんどいませんでしたが、6年生で東京に引っ越すと、クラスの半数くらいが進学塾に通っていました。その状況を知って父の意識が変わったのでしょう、ぼくも6年生から受験勉強を本格的に始めたのです。麻布中と筑波大学附属駒場中も受験しましたが、残念ながら不合格。当時は勉強があまり好きではなく、親に言われて取り組んでいたので、身が入っていませんでした。それが結果に表れたのだと思います(笑)。

―それでは、いつごろから自主的に勉強をするようになったのですか。

大西 高校1年生のとき、当時の物理の先生の授業が楽しかったので、物理が好きになりました。湧いてきたいろいろな疑問について、放課後に先生のところに聞きに行くと、とても熱心に教えてくださったのです。そんなふうに自分の心のよりどころになるような得意科目ができると、それがほかの科目にもいい影響を与えるようになりました。

「今、しなくてはならないことを 一生懸命にやる習慣」が大切

写真で大西さんがいるのは、地上から約400km上空を飛んでいるISSにある「キューポラ」という名称の出窓。ここから見る地球は青くてとても美しいそうです。ちなみに400kmというのは、東京ーー大阪間の直線距離と同じくらい。そう考えると、宇宙は意外に近い感じがするのではないでしょうか。ISSは90分に1周という高速で地球の周りを回っているので、24時間に昼と夜が16回も来ます

―大西さんは大学卒業後、1998年に全日本空輸(ANA)に入社し、ボーイング767型機の副操縦士になられました。パイロットの仕事をしながら、JAXAの宇宙飛行士選抜試験を受けるための勉強をするのは大変でしたか。

大西 2008年、10年ぶりに宇宙飛行士候補者の募集が行われるということは、新聞の小さな記事で知りました。すぐに挑戦を決意したのですが、選抜試験開始まで3〜4か月しかなかったため、仕事の合間に英語と学科試験の勉強をしました。パイロットの仕事は泊まりが多いので、宿泊先のホテルでも勉強していましたね。

 宇宙飛行士候補者の募集は不定期に行われるため、決められた時期までに受験勉強を仕上げることはできません。それだけに、“今、しなくてはならないこと”を日ごろから一生懸命にやっておく必要があります。つまり、自分の目の前にある仕事や勉強で最善を尽くす習慣さえ身につけていれば、最終的に“本当に自分がやりたいこと”に挑戦するときに役立つのです。ぼくは宇宙飛行士の選抜試験を受けたとき、そのことに気づきました。

―宇宙飛行士の選抜試験で、特に印象に残っているものはありますか。

大西 8か月近くにわたる試験期間の最後に行われた「閉鎖環境試験」ですね。これは最終試験に残った10人が狭い空間の中で1週間、共同生活をしながら、与えられた課題に取り組むというもの。その様子は部屋に設置されたカメラとマイクを通じて、心理学者や精神科医を含む試験官たちに24時間監視されています。そうしたストレスがかかったとき、どんな行動を取るのかを確認することがこの試験の目的です。そして、課題に取り組む姿勢や行動などから、宇宙飛行士としての適性が判断されるのです。分刻みのスケジュールをこなさなくてはならないうえ、課題を通じてどんどんプレッシャーをかけられるので大変でした。

宇宙飛行士って何?

 宇宙船に乗って、宇宙空間にあるISSに行き、宇宙船とISSの保守・点検やシステムの運用、微小重力という特殊な環境を生かした実験・研究などを行います。ISS内で活動するだけでなく、宇宙服を着て船外に出て仕事をすることもあります。宇宙飛行士はそれぞれ主な役割を割り当てられていますが、一緒にいる仲間たちと協力し合って仕事を進めます。

宇宙飛行士の役割

ISSコマンダー

ISS全体の指揮をとる、ISSの船長。宇宙飛行士全員の命とISSミッション全体を預かるという重い責任と、適格な危機管理能力が求められる。

ソユーズコマンダー

地上とISSとの間の往復などに使用されているソユーズ宇宙船のコマンダー(船長)は、ロシア人宇宙飛行士が担当。宇宙船の操縦を行う。

フライトエンジニア(ソユーズ宇宙船のみ)

ソユーズ宇宙船のフライトエンジニアは、コマンダーの隣に座るフライトエンジニア1(レフトシーター)と、フライトエンジニア2の2名。ロシア以外の国の宇宙飛行士でも担当することができ、コマンダーの補佐役としてソユーズ宇宙船のシステム運用などを行う。特にフライトエンジニア1は、コマンダーが何らかの身体的な問題があって業務を遂行できなくなった場合、ソユーズが安全に地球に帰還できるようにすべての作業を実行できる能力が必要とされる。なお、ソユーズ宇宙船での音声による交信は、すべてロシア語で行われる。

※‌大西さんは、フライトエンジニアとISS搭乗宇宙飛行士の両方の資格を持つ宇宙飛行士です。打ち上げと帰還時にはレフトシーターとしてコマンダー(船長)の補佐を務めました。

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