受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

子育てインタビュー

17年9月号 子育てインタビュー目次:
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新しい学びのかたち「アグリアーツ」のすすめ

加藤 百合子さん

(かとう ゆりこ)アグリアーツ推進事務局局長。エムスクエア・ラボ代表取締役。1974年千葉県生まれ。東京大学農学部を経て、英国クランフィールド大学で修士号を取得し、米航空宇宙局(NASA)の植物工場プロジェクトに参画する。2000年に帰国、大手精密機械メーカーに入社。2001年、結婚を機に同社を退社し、静岡に移住。産業用機械の研究開発に7年ほど従事した後、2009年エムスクエア・ラボ(M2ラボ)を設立。青果流通を変える「ベジプロバイダー事業」で日本政策投資銀行第1回女性新ビジネスプランコンペティション大賞受賞。2016年より、菊川ジュニアビレッジの運営に携わる。

農業ビジネス体験を通して
協働しながら〝生き抜く力〟を学ぶ

単に農作物を栽培するだけでなく、
商品企画・販売までを一貫して体験

広野 本日、菊川ジュニアビレッジの活動を見学させていただきましたが、子どもたちの生き生きした様子や豊かな発想に驚かされました。まずは、ここがどのような学びの場なのか、あらためて教えてください。

加藤 ここでは、地元の小6〜中2の子どもたちが農作物の栽培から商品企画、販売まで、さまざまなステップを通して農業ビジネスを体験しています。また、夏休みなどの長期休暇の際は、首都圏在住の児童・生徒と保護者の方を受け入れ、一緒に農業体験をして地元の魅力を知ってもらう機会も設けています。

 発足してから今期で2年目なのですが、昨年の生徒たちは、自分たちが栽培したハーブと地元・菊川産の和紅茶をブレンドした『本気のハーブティー』や国産生ゴマ油を商品化し、市内のスーパーのほか、東京でも販売を行い、60万円以上を売り上げました。今期は継続組も含めて14人の子どもたちが参加しています。

サピックス小学部 教育情報センター部長 
広野 雅明

広野 今日は草刈りの後に、商品化・販売化に向けて子どもたちによる会議が行われていました。単なる「一日農業体験」とはまったく異なるプログラムですね。

加藤 農業は、ただ単に田畑で作物と向き合っていればよいというものではありません。自然科学の知識だけでなく、応用科学や人文科学の知識、人と交渉したり協力したりできるコミュニケーション能力、経営能力なども必要です。人々の食を支える大切な仕事であり、すべての社会機能を有する複雑な営みなのです。

 だからこそ、わたしたちは農業を通じてもっといろいろなことを学べるのではないかと考えました。すなわち、農業(アグリカルチャー)とリベラルアーツを合体させた「アグリアーツ」による人材育成です。

 「アグリアーツ」事業は、子どもたちが地域の人々や、地域の産業である農業と触れ合うことで世の中とつながり、これからの社会で生きるために必要な「生き抜く力」を研鑽する教育プログラムです。子どもたちには、このプログラムを通じて、自然と触れ合うだけでなく、コミュニケーション力や論理的思考力といったさまざまな力を育んでほしいと願っています。

本気でビジネスに取り組み、
チャレンジ精神や起業家精神を養う

広野 「アグリアーツ」事業を静岡県菊川市で始めることになったきっかけは何でしょうか。

加藤 農業が人材育成に適しているのではないかという考えはかねてから抱いていたのですが、その構想を具体化して、教育プログラムとして軌道に乗せるのは大変なことです。どうしたものかと悩んでいるとき、2016年から国による地方創生事業が始まることになりました。これは、都会と地方の格差を是正するために、地方の活性化を目的とした事業を支援しようというものです。そして、地元の農業支援事業を展開していたわたしどものところにも、菊川市から「地方創生事業の一環として、何かできないか」という打診があり、農業を通じた教育プログラムを実施することになったのです。

広野 「アグリアーツ」を菊川の地で展開する際に、なぜハーブティーを扱おうと考えたのでしょうか。

加藤 このあたりの特産品はお茶です。茶葉を使った商品を作れば、地元の方々の理解や協力を得られやすいと考えたからです。また、茶葉の価格は低迷していて、生産者は困っています。そこに何か工夫の余地、チャンスがありそうだという思いもありました。

広野 ブランド化して付加価値をつけようというわけですね。確かに、先ほど頂いたハーブティーは無糖でありながらまろやかな甘さがあり、やさしい香りで人気が出そうでした。子どもたちが企画・生産した商品とは、とても思えません。

 また、子どもたちの会議を聞いていると、「年間4000セットを販売目標にしよう」というような話が出てきて、驚きました。ワークショップの域を超えて、本格的な事業に取り組んでいるのですね。

加藤 子どもを子ども扱いしないことで、子どもが単に勉強させられる存在ではなく、社会貢献のできる存在になってほしいと考えています。日本の社会では今、会社勤めの人が増えて、みずから商業や農業、工場経営などに携わる家庭が減りつつあります。子どもたちは大人が働く姿を間近に見ることが難しくなってきました。このことが、日本で起業家がなかなか生まれない理由の一つではないかと考えています。わたしは、子どもたちにアグリアーツを通じてチャレンジ精神や起業家精神を身につけてほしいと考えているのです。

広野 それにしても、農業とビジネスを合体させた子ども向けの教育プログラムとは、非常に斬新なアイデアですね。これは、どなたが考えられたものなのでしょうか。

加藤 わたしたち、株式会社エムスクエア・ラボと、「アグリアーツ」事業のパートナーである「JTB旅いく推進室」の方たちが一緒になってつくり上げました。また、カリキュラム策定委員には、菊川市の教育関係の方にも加わっていただいています。

菊川ジュニアビレッジを訪ねて
農作業後は、みんなで“会議”を開催

 静岡県菊川市の茶畑が広がる地域に、菊川ジュニアビレッジはあります。6月24日(土)、ジュニアビレッジに集まったのは、7名の小・中学生たちです。朝礼の後は、ハーブ畑に移動して草刈り開始。スタッフの方々と一緒に、照りつける太陽の下、鎌をふるいます。植えてあるのは、レモンバーベナやバナナミントなどです。これを収穫して、地元特産の茶葉にブレンドしてハーブティーとして商品化し、販売まで行います。
 40分ほど作業したあとは、事務局に戻って“会議”の時間です。この日のテーマは、「すごろく(年間事業計画)作り」。9月下旬のハーブティーの販売スタートに向けて、いつまでに、何をしなくてはならないのか、みんなで話し合い、表に書き込んでいきます。
 子どもたちは、実際の企業のように社長・副社長・営業・企画広報・生産といった役割を分担していて、それぞれの役割の視点で、アイデアを出し合います。スタッフも時々ヒントを出しますが、決めるのは子どもたち自身。「販促用のポスターは、県内の芸術大学の学生に描いてもらおう」「イメージキャラクターの色は、次回までにそれぞれが考えることにしよう」などと、活発に発言する子どもたちの笑顔が印象的でした。

照りつける太陽の下での草刈り作業。栽培しているハーブがしっかり成長できるように、みんなで力を合わせて雑草を取り除きます


あれこれ意見を出し合った末に、1年間の事業計画が出来上がりました。「年間4000セット」の販売目標を達成するためには、さまざまな壁を乗り越えなければなりません


「振り返り」の時間では、今日一日の感想をノートに書き、それをみんなの前で発表します。こうした体験を通して、子どもたちは表現力やコミュニケーション能力など、さまざまな力を磨いていきます

17年9月号 子育てインタビュー目次:
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