受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

16.11月号 子育てインタビュー目次:
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『教育社会学者が説く「学びの効用」

濱中 淳子さん

(はまなか じゅんこ)●独立行政法人大学入試センター 研究開発部 教授。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。東京大学基礎学力研究開発センター特任研究員、(株)リクルートワークス研究所研究員などを経て、2016年から現職。博士(教育学)。教育社会学、高等教育論を専門とし、アンケートやインタビューなど社会調査を駆使した分析を行っている。著書に、『大衆化する大学─学生の多様化をどうみるか』(岩波書店)、『「超」進学校 開成・灘の卒業生─その教育は仕事に活きるか』(ちくま書房)、『検証・学歴の効用』(勁草書房)などがある。

いざというときに、
学びの「アクセル」を踏み込めるか?

髙宮 濱中先生は、『「超」進学校 開成・灘の卒業生』や『検証・学歴の効用』といった著作を通じて、学歴や学びの意義を世に問うていらっしゃいますね。

濱中 わたしは、教育に対する日本人の「まなざし」に強い関心を抱いています。日本人には、どうも教育というものを斜に構えて眺める傾向があるようです。偏差値や学歴に強い関心があるのに「学歴がすべてではない」と批判したり、「大学に進学したって意味がない、それよりも手に職をつけるべき」などと言ってみたりします。なぜ、こんな屈折したまなざしになってしまったかといえば、教育界がこれまできちんとしたエビデンス(因果関係を証明する科学的根拠)を出してこなかったことにも一因があるでしょう。また、識者といわれる人たちが、今まで教育や学びの重要性をきちんと発信してこなかったという問題もあると思います。

 わたしは、教育はとても大切なものだと考えています。ですから、教育の実態や重要性を、エビデンスを示しつつ、発信していきたいという思いから、この2冊を上梓しました。

髙宮 学歴や学問には、学校で学んだことが将来生きてくるということと、それを身につけるためにがんばって努力することで得られるものがあるという、二つの意義があると思います。このうち、学校で学んだものについては、社会でさほど役に立たないのではないかという評価があるようですが、どのようにお考えですか。

濱中 社会が急激に様変わりするなかで、どういう力が求められるのか、未来を担う子どもたちに学校で何を学ばせるべきか、という問い掛けをよく耳にします。しかし、わたしは、「未来がこうなるから」というような話の持っていき方には違和感を覚えています。未来というのは、わたしたちが想像だにできないような要素がいろいろ絡まり合って決まっていくものです。ですから、「これからの社会で何が必要とされるのか」ということは、誰にもわかりません。「社会で役立つものを学ばせたい」という大人たちの気持ちはわかるのですが、あまりそれにこだわり過ぎないほうがよいと思います。

 急激に変化する社会のなかで、あえて一つ大事な能力を挙げるとすれば、それは「学ぶ力」そのものだと思います。そして、いざというときに「アクセル」を踏む力です。「今やらなければならない、今こそ学びどきだ」と判断したら、ぐっとアクセルを踏み、為すべきことをやり遂げられるかどうか。それがとても大事なことだと思います。

 そして、いざというときにアクセルを踏んで学べるようになるには、日ごろから少しずつでも学びを継続することが重要です。大学入試センターの調査でもわかっていることなのですが、高校3年生になってアクセルを踏める生徒というのは、高校前半からこつこつ勉強を続けています。一日30分でもよいから、勉強を続けることが大切なのです。

開成や灘など、名門校の強みは
学びの「感染動機」が強くはたらくこと

髙宮 敏郎(たかみや としろう)
●SAPIX YOZEMI GROUP共同代表(代々木ゼミナール副理事長)。 1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。2000年学校法人髙宮学園入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学して大学経営学を学び、2005年に教育博士号を取得。2009年より現職。

髙宮 平時からこつこつ学び続けるのは、簡単なようで難しいことです。

濱中 そのとおりだと思います。特に今は、ほかに楽しいことがたくさんありますからね。では、どうすれば学ぶ動機ができるのでしょうか。そのヒントとなる考えが、社会学者の宮台真司先生の著作にありました。

 宮台先生によると、学習動機の整理の仕方には三つあるといいます。一つは「競争動機」です。競争に勝つ喜びですね。二つ目は「理解動機」で、わかる喜び。この二つについては、ご存じの方も多いことでしょう。しかし、実はもう一つ、大切な動機があるというのです。それが「感染動機」です。偉大な先輩や尊敬できる同級生に接して、「自分もこういうすごい人になってみたい」とあこがれる。こうした感染動機が、学びのエネルギーとしてはいちばん強いと述べています。

 というのも、競争動機は勝った瞬間に、理解動機は理解した瞬間に満たされますよね。一方、感染動機は長期間継続するうえに内発的です。ですから、本人にとっていちばん意味があって深く影響します。「血となり肉となるのは感染動機だ」と宮台先生はおっしゃっているわけです。

髙宮 そのお話はそのまま、先生の開成・灘の研究につながりますね。

濱中 開成・灘という学校は、入学時の偏差値や出口の進学実績が高いという、表面的な数字の部分で評価されています。わたしは、そうした強みの深層を理解したいと考え、卒業生にアンケート調査を実施したり、その自由記述を読み込んだり、実際に学校行事にも顔を出したりしました。その際、こうした学校は「感染動機がとても強くはたらく場なのだな」と感心したのです。

 個性的で、有能な生徒が集まることはもちろんですが、開成や灘のような中高一貫校には中1生から高3生までがいます。それがやはり大きな強みです。ついこの前までランドセルを背負っていた中学1年生と、声も体つきもすっかり大人の高校生が一緒になって、行事に取り組みますよね。そして、その中1生たちが高3の先輩にあこがれて、「あんなふうになりたい」「ああなるためには、どうすればいいのだろう」と刺激を受けるわけです。そういった感染動機が得られやすい環境という意味で、開成や灘はもちろん、中高一貫校というのはとても魅力的な場なのだと思いました。

 さらに、開成・灘の特徴として、卒業後も同窓生の人脈を生かして活躍する人が多いことが挙げられます。先輩・後輩の関係がずっと続いていて、何十歳も年が離れていても、「おお、開成の出身か」と親しい関係が成立する世界です。在学中も、卒業後も、お互いに刺激し合って、さらに成長し続けていくわけです。卒業後もつながっていきたいと思えるような関係性ができているというのは、すばらしいことだと思います。そういうところが名門校の強みなのでしょう。

16.11月号 子育てインタビュー目次:
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