SDGsを切り口にテーマを選び
徐々に視野を広げていく
プレゼンテーション教育リーダー
鈴木 真也先生
大宮開成中学・高等学校が中高一貫校として新たなスタートを切ったのは、2005年のこと。以来、中高6年間の心身の成長に応じた教育を行ってきました。
そんな同校の教育の特徴といえるのが、中1~高2を対象とした「プレゼンテーション教育」。地球環境・食糧・貧困・安全保障など、さまざまな社会問題に対して、生徒一人ひとりが能動的に探究し、学年末にその成果を発表するという、大宮開成版“アクティブ・ラーニング”です。
中学でプレゼンテーション教育のリーダーを務める鈴木真也先生は、この教育の意義を次のように説明します。「グローバル化が急速に進み、多種多様な問題が山積する現代社会において、自分の意見をわかりやすく伝える、他者の意見を正しく理解するといったコミュニケーション能力の重要性は増すばかりです。本校では、社会で役立つ思考力・判断力・表現力・発信力・協働性を生徒に身につけてもらうために、この活動を最重要カリキュラムと位置づけています」
とはいえ、「興味のあるテーマを1年かけて探究しよう」と言われても、中学生になったばかりの生徒は戸惑うばかり。そこでプレゼンテーション教育では、探究テーマを設定する際の大枠があらかじめ決められています。中1は「身近な環境」、中2は「日本」、中3は「世界」、高1・2は「自由学術研究」。これを踏まえて、SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標から関連するものを選びます。
「たとえば、中1の大枠である『身近な環境』に、SDGsの『飢餓をゼロに』という目標を関連させて、スーパーやコンビニの食品廃棄問題を調べた生徒であれば、中2では日本のフードロス問題を、中3では世界の食糧問題をといったように、徐々に視野を広げながら、興味のある問題を追究していくことができるのです」(鈴木先生)
プレゼン発表をする代表生徒。スライドを交えながら、堂々と成果を伝えます
2月の開成文化週間では、代表に選ばれた生徒が、全校生徒の前で探究の成果を発表します
教科の枠を超えて
教員が一丸となってサポート
プレゼンテーション教育メンバー
奥野 太貴先生
プレゼンテーション教育には、中1~高2の5学年が毎年取り組みます。ただ、毎年2月の開成文化週間に探究成果をプレゼンするのは、中1~高1の4学年のみ。高2はプレゼンではなく、論文を書いて自己の探究活動を締めくくります。また探究活動は、中1~中2は基本的に4人程度のグループ単位で、中3~高2は個人で行います。
プレゼンテーション教育に長く携わり、今年度から高校生担当になった奥野太貴先生が、探究授業の流れを説明しました。「生徒たちは夏休み前までに探究テーマを決め、夏休み中はグループまたは個人で探究活動を進めます。具体的には、インターネットや図書館で調べ物をしたり、フィールドワークに出掛けたり、研究者にインタビューを行ったりします。昨年度はジェンダー問題に取り組むグループが、制服での男女の区別をなくしたという中学校にオンライン取材をしました。そうやって、秋ごろまでに探究内容とプレゼン資料をまとめ、10月の文化祭ではクラス単位で中間発表を行い、翌年2月のプレゼンまで、さらに探究内容を突き詰めていきます」
探究の取り組みでは、テーマ設定から具体的な調査・研究の進め方、プレゼン用スライドの見せ方や作成方法、発表する際の発声法や抑揚のつけ方まで、総合的な指導が行われます。さらに、各教科でも横断的にプレゼンテーション教育をサポートします。たとえば、中1の情報の授業では、プレゼンに使うアプリの使い方を集中的にレクチャーし、中3の公民の授業ではSDGsを詳しく解説します。奥野先生は、「日々の学習が、大学受験のためだけではなく、社会生活と結びついているということを少しでも体感してほしい。そんな思いを教員全員で共有しています」と、教科の枠を超えて学ぶ意義を語ります。
卒業生からも、「自分のテーマを探すうちに視野が広がり、進むべき進路が見つかった」などと、感謝の声が多く寄せられているそうです。
大宮開成の学びを支える
上級生から下級生へのバトン
生徒たちの目標は、1月に行われる模擬プレゼンです。ここで学年ごとにすべてのグループのプレゼンが行われ、「スライドの見やすさ」「声の聞きやすさ」などのチェックポイントをもとに、生徒間投票を実施します。最終的に、学年を代表するプレゼンを3~6本ずつ選出。2月の開成文化週間では、代表が全校生徒の前でもう一度発表します。
昨年度の発表では、鈴木先生は「私たちで笑い合える介護社会へ」、奥野先生は「世界の水不足を考える」のプレゼンが印象に残っていると言います。「中2の介護のプレゼンは、現状分析や問題提起など、自分たちの考えが整然とまとめられており、聞き応えがありました。その後、なんとプレゼンの評判を聞いた医師の方から連絡をいただき、介護問題に詳しい医師の方たちの前で、再度プレゼンすることになりました。生徒たちも感激しており、自分たちの学びが社会とつながっていることをまさに実感できたのではないでしょうか」(鈴木先生)
一方、中3の水不足に関するプレゼンでは、最後に全校生徒に向けて募金活動の呼び掛けが行われました。集まったお金は、衛生支援に取り組む国際NGOに寄付されたそうです。
最後に奥野先生は、プレゼンテーション教育による積み重ねが、同校の学びを支えると力強く語りました。「下級生は上級生のプレゼン発表を見て感心し、来年は自分ももっとがんばろうと思います。そうやって生徒たちのプレゼン能力は、上級生の後を追って年々成長し、17年間で大きな進歩を遂げました。この積み重ねが本校の伝統であり、大切な財産でもあると考えています」