受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

13.11月号 子育てインタビュー目次:
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子どもの可能性を広げるグローバル教育

小松 俊明さん

(こまつ としあき)●1967年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、住友商事入社、鋼管貿易を担当。1995年に退社し、マレーシアで情報誌を創刊。2001年帰国、外資コンサルティング会社で管理職採用を担当。2008年二度目の独立。以来、厚生労働省法定講習講師、国立大学法人東京海洋大学にて産学連携推進を担当している。日本グローバル人材育成研究会の代表幹事。著書に『デキる部下は報告しない』(あさ出版)ほか、人材育成やキャリアに関する著書多数。

世界で通用する人材の育成は生活のなかでの異文化体験から

教育界と産業界をつなぐグローバルキャリア教育を実践

―東京海洋大学では、どのような教育活動に携わっていらっしゃるのですか。
小松 わたしは長い間、産業界でグローバル企業の採用や研修、人材育成などをお手伝いする仕事をしてきました。その経験を生かし、2012年から東京海洋大学の特任教授として産学連携推進を担当し、グローバルキャリア教育に取り組んでいます。ビジネス界出身者として、産業界が要請するグローバル人材と、大学が実践しようとしているグローバル人材育成のギャップを埋める活動を行っています。教育界と産業界の橋渡し役をやっているわけです。

 大学ではふだん、「グローバルキャリア入門」という講座を受け持っています。この講座では、毎回さまざまな国籍を持つ、多様な分野のゲストをお招きして、話をしてもらっています。学生にこれまで体験したことがないような話に触れさせ、「聞く力」をマスターさせることが狙いです。

 また、講義の後半では、質疑応答の時間を設けて、「話す力」を養うトレーニングも行っています。日本の学生は与えられた情報をインプットするのは得意ですが、それを自分のなかで咀嚼してアウトプットするのは苦手なようです。発言するということは、自分の疑問を解決すると同時に、その場にいるほかの仲間たちに新しい視点を与え、それぞれの考えを深めることにもつながります。また、こうしたアウトプットのトレーニングは、リーダーシップを育成するうえでも非常に有効です。

―そのほかに、海外研修も実施されているそうですね。
小松 はい。「海外派遣キャリア演習」というオリジナルプログラムを実施しています。これは、実際に何度も海外の大学や企業を訪問し、学生の訪問や受け入れをお願いした末に作り上げた、かなりユニークな実習で、学内で学生を選抜し、東南アジアに約1か月間派遣します。プログラムの内容は、わたしのビジネス体験を踏まえて作成しています。たとえば今年の夏は、学生たちは現地の自動車部品工場で働いたり、化粧品会社の研究開発部門でマーケティングや商品企画を体験させてもらったりしました。

 学生たちは当初、「自分の専攻分野と違うことをして、何の意味があるのか」と不満げでしたが、グローバル企業での品質管理工程や意思決定プロセスを体験するのは重要なことです。何よりも、現地の人に囲まれて働くことは異文化体験のまたとない機会となり、将来の大きな財産になります。研修を進めるうちに学生たちも「専門外の分野を理解すること、一緒に協働できる力を身につけることは、これから自分たちがグローバル社会を生き抜くときの原動力になる」と理解してくれたようです。学生のために協力してくださった現地の企業や政府機関、大学の関係者、そして日本企業の駐在員の方々には深く感謝しています。

評価が低い日本のビジネスマン
自分の意思を正しく伝える訓練を

―グローバル教育といえば、語学力のマスターに重点が置かれがちですが、小松先生が実践されているプログラムでは、広い意味でのコミュニケーション能力が重視されているようですね。

小松 そのとおりです。今、国際的なビジネスの場、たとえばグローバル企業などで重視されているのは、コミュニケーション能力とリーダーシップです。

 日本では調整力や協調性を重んじ、コミュニケーション能力をいわば周りの仲間と和気あいあいとやっていく力のようにとらえがちです。しかし、グローバル時代に求められるコミュニケーション能力とはそういうものではなく、異質なもの同士の橋渡しをする力、あるいは、影響力のあるメッセージ性の強い情報を発信して人を動かすことができる力のことです。そうした力を持った人のなかには、たとえば、アップル社の共同創立者の一人、故スティーブ・ジョブズ氏がいます。

 一方、リーダーシップとは、同じ環境にいる仲間や問題を抱えた人など、自分以外の人の力をコーチングなどの技術を使って引き出せる能力のことをいいます。日本でリーダーシップといえば「トップダウン」を連想しがちですが、どちらかというと「ボトムアップ」のイメージに近く、みんなの力を引き出し、向上させていく能力を指します。

―そうした能力が日本人には欠けているということでしょうか。

小松 海外では一般的に、日本人は「親切でマナーが良い」と評価されていますが、ビジネスの世界では必ずしも「有能だ」とは思われていません。それどころか、むしろ過小評価されているきらいがあります。なぜかというと、会議などに出席しても、日本人はあまり発言しないからです。だから、日本人の存在がどんどん小さくなっています。シンガポールには多くのグローバル企業が集まり、欧米人や中国人はもちろん、優秀な台湾人や韓国人などが働いていて、重要な議題の決定がされています。ところが残念なことに、日本人はそうしたグローバル企業の海外赴任地の場に、ほとんどいないのです。実際に存在しないから仕方なく、欧米人が台湾人や韓国人に「日本市場をどうしたらいい?」と聞いたりしているのです。グローバル企業では、意思決定に加われない人を有能だとは見なしませんから、日本人にとってはなかなか厳しい状況が続いています。

 日本のビジネスマンはもちろん、大学生などのなかにも、「外国人と比べて日本人は勤勉で、かつ実務能力が高いから優秀である」と思っている人が少なくないようですが、勤勉で実務能力が高いのは日本人だけの特性ではありません。それに、単に勤勉で実務能力が高ければリーダーになれるというわけでもありません。

 ただ、日本人にはもともと海外の良いところを積極的に取り入れる柔軟性があります。ちょっとした訓練で、グローバル化時代に対応できるマインドやスキルを磨くことができると思います。

13.11月号 子育てインタビュー目次:
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