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  • 18年1月号 さぴあ仕事カタログ「第50回 産業動物臨床獣医師」

さぴあ仕事カタログ

第50回 産業動物臨床獣医師

 皆さんが「獣医師」という仕事から連想するのは、ペットが病気やけがをしたときに連れて行く動物病院のお医者さんでしょう。しかし、犬や猫といった小動物の診療のほか、獣医師はさまざまな分野で活躍しています。今回は畜産農家が飼育する牛や豚などの家畜を主に診療する「産業動物臨床獣医師」について、日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科長の小山秀一教授にお話を伺いました。

獣医師には
どんな種類があるの?

日本獣医生命科学大学 獣医学部
獣医学科長 小山 秀一教授

小山 皆さんがよく知っている動物病院の獣医師は「小動物臨床獣医師」といい、主に犬、猫、鳥、ハムスターなどのペットを診療します。一方、畜産農家が飼育している牛、豚、馬などの家畜(産業動物)を診療する獣医師を「産業動物臨床獣医師」といいます。このほか、競馬場で競走馬を専門に診る、動物園や水族館で展示動物の診療や繁殖にあたるなど、獣医師の活躍の場所はさまざまです。しかし、競馬場やレジャー施設のようなところは数が限られているため、就職先としては狭き門です。

 また、国家公務員や地方公務員として、人間や家畜の衛生に関する仕事に携わる獣医師もいます。たとえば、皆さんがふだん食べている肉は、獣医師資格を持つ職員が食肉衛生検査所で行う検査で安全が確認されなければ、販売は認められません。食中毒が発生した場合、原因を調べるために保健所で検査を行いますが、このような食品安全管理の分野に従事する獣医師もいます。あるいは、化学製品、医薬品、飼料などを製造する企業や検査・分析機関で活躍する獣医師もいれば、私のように獣医師を育成する大学の教員になる人もいます。最近では専門分野をさらに研究するために、働きながら大学院に通ったり、大学院の研究生として論文を執筆したりする獣医師も増えています。

産業動物臨床獣医師の
仕事とは?

小山 産業動物臨床獣医師の多くは、農村地域にある農業共済組合や農業協同組合に勤務しています。周辺の畜産農家まで車で駆けつけて往診し、家畜の病気やけがの治療をするほか、伝染病予防のためのワクチン接種、繁殖のための人工授精、出産の立ち会いといった仕事をします。

 産業動物臨床獣医師が専門とする家畜はたいてい1種類で、牛も馬も豚も羊も診療する人はまれです。しかし、その1種類については、あらゆる症状を診なければなりません。人間を診る医師は内科・外科・産科など専門領域によって診療科が分かれていますが、産業動物臨床獣医師はこれらをすべて一人で担うため、仕事の幅は広くなります。また、家畜は給餌(えさを与えること)から排泄まで、すべて人間が世話をしなければ育ちません。家畜が健康に成長できるよう、畜産農家の人に正しい管理方法を指導することも、産業動物臨床獣医師の大切な仕事なのです。

 社会における産業動物臨床獣医師の使命は、産業動物の健康を守り、畜産農家の健全な経営を支えること。つまり、皆さんが安心して消費できる畜産物の生産に貢献し、「食の安全」を確保する重要な役割を担っているのです。

獣医師になるために
必要な勉強は?

小山 獣医学科を設置する6年制の大学は2017年11月現在、国公立・私立を含め全国に16あります。ここで獣医師になるために必要な知識と技術を修得し、国家試験に合格すると卒業後に獣医師の資格が得られます。

 現在、獣医学科の授業の7割は、51科目19実習からなる「獣医学教育モデル・コア・カリキュラム」に沿って行われています。これは、全国16大学共通のカリキュラムで、残りの3割は各大学の特色を活かした独自カリキュラムになっています。どの大学も1・2年次は一般教養科目や基礎専門科目が中心で、学年が上がるに従って専門科目が増えていきます。

 本学では、1・2年次に獣医解剖学・獣医生理学などの基礎獣医学を、3年次以降に獣医内科学・公衆衛生学などの臨床・応用獣医学を学び、研究室で自分の興味がある分野についてより深く勉強したり、さまざまな実習に参加したりして、獣医師に必要な知識と技術を身につけていきます。そして、5年次の7~8月に、全国16大学共通の評価試験「獣医学共用試験」を受験し、この試験に合格した学生だけが5年次後期から始まる「参加型臨床実習」を受けることができます。実習では、5年次に小動物と産業動物の両方を総合的に学び、6年次にはどちらかを選択してさらに臨床力を高めます。また、6年次後期には、国家試験に向けた総まとめとして「総合獣医学」を学びます。

産業動物臨床獣医師に
求められる資質は?

小山 牛、馬、豚といった産業動物は体が大きいうえ、深夜に往診対応することが少なくないため、体力が必要です。また、動物が好きというだけでなく、地域の畜産農家の人たちと良好な関係を築くコミュニケーション力や、「地域の畜産業と日本の食の安全を守ろう」という使命感も求められます。

 また、人間の医療現場には最新の検査機器が豊富にありますが、産業動物を診る場合は十分な機材が整っていないことも多いものです。そんな環境でも適切な治療を行うためには、みずから工夫し、その場で使えるものを代用して処置をするなど、柔軟な発想力も欠かせません。

 産業動物臨床獣医師の仕事に興味を持った小学生の皆さんは、さまざまな分野へと自分の関心を広げ、ぜひ実際に挑戦してみて、経験をどんどん積んでください。また、動物は人間の思い通りには動いてくれませんから、集中力を維持しながらじっと待たなくてはならないときもあります。勉強やスポーツを通して、日ごろから集中力を養っておくことも重要ですね。

産業動物臨床獣医師になるための実習とは

 獣医学科の学生が5・6年次に経験する参加型臨床実習は、獣医師としての進路を決める大切なもの。参加型臨床実習では、獣医師資格を取得する前の学生が、動物病院や畜産農家で実際に動物の診察を行います。そこでは獣医師に必要な知識、技能、態度が備わっていることを飼い主に示し、その学生が診療に参加することへの同意を得なければなりません。2016年度から導入された「獣医学共用試験」は、獣医学の基礎知識と問題解決能力を評価する試験、臨床実習に必要な技能・態度を評価する試験の二つで構成されています。この獣医学共用試験に合格しなければ、参加型臨床実習に参加することはできません。

①付属牧場の臨床センターで行う大動物臨床実習の様子。牛や馬の採血や投薬を経験します ②牧場実習は富士山麓にある付属牧場「富士アニマルファーム」で実施。4年次では数名で1頭の牛を担当し、畜舎管理や各種検査を行います ③獣医臨床繁殖学実習では、雄性生殖器の形態や機能の理解、精液検査法などを学習します ④実験動物学実習では、マウス、ラット、ウサギなどを用いて「保定(動物が暴れないように押さえること)」、雄雌判別、取り扱い、麻酔などを段階的に学びます

「第50回 産業動物臨床獣医師」:
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