受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあ仕事カタログ

「学芸員」 ってどんな 仕事をするんですか?

◎回答者
平塚市博物館 学芸員 (天文)
主任 藤井 大地さん

 前のページでは、学芸員の仕事や学芸員になる方法などについて紹介しました。ここでは平塚市博物館に勤務する学芸員の藤井大地さんに登場していただきましょう。天文分野の学芸員である藤井さんは、特に流星の研究に力を注いでいます。仕事とやりがい、学芸員になるまでの道のりなどについてお聞きしました。

人々に興味を持ってもらえるよう
星を見る楽しさを伝える

 藤井大地さんが勤務している平塚市博物館は、「相模川流域の自然と文化」をテーマにした地域博物館。考古・民俗・歴史・地質・天文・生物の6分野で展示を行っています。各分野には1~2名の学芸員が在籍し、天文分野には藤井さんともう1名の学芸員がいます。

 平塚市博物館の大きな特徴は「ワーキンググループ」と呼ばれる会員制のサークルが分野ごとにあり、会員である市民と学芸員が一緒になって調査・研究活動を行っていることです。そのうちの一つである「天体観察会」は、博物館の屋上などで天文現象を観察しながら、天体観察の基礎知識と技術を学ぶことが主な活動内容となっています。ほかにも、会員以外の人々も参加できる「星を見る会」や「こどもフェスタ」といった博物館の公式行事などがあり、学芸員はその運営にも携わります。さらに、博物館のホームページの更新や刊行物の執筆もありますが、日常は事務仕事も多いそうです。

 以上のような仕事に加え、数年に1度、特別展を担当します。企画から任される特別展は、各学芸員のアイデアと日ごろの研究の成果の見せどころ。自分でテーマを考え、展示物の準備と設営、解説文の執筆、配布するパンフレットの制作などを、責任を持って行います。藤井さんはこれまでに、「知られざる平塚のロケット開発」や「火球と隕石」などといった特別展を担当しました。

 3階にあるプラネタリウムでは、上映時に天文分野の学芸員が生解説を行います。「単に知識を与えるのではなく、興味を持って日常的に星を見上げてもらえるような解説を心がけています。また、イベントでは、子どもの好奇心に火をつけるような感動を与えることを大切にしています」と言う藤井さん。伝えることは学芸員の大切な仕事の一つですから、イベント後のアンケートなどでおもしろさが伝わったと実感できるコメントをもらうと、特にうれしくなるそうです。

博物館の中庭にある太陽観測用ドームの中で、黒点をスケッチ。望遠鏡のレンズを通った太陽の光を紙に当て、黒点を描き取ります。平塚市博物館では、伝統的なこの方法で、黒点の記録を取り続けているそうです 市民と一緒に研究する「ワーキンググループ」の様子 昨年の春、博物館1階の特別展示室で実施された特別展「火球と隕石」

市民と一緒に行う流星観測
研究活動は学芸員の大切な仕事

 仕事の合間を縫って藤井さんが行っているのが、流星観測です。博物館の屋上、平塚市の自宅、富士市の実家の3か所に観測拠点を設け、高感度ビデオカメラなどの装置を設置して、はるか上空の観測視野を撮影。その映像をパソコンに取り込み、さまざまなソフトを使って流星の動きを記録したり、軌道を解析したりするそうです。前出のワーキンググループ「天体観察会」のなかには「流星分科会」がありますが、そのメンバーもこの流星観測に参加しています。

 「流星の観測に大きな天体望遠鏡はいりません。小さなカメラでいろいろな地点から撮る必要があるため、プロの天文学者が1人で行うより、市民の皆さんに協力してもらうほうが得られる知見は多いのです」と藤井さん。以上のような仕事と研究を通じ、藤井さんは学芸員として、一般の人々への天文知識の普及と市民科学の発展に貢献しているのです。

昨年は自宅に設置しているカメラで「火球」と呼ばれる火の玉のような流星を撮影。その映像をSNSに投稿すると、全国ニュースでも取り上げられて話題になりました

中学生時代に見た「しし座流星群」
衝撃を受けて天文好きに

平塚市博物館に
行ってみよう!

 「星のひろば」をテーマにした3階展示室には、天文・宇宙に関する展示とプラネタリウムがあります。平日は幼稚園生向けの幼児投影と、太陽や星の動きを学ぶ小学生向けの学習投影を実施していますが、土日は市民向けの一般投影を1日2~3回実施。その前半は当日見える星を中心とした学芸員の生解説で、後半は最新の天文学や宇宙開発に関する手作りの番組となります。

プラネタリウムで生解説をする藤井大地さん。短編集『されど星は流れる』に収録された同名の作品(宮西建礼・作)には、そんな藤井さんがモデルとなった学芸員が登場します

 子どものころから工作が大好きだったという藤井さん。自宅に設置している観測装置も、カメラやセンサーを組み合わせて自作したものです。幼少期にはNHKで放送された人形劇「サンダーバード」を見て、ロケット機に乗り、人命救助に奔走するヒーローたちにあこがれたそうです。そんな藤井少年の天文好きに火がついたのは、中学生のとき。降り注ぐような「しし座流星群」に衝撃を受け、流星に興味を持つようになりました。

 高校では物理部に所属し、人の背丈ほどもある火薬ロケットを作って打ち上げるなど、もの作りのおもしろさを学んだといいます。「将来は探査機の設計に携わりたい」と考え、大学では工学部の電気電子工学科でカメラの研究をしていました。しかし、「自分には天文の魅力を伝える仕事のほうが向いている」という思いが強まり、学芸員の資格と教員免許を取得するため大阪教育大学大学院に進学。教員免許を取得しようと思ったのは、学芸員の募集が少ないためです。「もしなれなかった場合は、教師になるつもりでしたが、タイミングよく平塚市博物館で天文の学芸員の募集がありました」と藤井さんは振り返ります。

 最後に、「小学生の皆さんは、いろいろなことにチャレンジし、興味を持ったことは極めてください」と、藤井さんは言います。「知識を得るだけでなく、知識を使って自分の頭で考え、何かを獲得するようなことをやってみるのが大切。そうやって身につけた考える力は、一生ものの財産です」

平塚市博物館に
行ってみよう!

 「星のひろば」をテーマにした3階展示室には、天文・宇宙に関する展示とプラネタリウムがあります。平日は幼稚園生向けの幼児投影と、太陽や星の動きを学ぶ小学生向けの学習投影を実施していますが、土日は市民向けの一般投影を1日2~3回実施。その前半は当日見える星を中心とした学芸員の生解説で、後半は最新の天文学や宇宙開発に関する手作りの番組となります。

プラネタリウムで生解説をする藤井大地さん。短編集『されど星は流れる』に収録された同名の作品(宮西建礼・作)には、そんな藤井さんがモデルとなった学芸員が登場します

「第63回 学芸員」:
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