さぴあ仕事カタログ
映画やドラマといった映像作品を作る現場では、さまざまな役割の人が働いています。今回は、その総責任者である「監督」の仕事を紹介します。映画では「監督」ですが、テレビドラマでは「演出家」と呼ばれることもある仕事です。その両方で豊富な実績を持ち、デジタルハリウッド大学で監督や演出家をめざす学生たちの指導も行う新城毅彦さんに、監督・演出家への道のりなどについてお聞きしました。
監督・演出家は
どんな仕事をしているの?
デジタルハリウッド大学
デジタルコミュニケーション学部
デジタルコンテンツ学科
客員教授 新城 毅彦さん
(監督・演出家)
映画やテレビドラマを作るときは、制作会社やテレビ局のプロデューサーがその題材を探して企画し、監督や脚本家を選びます。また、作品によっては、監督が題材を探して企画を立て、プロデューサーに話を持ち込むことでスタートする場合もあります。
映画やドラマの題材となる原作は、小説や漫画などいろいろありますが、それを映画やドラマにするには、原作者などから著作物の利用について許可を得ることが必要です。そうした著作権の利用に関する手続きをし、スポンサーを探し、お金の管理を行うのはプロデューサーの仕事です。プロデューサーは俳優への出演交渉もします。
一方、監督はプロデューサーや脚本家と意見交換をしながら、プロデューサーが作成したプロット(物語の構想や筋などを示した企画書)から台本を作ったり、キャスティング(出演者の配役を決めること)にかかわったりします。このように、監督は撮影の前段階から作品作りに参加し、撮影や編集といった制作現場の総責任者として、どのような映像を撮るかを決めるのです。
そして、イメージどおりの映像が撮れるよう撮影場所を決め、出演者とコミュニケーションを取りながら演技指導を行い、カメラマンや照明などのスタッフに指示を出して撮影を進めます。出演者やスタッフに対してどれだけ細かく指示するかは、監督の個性や撮影チームの信頼関係によって異なりますが、作品のテーマから外れないよう、監督はしっかりと交通整理をしなくてはなりません。
撮影が終わったら、撮ったカットを効果的につなげ、効果音やコンピューター・グラフィックス(CG)などを入れて編集をします。こうした作業は編集スタッフが行いますが、イメージどおりに仕上がるよう、監督は編集スタッフにも指示を出します。そのやり方も、監督の個性やスタッフとの信頼関係によって違いが出ます。
●撮影現場で働く人々
撮影現場ではさまざまな役割を持つ人々が働いています。撮影と編集の総責任者である「監督」以外にも、演出の補助や撮影のスケジュール管理、撮影地でのさまざまな手配などを分担して行う「助監督」が数名います。「制作部」は、ロケ場所探しなどを担当します。前のカットと次のカットとのつながりに矛盾が出ないように状況を「記録」する係や、大道具・小道具・装飾品などを分担する「美術」の係もいます。そのほかにも、「撮影」「照明」「録音」「メイク」「衣装」などの仕事があります。
監督・演出家になるには?
いろいろなケースがありますが、わたしの場合、大学を卒業してテレビドラマの助監督になり、その後、テレビドラマの演出家を経験してから映画の監督になりました。一般的に、助監督は一つの作品に複数人いて、数年間ずつ修行を積みながら立場が上がっていくものですが、助監督の中でトップになったからといって、次は監督になれるという保証はありません。
映画監督になりたい人は、テレビ局や制作会社に就職するのが近道です。しかし、採用人数の少ないテレビ局に入社するのはかなり難しいですし、関係のない部署に配属される可能性もあります。また、制作会社は、ドラマ、コマーシャル、ミュージックビデオ、バラエティー番組など、会社によって専門や得意分野が異なるので注意が必要です。
映画監督になる別の方法としては、自主映画を撮る道があります。その作品が映画祭などのコンクールで認められれば、商業映画で監督としてデビューできる可能性が出てきます。
映画監督をめざす人が学ぶ大学としては、日本大学の芸術学部、日本映画大学、わたしが教えているデジタルハリウッド大学などが挙げられます。もちろん、そうした大学に進学しなくても、専門学校で学んだり、独学をしたりして、のし上がってくる人もいます。
1学部1学科で、デジタルコミュニケーションを横断して学べるカリキュラムを設置。デジタルコンテンツ(3DCG、ゲーム・プログラミング、映像、グラフィック、アニメ、ウェブデザイン、メディアアートなど)および企画・コミュニケーション(ビジネスプラン、マーケティング、広報PRなど)を融合的に学べる大学です。
さまざまな選択科目があるので、自分に向いたものを選んで、いろいろ学びながら自分に合った職業を見つけていくことができます。たとえば、映画監督をめざしつつ、一方でデザインを学ぶことも可能です。メディアや経営についても知っておけば、将来の仕事の幅が広がるでしょう。
監督・演出家に
求められる資質とは?
個人的な考えですが、繊細で、感受性が豊かであることが大切だと思います。さらに、いろいろな物事に興味を持てる人がいいですね。
監督や演出家をめざすなら、本を読んだり写真集を見たりするなど、いろいろな物事を経験し、自分が興味のあることをしっかりと持つようにしましょう。いつかそれに飽きることがあっても、子どものころから好きだったことの影響は、大人になっても残るもの。それが後に学んだことなどと交ざり、自分の個性を形成してくれます。
また、人をよく観察しましょう。映画やドラマは感情を紡ぐ物語です。そのため、「こうしたら人はどう反応するのか」「こう言われたら人はどう感じ、どんな行動に出るのか」といった感情の流れがわかっていないと、見る人に違和感を与えてしまいます。
小学生の皆さんは、まず、しっかり勉強することが大事です。なぜなら、その時々にすべきことをがんばった経験が、生きていくうえで役に立つからです。わたしが就職するとき、父に「助監督から下積みを始める」と伝えたら、こう言われました。「どこにでも就職できる人がそう言うなら納得するけれど、そうでない人に言われても納得できない」と。それでも父は、わたしに好きな道を歩ませてくれたのでありがたいと思っていますが、将来の可能性を広げるためには、やはり小さいうちから努力したほうがいいのです。そうしたなかで、興味のあるもの、興味のある科目を伸ばしましょう。わたしの場合、それは読書でした。たくさんの本を読んだことは、わたしにとって大きな財産になっています。
プロフィール
新城 毅彦さん
1990年代からテレビドラマの演出家として活躍。2006年、『ただ、君を愛してる』で長編映画の監督としてデビュー。その後、『僕の初恋をキミに捧ぐ』や『潔く柔く』など、少女漫画が原作の恋愛映画を次々と手掛けており、「胸キュン映画三巨匠」の1人として知られる。
- 「第60回 監督・演出家」:
- 1|2
◎学校関連リンク◎
◎人気コンテンツ◎