さぴあ仕事カタログ
GHOST GATE FILMS代表
プロデューサー・監督・脚本家 原 祐樹さん
映画やドラマといった映像作品の関係者のなかには、企画・脚本・監督を兼務するなどマルチな活躍をする人もいます。たとえば、ドラマ『スカム(SCAMS)』でプロデューサー・脚本原案・監督の3役を担った原祐樹さんもその一人。このドラマは2019年7月から8月まで地上波で放映され、現在は動画配信サービス(Netflix)で配信中です。どんな経緯でこの作品は生まれ、そのなかで原さんはどのような仕事をしていたのでしょうか。初めて映画を撮った高校時代の話もお聞きしました。
ノンフィクションを原案に
ストーリーづけしてドラマ化
1人で3役を担った原祐樹さん。「いいアイデアが浮かんだときや、自分の手がけた作品を見て喜ぶお客さんの顔を見たとき、この仕事に大きなやりがいを感じます」
「金をため込む老人は日本のがんだ!」――そんなことばに洗脳され、 お金に困った名門大卒の若者が、“振り込め詐欺”に手を染めていく衝撃的な姿を描いたドラマ『スカム(SCAMS)』。原祐樹さんがプロデューサー・脚本原案・監督の3役を担ったこの作品は、第57回ギャラクシー賞テレビ部門選奨を受賞しました。
振り込め詐欺という社会問題をテーマに選んだ理由について原さんは、「貧しい人が実際に犯罪に至るまでの背景には、さまざまな事情があります。そうしたことを知らない人はたくさんいると思うので、知ってほしいという気持ちがありました」と話します。
そもそもこのドラマが生まれたきっかけは、当時、映画会社のプロデューサーだった原さんが、以前から一緒に仕事をしたいと注目していた若手監督の小林勇貴さんに初めて会って話したことです。そのときに、2人はたまたま同じ本を読んでいて、それをドラマ化したいと思っていることがわかったのです。その本こそ、『スカム』の原案となった『老人喰い――高齢者を狙う詐欺の正体』(鈴木大介・著)でした。
本当にあったことを取材して書いた話に、ストーリーを肉づけしてドラマ化しよう――そんな企画を立てた原さんは、その後、企画を実現するために、どんな活動をしたのでしょうか。
「この作品は、テレビドラマとしてやりたい企画だったので、書いた企画書をテレビ局に持ち込みました。放映が確定してからは、出演者やスタッフを誰にするかを決め、声を掛けました。さらに、より多くの人に見てもらい、ビジネスとしても成功させたいと思ったので、動画配信会社にも営業をし、宣伝プロデューサーと一緒にどのような宣伝を行うかも考えました」とのことです。
さらに原さんは、脚本の原案も自分で書き、撮影がスタートすると、現場の責任者として、小林監督と共同で監督も務めました。
きっかけは高校時代に作った映画
楽しむ友だちの姿が夢への原動力に
愛用のノートパソコン。企画書や脚本を書いたり、メールのやりとりなどをしたりします
小説・漫画を読むときや、人の経験談を聞くときなどは、日ごろから、常に「ドラマ化・映画化できないか」と考えるようにしているという原さん。「監督や演出家を夢見るようになったのは、高校生のときでした。美術の授業で『なんでも好きなものを作っていいよ』という課題があり、映画好きな友人に誘われ、自分たちで映画を撮影したことがありました」。当時、ジャッキー・チェンのアクション映画が好きだった原さんが作ったのは、いじめられた男子たちが復讐に向かうというアクション映画。その後、文化祭でもクラスで映画を作ることになり、すでに経験のあった原さんが監督を務めることになりました。その作品は文化祭の映画部門で優勝。同時に、集客を競う部門でもクラスを優勝に導いたのです。
「友だちが、自分の作った映画を見て笑ったり、『おもしろかった』と喜んだりしている顔を見て、こんなに楽しいことはないと思ったのを、今も鮮明に覚えています」とのことですが、そのときの喜びが、原さんを映画の道に進ませる原動力になったのは言うまでもありません。
高校卒業後は、監督・演出家への道だけでなく、コンピューター・グラフィックス(CG)の技術者になる道も考え、その両方が学べるデジタルハリウッド大学に進学。主に実写映像の撮影や脚本の授業を受けつつ、デザインやCGについても知識を深めていきました。
学生時代からバラエティー番組の
ADなどの経験を積む
原さんは、大学在学中からCGの会社のインターンシップに参加したり、バラエティー番組のアシスタント・ディレクター(AD)のアルバイトを経験したりもしました。大学卒業後は、従兄弟の知人に映画の助監督がいたので、その人の下で助監督として修業を積もうと考えていました。
撮影現場での原さん。映像のチェックや打ち合わせなど、さまざまな業務をこなします。「撮影現場では、面倒なことがいろいろと起きますが、それでもあきらめずに細かい部分にまで目配りできる精神が、監督や演出家には必要だと感じます。また、周りの人をまとめる力や、旺盛な好奇心も大切です」と原さんは言います
しかし、「就職活動は今しかできないことだし、その経験がないと、今後就職活動の場面を撮る機会があっても、その演出ができないかも」と考えた原さんは、就職活動もしてみることにしました。
すると、最初に受けたエンタメ企業での採用が決まり、そこから関連会社である映像制作会社に出向して、映画作品の助監督を務めることになりました。めざしていた仕事に就けることになったのです。その後、プロデューサーを任されるようになり、運と自己主張の相乗効果で、徐々に自分のやりたい方向へと軌道を修正していったそうです。
「ドラマの演出家は経験しましたが、商業映画の監督はまだやったことがないので、今後の目標として仕事の幅を広げていきたいです。将来は日本に限らず、海外でも活動できる監督・演出家になることをめざしています」
そう話す原さんは、今後どんな作品を作りたいのでしょうか。
「見た人が何も得ずに終わってしまう作品ではなく、何か一つでも得るものがある作品にすることを心掛けています。1本の作品を見るのに、映画なら2時間前後かかり、連続ドラマなら9~10時間かかることもあります。そのため、何かを考えるきっかけや新しい知識、価値観といったものを与えられる作品を生み出していけたらいいなと思っています」と抱負を語ってくれました。
原 祐樹さんのキャリア
2009年 | デジタルハリウッド大学を卒業後、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社(当時)に入社。出向先の株式会社イースト・エンタテインメントで、篠原哲雄監督の下、映画作品の助監督を務める |
---|---|
2014年 | プロデューサーとして商業映画やテレビドラマ、配信ドラマの企画プロデュースを始める |
2020年 1月 | フリーランスとして独立 |
2020年 11月 | GHOST GATE FILMSを設立 |
- 「第60回 監督・演出家」:
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