さぴあ仕事カタログ
病院や保険薬局などで、医師の書いた「処方箋」に基づいてそれぞれの患者に必要な薬を正確に調剤してお渡しするのが、薬剤師の主な仕事です。薬の種類はたくさんあり、間違えて使用してしまうと体に害が及ぶおそれがあるので、薬剤師には薬を正しく扱える知識が不可欠です。そのため、薬剤師になるには医師と同様に、国家試験に合格しなければなりません。今回は、そんな薬剤師の仕事について、北里大学薬学部の尾鳥勝也教授に伺いました。
薬剤師は
どんな仕事をしているの?
北里大学薬学部薬物治療学Ⅳ
教授
北里大学メディカルセンター
薬剤部部長
博士(臨床薬学)
尾鳥 勝也 教授
尾鳥 体の具合の悪い人が病院で医師の診察を受けた場合、医師は、その患者の治療に薬が必要だと判断したら、その「処方箋」を書きます。処方箋とは、どんな薬をどれだけ使用するかを記した書類のことで、薬剤師は処方箋に基づいて「調剤」します。調剤とは、処方箋に書かれている薬を、指示された量で調合することです。
またその前に、処方箋の内容を確認するのも、薬剤師の大切な仕事です。たとえば、頭が痛い患者に頭痛薬を出す場合、頭痛薬にもさまざまな種類があり、種類によって飲み方や飲む量が違います。薬剤師は、処方箋に書かれた内容が正しいかどうか、その患者がふだん飲んでいる、ほかの薬との飲み合わせが悪くないかなどを確認したうえで、調剤を行います。問題がありそうなときは、医師に問い合わせて種類や量などを変えることもあります。
薬には、錠剤、カプセル剤、粉薬、シロップ剤などの飲み薬もあれば、塗り薬、注射薬などもあり、その種類は実にさまざまです。薬局に置いてある薬は、飲み薬だけでも数百種類にも及びます。そのため、薬剤師は数多くの薬を知っていて、間違えずに扱えるだけの知識や技術が必要です。錠剤やカプセル剤なら、通常は必要な数を取りそろえて患者に渡しますが、子どもなど、錠剤やカプセル剤を飲むのが難しい人には、医師の指示のもと、飲みやすい状態にして渡す必要があります。そのときは粉薬の重さをてんびんで量ったり、シロップ剤の量を目盛りつきグラスで量ったりして調剤します。
そして、患者に薬を渡すときの説明も、薬剤師の重要な仕事です。薬の飲み方や保管方法、飲んだ後に起こりうる副作用などについて、しっかりと、わかりやすく説明します。
複数の医療機関から薬を処方された場合、飲み合わせによっては薬の効き目が弱まったり、副作用が出てしまったりすることがあるので、気をつけなければなりません。さらに、市販薬やサプリメントとの飲み合わせにも注意が必要です。こうした心配を解消するために、2016年から始まったのが「かかりつけ薬剤師」という制度です。
これは、1人の薬剤師が、1人の患者の服薬状況を、1か所の薬局でまとめて管理するというもの。患者の薬や健康の相談に応じるだけでなく、過去に服用していた薬や現在使用中の薬などを把握し、必要なときは医療機関とも連絡を取りながら、薬による治療が、より効果的になるようにサポートします。「かかりつけ薬剤師」を誰にするかは利用者が決められ、その薬剤師が働く薬局で簡単な書類を書けば、手続きは完了します。
薬剤師の活躍場所は?
病院では、“薬のスペシャリスト”である薬剤師が、上記のような業務を担うことで、医師の負担を軽減しています。そして、より良い医療の提供を支えているのです。
尾鳥 最近は、病院やクリニックなどの医療機関では薬を出さず、医師が書いた処方箋を町の薬局で薬剤師が調剤する「医薬分業」が進んでいます。そのため、薬剤師が働く場所には、大きく分けて病院と町の薬局とがあり、どちらで働くかによって仕事の内容も少し異なってきます。
薬局内の調剤室で薬を扱うイメージが強い薬剤師ですが、それは仕事の一部にすぎません。病院で働く薬剤師は、前述したような調剤の仕事に加え、医師や看護師をはじめとする医療スタッフとチームを組み、入院患者のベッドサイドへ行き服薬指導なども行います(左図)。また、安全・安心な薬による治療が行われるように患者から話を聞いたり、検査結果の数値を見たりして、薬の効果や副作用の確認もします。さらに、医師と一緒に処方を考えたり、薬の変更などについて医師に提案したりすることもあります。薬に関する情報は日々新しいものが出てくるので、その収集も欠かせません。それを、必要に応じて医師や看護師に伝えるのも、病院勤務の薬剤師の大切な役割です。
一方、町の薬局では、通院している患者のために調剤を行う仕事に加え、体の不調を市販薬で治そうという人の相談に乗る仕事もあります。たとえば、「喉の調子が悪い」「胃が痛い」「目がかゆい」といった症状を聞き、その人に適した市販薬を選んであげるのです。なかには市販薬だけでは治すのが難しそうな症状の人もいるので、その場合は医療機関での受診を勧めます。このように、町の薬局に勤める薬剤師は、地域住民の健康をサポートする役割も担っているのです。
ほかにも、薬剤師はイベントなどで人々の健康相談に乗ることもあります。また、スポーツ界では、市販薬やサプリメントの成分によって、知らないうちにドーピング違反にならないようアスリートに指導する「スポーツファーマシスト」という薬剤師の認定資格もあります。最近では、新型コロナウイルス感染症のワクチンの集団接種会場でも、薬剤師が接種をサポートしています。薬剤師の活躍の場は、社会のなかでどんどん広がっているのです。
薬剤師になるには?
尾鳥 薬剤師になるには、薬剤師国家試験に合格し、厚生労働大臣から免許を受けることが必要です。この国家試験を受けるには、大学で薬学部に入り、6年制の薬剤師養成課程を修了しなければなりません。大学では主に2年目から専門科目が始まり、5年目には、病院と町の薬局での実習が11週間ずつあります。
大学の専門科目には、化学・物理・生物といった理科系の科目や基礎薬学をはじめ、人間の体について知る臨床医学、そして、薬が体内でどう作用するかを学ぶ臨床薬学などがあります。また、薬剤師は患者と話す機会が多く、医師や看護師とも常に情報交換をするので、コミュニケーション力も求められます。そのため、コミュニケーションを学ぶ講義や、実際に患者と会話をする模擬演習もあります。さらに、薬に関する最新情報を収集するには、英語の論文を読むことも必要なので、英語教育にも力を入れています。
薬剤師に興味がある皆さんは、さまざまなことに対して疑問を持ち、それを突き詰める習慣を身につけましょう。そして、化学と英語は特に大事なので、しっかりと勉強してくださいね。
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