受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあ仕事カタログ

第57回 研究者

イメージ画像 理科や算数が好きな小学生のなかには、将来は白衣を着て仕事をする研究者になりたいと思っている人もいるのではないでしょうか。研究者が活躍する場の一つが、新しいものを開発したり、すでにあるものを改良したりする企業の研究所です。ここでは、主にビールやコーヒーなどの飲料をつくっているキリンホールディングスの研究所で働く研究者の仕事を紹介します。同社の研究者を経て、社内ベンチャーとしてINHOP社を立ち上げた金子裕司さんにお話を聞きました。イメージ画像

どんな研究をしているの?

横浜市金沢区にあるキリン中央研究所

金子 キリンホールディングスには現在、三つの研究所があり、それぞれ異なる領域の研究をしています。そのなかで、健康をサポートする領域に力を入れ、「食」から「医」に及ぶ幅広い研究・開発を行っているのがキリン中央研究所です。ここで生まれた研究成果に基づき、新しい事業や商品・サービスをつくり出していくのです。

 今は高齢化とストレス過多の時代ですから、そうした社会的な問題の解決に貢献できるよう、キリン中央研究所では特に脳や免疫の領域に力を入れて、新事業につながる研究・開発を進めています。たとえば、ビールの原料である大麦やホップ、清涼飲料水の原料である茶葉や果実、そして発酵させるための微生物である酵母・乳酸菌・こうじ菌なども研究の対象です。そんな原料から健康をサポートする機能を持つ成分を見つけ出し、それがなぜ効くのかを解明したり、その成分を加工して商品に応用する技術を生み出したりするのが研究者の仕事です。これまでの研究からもたらされた成果には、次のようなものがあります。

「プラズマ乳酸菌」という菌が体の免疫機能をサポートすることを発見。 カマンベールチーズなどに含まれる「βラクトリン」という成分にアルツハイマー病の予防効果があることを発見。 ビールの原料であるホップの苦味成分(イソα酸)に、体脂肪の低減効果、アルツハイマー病の予防効果、脳機能を活性化する効果があることを発見。そのイソα酸と同じ効果を持ち、苦味を抑えた独自素材の「熟成ホップエキス」を開発。

 わたしが代表を務めるINHOPという会社は、ホップに関する研究成果を生かして新事業を行うため、昨年秋に設立されました。ホップを食べやすい形にした商品にして販売すると同時に、ホップがどのように体に良いのかという情報を広め、人々の健康に関する悩みの解決に貢献していきます。

企業の研究所の研究者と
公的な研究機関の研究者の違いは?

金子さん画像
INHOP株式会社
代表取締役社長

金子 裕司 さん

金子 まず、研究費の出所が違います。たとえば、国立の研究機関では国から研究費をもらって研究しますが、その原資は国民の税金です。一方、企業の研究所は商品やサービスを提供して得た利益で研究します。そうした違いがあるため、行った研究を何に役立てるかが違ってきます。国立の研究機関では、国民全体の生活をより豊かにするため、公共性の高いサービスに活用するための研究が求められます。一方、企業の研究所は、消費者に手に取ってもらえる商品やサービスに活用できる、より便利なもの、よりおいしいもの、より健康になるものなどについて研究します。企業の利益拡大につながる成果、会社の競争力を高め、企業価値を向上させられるような成果、そして新しい事業の立ち上げなどが求められます。

 公的な研究機関も企業の研究所も、世の中の人々が困っていることを解決し、生活をより豊かにするための研究を行うという点は共通しています。しかし一般的には、具体的な商品やサービスをつくって、社会に働きかけているのは企業の研究所なので、そちらのほうが、自分の仕事について、社会からの反応を得やすいといえるでしょう。

研究から経営へ
INHOP社設立

INHOPの設立記者発表画像 2019年10月に行われたINHOPの設立記者発表。社長に就任した金子さん(左から2人目)は、キリンホールディングスの健康技術研究所で、熟成ホップの実用化に向けた研究を進めてきました

金子 キリンは食にかかわる会社なので、生物・農学など、バイオの分野を専攻してきた人が研究者の過半数を占めています。ものをつくる会社でもあるため、工学を専攻した研究者もおり、わたしも工学部の出身です。また、最近はいろいろな分野の知見を組み合わせて新しい価値をつくることが求められています。そこで、情報技術(IT)や人工知能(AI)、デザインなどを学んだ人を採用する動きも出ています。

 また、キリンでは修士課程を修了した研究者が多いのですが、博士号は、就職してから書いた論文で取得する研究者も多くいます。

 会社で研究者として何年も経験を積むと、自分自身の手を動かすことは少なくなります。その代わり、研究計画を立て、現場の研究者に実施してもらうこと、そのデータを解析したり、得られたデータから特許出願の準備をしたり、論文を書いたりすることが主な仕事になります。

 また、わたしは昨年の秋にINHOP社の社長に就任しました。研究者には、このように社内ベンチャーを立ち上げて経営者になる道もあります。社員8名と少数精鋭のなか、お客様に持続的な価値を提供できるよう会社の運営に努めています。今は研究者兼経営者として充実した日々を過ごしています。

ホップができるまで

ホップ画像  ホップはビール製造に欠かせない原料で、ビールに香りとさわやかな苦味をもたらし、泡を安定させる効果もあります。つる性の植物で、ビールには毬花と呼ばれる球形の手まりのような形の花を使います。なお、ホップは雄株と雌株に分かれていて、ビールに使うのは雌株の毬花だけです。

刈り取り画像ホップ棚の高さは5mほど。リフトに乗って、つるごと鎌でていねいに刈り取ります。収穫時期は8月後半から9月上旬にかけてです

→

大型収穫センター画像トラックに満載されたホップは、近くの大型収穫センターに運び込まれます

→ 選別画像
専用の機械でつるから毬花を摘み取ります。葉や傷んだ毬花は人の手でていねいに選別され、コンベアから取り除かれます

→ 乾燥室画像
乾燥室に入れ、60度で8時間乾燥。すると、毬花に含まれる水分の割合は、6.5~7%まで下がります

→ ホップペレット画像
乾燥させた毬花は、ペレット状に圧縮して固形化。こうしてできたホップペレットは、次の収穫の時期まで安定した品質で保存できます

「第57回 研究者」:
1|

ページトップ このページTopへ