「江川イズム」が着実に浸透
未来志向型教育には四つの要素
「本校の『未来志向型教育』は22世紀を見据えています。現在はその土壌づくりを進めているところです」と話すのは、森村学園中等部・高等部校長の江川昭夫先生です。江川先生が校長に着任したのは昨年4月のこと。今年でまだ2年目ですが、いわば「江川イズム」は着実に浸透しており、その成果は早くも東大・京大・東工大などの最難関国公立大学や海外大学への合格実績などに結実しつつあります。
同校は今、新たなステージに移行しようとしているさなかといえますが、それを推し進める原動力が未来志向型教育です。江川先生は未来志向型教育について、「『言語技術(ランゲージ・アーツ)』という船が、『外国語(英語)教育』と『課題解決(PBL)型授業』を推進力として、『ICT環境』を利用しながら確かな未来をめざすというものです」と説明します。
論理的・批判的・創造的な思考力を
言語技術で徹底的に培う
校長 江川 昭夫先生
江川先生の話を受け、「言語技術は本校の教育の根幹を成してきたもので、2012年に導入しました」と語るのは、教頭・入試広報部長の小澤宗夫先生です。「日本型のコミュニケーションスキルは、世界標準型のそれと乖離しているのではないか、という疑念を抱いたことが導入の出発点となりました」
同校では日本型と世界標準型のコミュニケーションスキルの違いについて次のようにとらえました。日本型は「その場の空気を読みながら、あうんの呼吸や聞き手との共感を重視しながら話を進め、結論は後回しになりがち」というもので、世界標準型は「結論を最初に述べ、その結論に向けて根拠や理由を説明しながら、論理的に自分の言いたいことを主張する」というものではないか、と。
教頭・入試広報部長 小澤 宗夫先生
「将来、世界で活躍しようと思ったら、世界標準型のコミュニケーションスキルを身につけることが不可欠です。欧米にはランゲージ・アーツという学びがあるのですが、これをベースにして母語教育を行い、論理的・批判的・創造的な思考力を徹底的に培って、その上に確かな英語力を乗せれば、日本型と世界標準型の両方の議論の方法論が身についたことになります。そして、時と場合に応じてスイッチを切り替え、二つのスキルを自在に扱えるようにすることを狙いました」(小澤先生)
同校では言語技術を学ぶためのプログラムを豊富に用意しているのですが、その代表的なものの一つが「問答ゲーム」です。これはたとえば「あなたは花火を見ることが好きですか」という問いに対し、「主題文+展開文+まとめ文」というパラグラフで答えるというもの。「わたしは花火が好き(嫌い)です。なぜなら××だからです。だから、わたしは花火が好き(嫌い)なのです」という流れで「型」を使って会話を進めるわけです。
「国際交流・多言語教育センター」を
新たに開設
●「未来志向型教育」の概念図
今年4月にはグローバル教育をより効果的に推進するための組織として、「国際交流・多言語教育センター」を開設しました。外国語(英語)教育についても、同校では独自のアプローチを見せています。
「本校では未来志向型教育の目標として『グローバル人財の育成』を掲げていますが、そのためにはフランス語・ドイツ語・中国語・韓国語など英語以外の言語にも目配りすることが必要です。さらに、世界各地からの帰国生もより積極的に受け入れていこうと考えています。そこで『多言語』と銘打ちました」(江川先生)
また、昨年は「海外大学進学協定校推薦入試制度」にも加盟したため、海外大学説明会を実施したり、オーストラリアの教育省の方を招いた留学説明会を行ったりしました。その影響もあり、昨春はゼロだった海外大学合格者が、今春は11名を数えました。そのなかには、「ザ・タイムズ・ハイアー・エデュケーション世界大学ランキング2020」(※)で18位にランクされるカナダのトロント大や34位のブリティッシュコロンビア大など、世界のトップ大学も含まれています(日本のトップは東京大で、36位タイ)。
森村市左衛門をロールモデルに
世界で活躍するための教育を
●「学習の上昇スパイラル」の概念図
未来志向型教育のもう一つの推進力である課題解決(PBL)型授業も、同校では言語技術をベースに取り組んでいます。
「この授業はいわゆるアクティブ・ラーニングや探究学習と同義ですが、答えのない問いに自分なりの答えを出すには、しっかりした思考力と論理的に話す世界標準型のコミュニケーションスキルを持つことが必要です。両方を併せ持つ生徒によって行われる、本校のこの授業は非常に活発に展開されています」(江川先生)
今年度、本校から3名の教員が「マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)」の認定を受けました
もちろん、すべての根底にあるICT環境も拡充の一途をたどっています。「マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)」に同校の教員3名が認定され、彼らを中心にデジタルシチズンシップの育成を進めています。この2学期からは中等部の全員が「2in1PC」を所有し、新たな学校生活がスタートしています。
「本校の創立者である森村市左衛門は、日米貿易の先駆者で、TOTOやノリタケカンパニーリミテドなどを立ち上げた起業家でもあります。わたしたちが育もうとしているグローバル人財の良きロールモデルといえます。将来は世界で活躍したい。そんな夢を持っている小学生はぜひ本校をめざしてください」と、江川先生は結びました。
※イギリスの新聞社タイムズが毎年秋に発行。