受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

15.5月号 子育てインタビュー目次:
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電子情報通信工学のトップ研究者が説く〝IT時代の子育て論〟

「いつの時代でも強いのは
好きなことを掘り下げ、究めた人

髙宮 現在、竹内先生は中央大学理工学部の教授として、次世代メモリの開発研究を行いながら、「Tの字の横棒のように視野が広く、しかも、特定分野についても奥行きの深い、“T字型人間”の育成」というモットーを掲げていらっしゃいます。やはり、これからは幅広い教養とともに、専門分野を持つことが大事なのでしょうか。

竹内 最終的に「T字型人間」をめざしてほしいのは確かなのですが、大事なのはコアとなる強み、Tの字の縦棒に当たる部分をしっかりと育てておくことです。単に広く横棒部分を広げても、それは、たとえばグーグルで検索できる程度の知識でしかありません。若いときしかできないこと、自分のコアとなるもの、理系ならば技術をまずは追究してほしいと思います。

髙宮 これから若者がコアとして何を身につけていけばよいのか、悩むところですね。今は理系人気とはいえ、メーカーの状況を見て、「どうも工学系で夢を見ることは難しそうだな、ならば医学部に…」という風潮があるようです。

竹内 将来は誰にもわかりませんが、かつては安泰な職業と思われていた弁護士やメーカーの技術者がいま苦労しているように、医師も「今後、ずっと安泰である」とは言い切れないでしょうね。参入障壁となっている規制が緩和されたり、ITの発達で医療のコストが安くなったりしていけば、どうなるかわかりません。

 ただ、一つ言えるのは、技術者にせよ法律家にせよ、何かを追究して究めた人は、たとえその分野がだめになっても、活路が開けるということです。好きなものを掘り下げて、ある分野で一流になった人は、ほかの分野への転用が効くのです。ですから、「今はこの分野が人気だから」といったことだけではなく、「自分が何を好きで、何を強みに社会で活躍していきたいのか」ということを、子どものうちからじっくり考えていってほしいと思います。

効率良く問題を解くだけでなく
「立ち止まって考える力」を身につけて

髙宮 先生はご自身も、お子さまも中学受験を経験されたと伺っています。また、大学ではさまざまな学生と接していらっしゃいます。そうした経験を踏まえて、〝受験〟というものをどのようにお考えですか。

竹内 大学入試や中学入試のために、ある時期にたくさんの問題を処理する訓練をすることは、けっして悪いことだとは思いません。むしろ、AO入試などを経て大学に入学してきた学生のなかには、プレゼンテーション能力は高いが、必要最低限の基礎知識や処理能力が抜け落ちている人もいて、心配になることもある…という思いを、多くの大学教員が抱いているのではないでしょうか。

髙宮 ところが、今の小学生が大学入試に臨むころには、入試の在り方も変わり、ペーパーテストだけを行うのではなく、さまざまな能力を多角的に評価することが検討されています。

竹内 入試制度や人材採用を決めるのは、わたしたちの同年代以上の「おじさん」世代の人たちでしょう。そういう方たちは、自分たちが必ずしもコミュニケーション能力が十分でなかった、もっと多様な経験をしたかったと感じられているからでしょうか、AO入試で上手にプレゼンをするような若者を好む傾向があるように感じます。これは企業が大学生を採用する時でも同様です。自分が足りなかったこと、自分が受けたかった教育を若い世代に受けさせたい、というのは必ずしも間違ったことではないでしょう。しかし、現実の若い世代はすでに変わってきています。いま心配するべきことはむしろ、おろそかにされつつある基礎の訓練を行うこと、もともと日本人が強みとしていた個々人の優秀さ、勤勉さを取り戻すことだと、一人の親として感じています。

髙宮 グローバル化する社会を見据え、わが子にコミュニケーション能力や語学力をつけなければ、と焦っていらっしゃる保護者の方も多いようです。

竹内 繰り返しになりますが、コミュニケーション能力や語学力よりも、コアとなる得意分野を究めることが先決です。しっかりとした技術力、伝えるべきコンテンツがあれば、英語が下手でも、相手は必死で理解しようとしてくれます。自分に伝えたい内容があれば、語学力は後からついてきますし、コミュニケーション能力もおのずと養われるものです。

髙宮 不確実な時代に向けて、受験生に心がけてほしいことはありますか。

竹内 時間内に効率良く問題を解いていく訓練も大事ですが、それと同時に、物事を深く掘り下げて考えることも忘れないでください。特に中学受験は短時間に答えを出す必要があり、算数でさえも解法パターンの暗記になりがちです。入試であれだけ難しい問題を短時間に解くには仕方がない、必要悪のような側面もあります。ただ、それだけでは社会に出てから困ります。そもそも解法があることさえもわからないのが現実で、すでに知られた解法を疑い、自分で生み出すことさえも必要とされます。つまり、効率が重視されがちな受験とは真逆のことが求められることも多いのです。せめて受験が終わったら、常識と思われていることを鵜呑みにするのではなく、時には親子で一緒に立ち止り、一つのテーマを掘り下げて考える習慣をつけてはいかがでしょうか。

 こうした、目の前の課題をこなしながら、時に深く考えるという習慣は、たとえば研究者になってからも役に立ちます。研究者というものは、自分がやりたい研究だけをさせてもらえるわけではありません。予算を獲得するためにプロポーザル(企画書)を書いたり、企業から研究資金を集める「営業活動」を行ったりすることも必要です。そうした、実社会と折り合いをつけるような仕事をこなしながらも、自分が本当にやりたい仕事、先が見えず、リスクが高い仕事をどうやって進めていくか。多くの問題を処理するのと同時に、深く掘り下げていく姿勢が求められるのです。

髙宮 サピックスの授業で、仲間と討論しながら、みずから鉛筆を動かして頭を使う。それによって、受験に必要な知識と同時に、「立ち止まって考える」力も身につけてくれればと思います。本日はたいへん有意義なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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 世界最先端の技術を持ちながら、会社の「お荷物」状態だった東芝のフラッシュメモリ事業。著者は、その開発に携わり、やがては世界シェア40%という主力事業にまで成長させる技術を確立しました。その後、米国でMBAを取得し、技術開発と経営という二つの側面から、世界を舞台に各国の企業と渡り合うようになります。そんなフラッシュメモリ研究の第一人者が語る仕事論は、グローバル化が進む社会に、どのように立ち向かっていったらよいのかというヒントになります。

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