受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

17.1月号 子育てインタビュー目次:
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心理学者・筑波大附高の校長が説く「IQ」の意義

大川 一郎さん

(おおかわ いちろう)筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達科学専攻教授。筑波大学附属高校校長を兼任。博士(心理学)、臨床心理士。立命館大学教授を経て、現職。学会活動として、日本カウンセリング学会常任理事、日本教育心理学会監事、日本老年行動科学会会長などを務める。著書に「田中ビネー知能検査Ⅴ」(共著・田研出版)、「高齢者のこころとからだ事典」(編集代表・中央法規)など多数。

テストは万能ではない!
数字だけにこだわるのは禁物

知能の状態を客観的に把握するための
「ものさし」として開発されたIQ

髙宮 大川先生は、生涯発達心理学の研究者として、「田中ビネー知能検査」の改訂にかかわっていらっしゃいました。そもそも、知能検査とは何のために開発されたものなのでしょうか。

大川 世界で初めて知能検査が誕生したのは、今から100年以上前のことです。フランスのアルフレッド・ビネーとテオドール・シモンが、学校教育についていけない子どものために共同開発しました。「この子は知能が欠けている」と一刀両断するのではなく、その状態を客観的に把握し、原因や対処法を探ることが必要だと判断したのです。そして、その知能の状態を正確に把握するためには、「ものさし」が必要だと考えました。ベテラン教師の勘に頼るのではなく、妥当性と信頼性のある、客観的な指標を求めたのです。

 ビネー式知能検査では、知能の評価のために「精神年齢」という概念を用います。まず、たくさんの同年齢の子どもたちに問題を解かせます。そして、一定割合の子どもが正答できる問題を、その年齢の知的水準を測定できる問題として採用し、これを被験者に解かせて、正答できるかどうかで、被験者の精神年齢を測るのです。たとえば、生活年齢(実際の年齢)8歳の子どもが、13歳の子どもが普通に解ける問題を解いた場合は、その子の精神年齢は13歳であるとします。そして、その精神年齢と生活年齢の比を基準として表現したものがIQというわけです。

 検査の問題は、図形や語彙に関するものもありますが、生活や作業の様子を描いた絵を見せて、「おかしなところはありますか」と聞くといったものもあります。

髙宮 生活の様子などは国によって違いますから、同じ絵を見ても、国によって結果が変わりますね。

大川 そうです。ですから、ものさしを作るために問題を解いてもらう子どもも、そのものさしを使って検査を実施する対象の子どもも、同じ教育文化圏に属している必要があります。そして、日本の子どものために生まれたのが、ビネー式検査を改良した田中ビネー知能検査なのです。

 また、同じ教育文化圏でも、生活様式は時代とともに変わりますから、検査の内容も変えていかなくてはなりません。田中ビネー知能検査についても、1947年の導入から今までに4回改訂されてきました。そのたびに、ものさしの基本となる子どもたちのデータが数多く必要になりますから、1回の改訂ごとに、必要なデータを取り、標準化作業を終えるまでに5〜6年はかかります。わたしは大学院生のころから現在まで、その改訂にかかわってきました。

髙宮 生活様式の変化といえば、デジタル機器の普及にはめざましいものがあります。今後、知能検査そのものが変わる可能性はあるのでしょうか。

大川 知能検査の位置づけや大枠は変わらないと思います。ただ、生活のなかでデジタル機器を使いこなすことは求められるようになるでしょうから、設問に何らかの変化はあるかもしれません。それは知能検査に限ったことではないでしょう。インターネットの登場で、記憶重視の試験の意義は薄れつつあります。懸案となっている大学入試改革も、それを反映している面があると思います。

数字は一つの判断材料
テストで測定できるものには限りがある

髙宮 敏郎(たかみや としろう)
SAPIX YOZEMI GROUP共同代表(代々木ゼミナール副理事長)。1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。2000年学校法人髙宮学園入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学して大学経営学を学び、2005年に教育学博士号を取得。2009年より現職。

髙宮 わが子が知能検査を受けた場合、その結果をどのように受け止めたらよいのでしょうか。

大川 知能検査ではIQという数字が出ますが、その数字だけに着目して、「知能指数が高かったから、優れている」「低かったから、劣っている」と一喜一憂するのは禁物です。本来、知能検査は、検査する人とされる人がじっくり向き合って 40〜50分かけて実施し、その際の受け答えや態度なども含めて多面的、総合的に結果を判断し、その子に対する処方箋を考えるものなのです。IQという数字は、そのなかの一つの判断材料にすぎません。

髙宮 子育てをしていると、わかりやすい数字につい目が向きがちです。受験においても、サピックス・代ゼミグループとしては「偏差値だけでなく、校風なども含めて総合的に志望校を判断してください」と訴えているのですが、どうしても偏差値のインパクトは強いようです。

 模試などのテストにおいても、悪い結果が出たらただ落ち込むのではなく、どこが悪いのか、その原因は何か、探ってほしいと考えています。

大川 もう一つ知っておいていただきたいのが、知能検査をはじめとする心理テストにはさまざまなものがあり、それぞれのテストで測れるものには限りがあるということです。

 人の心は多様で複雑であり、無意識的にはたらいている部分も膨大にあります。米国の心理学者ハワード・ガードナーは、人間の知能は多重なものであると唱え、その領域として、「言語的知能」「論理数学的知能」「音楽的知能」「身体運動的知能」「空間的知能」「対人的知能」「内省的知能」などを挙げています。

 田中ビネー知能検査で測定できるのは、このうち言語、論理数学、空間の3分野にとどまります。知能検査は万能ではないのですから、その結果だけで、被検者のすべてを評価しようとしてはいけません。

髙宮 定量的に分析するだけでなく、定性的に判断することも大切なのですね。大学入試改革でも、どのようなテストにすれば、その子の可能性を適切に評価できるのか、たいへん苦悩しているようです。

大川 どのようなテストであれ、測ることができるのは、その人のほんの一部でしかないのでしょうね。

髙宮 難関校の先生とお話していると、「この学校には偏りのある子が多い」という話題が出ることがあります。

大川 言語的知能、身体的知能、コミュニケーション能力など、分野によって得意・不得意に偏りがある子ども、いわゆる発達障害の子どもは、どのIQの層にも存在します。

 これまでは、IQの低い子どもが主に特別支援の対象となってきましたが、こうした発達障害の子どもに対する支援も注目されるようになってきました。それとともに知能検査など、心理テストの役割もさらに重要になってきています。テストを実施する側は、「できない」ことを見つけるというよりも、「この子はこんなことが得意」といった特徴や個性を保護者や本人に伝えつつ、そのうえで「どのような対処をすれば、よりよく生きていけるのか」ということを提案する姿勢を大事にするべきです。

17.1月号 子育てインタビュー目次:
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