端末の使用は「ほぼ自由」
生徒みずから活用方法を模索
国語科 廣瀬 由紀先生
数学科 酒井 一哉先生
立教池袋中学校・高等学校では、大学や社会で活躍する中核的人材を育てるため、2018年度から教育のICT化を推進しています。高校生には、1人1台、タブレットとしても使えるSurface Proを導入しているほか、校内全域に無線LANを完備。さらに、大型のプロジェクターを中高の全教室に設置するなど、最新鋭の機器を使った、双方向で、能動的な学習環境を実現しています。
「ICT化を進めるに当たって本校が重視したのは、生徒たちに、これらのツールを『積極的に使いたい』と思わせる環境づくりでした」と語るのは、ICT推進担当の酒井一哉先生(数学科)です。
中高生は、デジタル機器やインターネット環境が整った環境の中で育った〝デジタルネイティブ〟ですが、多くのことがスマートフォンでできるため、大学や会社でパソコンを使わなければならなくなった際に、タイピングや、ワードやエクセルなどのソフトウェアを使った作業に苦労するケースが少なくありません。そこで、同校ではそうしたソフトウェアの使い方をしっかり指導するため、生徒用端末にも高機能のノートパソコンを採用したのです。「校内では多少の利用制限を設けていますが、帰宅後の使い方はほぼ自由。生徒たちは、それぞれの目的に合わせたソフトを自分でインストールし、活用しています」
こうしたハードウェア、ソフトウェアを活用しての“ゴール”は、高3の秋に行われる「卒業研究論文」の発表です。この「卒業研究論文」は、いわば6年間の学習の集大成。興味のある分野からテーマを選び、仮説立て、調査・分析、プレゼンテーションまでを各自で行います。ワードを使って研究成果を文章にまとめ、グラフやデータをエクセルで作成。パワーポイントでスライドを作り、わかりやすいプレゼンを行う―。この一連の流れで、大学や社会でも通用する、実践的な情報スキルを身につけていくのです。
酒井先生は「簡単に動画を編集できるソフトや、ファイル共有に便利な機能など、最近は、われわれ教員が生徒から教えてもらうことが増えました」と笑いながらも、「生徒たちがみずから活用方法を模索してくれているのはとてもうれしい」と話します。
今年度より、中学1年生にもSurface Goを1人1台導入し、調べものや文書作成を行っています。将来的には、高校生と同様に、中学生全生徒1人1台の端末を導入する予定です。
休校期間中のオンライン授業も
充実のICT環境でスムーズに実現
こうした充実したICT環境は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う休校期間中にも、大きな強みを発揮しました。生徒たちは、端末はもちろんのこと、専用のプラットフォームを使ってファイルを送受信する経験があったため、「突然の休校措置によるオンライン授業にも、比較的スムーズに対応できたのではないか」と国語科の廣瀬由紀先生は振り返ります。
休校期間中、中学生は、各教科の教員が撮影した授業動画の視聴を中心に、高校生は、授業動画の視聴とリアルタイムで行われるライブ授業を織り交ぜながら、それぞれオンラインによる遠隔学習を進めました。廣瀬先生いわく、「戸惑いながら」のスタートとなったオンライン授業でしたが、始まって、教員がアップした動画は640本以上に。「教員たちのがんばりもあり、想像以上に充実したコンテンツがそろいました。早くからICT化を進めてきたことで、教員たちに一定程度のスキルが備わっていたことも大きかった」と、酒井先生は振り返ります。
生徒一人ひとりがみずから情報を編集、発信する力を育てたいという願いから、高校では、Surface Proを導入しています
後日、生徒を対象にしたアンケートでも、オンライン授業の評価は非常に高く、対面授業に劣らない水準で、自宅学習が行われていたことがわかりました。特に授業動画の配信には、対面授業では難しい「見たいところを繰り返し再生できる」というメリットがあり、酒井先生は「それぞれの理解度に合わせた視聴ができるので、生徒たちはより効率的に学習を進められたのではないか」と、確かな手応えを感じています。
登校再開後は、新たな授業動画の配信は終了したものの、休校期間中にアップロードした動画を授業で使うこともあります。また、復習の際に動画を見返す生徒も多いのだとか。今後は、対面で行う通常授業も録画し、生徒の好きなときに視聴できる環境を提供するなど、今回の経験で得られたノウハウの継続的な活用を考えています。
キャリア教育にもオンラインを活用
遠方企業へのインタビューも容易に
同校では、高1生を対象に、通常の授業を1週間行わず、特別プログラムと称して、「キャリア学習」を実施しています。そこでは、グループに分かれて興味のある職業に就く社会人にアポイントを取り、生徒が職場を訪問するか、社会人の方に学校に来てもらうかのいずれかの方法で「職業インタビュー」を行います。そして、インタビュー後は、伺った話をもとに全体発表のためのプレゼン資料を作成。その発表準備の過程も、一人ひとりがパソコンを所持しているため、レイアウト担当・文章担当・プレゼンテーション担当など、それぞれの得意分野を生かしながら作業を分担して進めていくことができます。このプログラムは10年以上の歴史がありますが、作業効率はもちろん、アウトプットの質も年々向上しています。
また、昨年度はコロナの影響もあり、オンライン上でインタビューを行いました。「オンライン上であれば、場所や時間の拘束が少ないため、これまでのやり方では、話を聞くのが難しかった遠方の企業の方にも話を聞けたり、違う部署の方々をつないで、複数の方から同時にお話を聞いたりすることができます」と廣瀬先生。人と直接会うのが難しい状況下でも、生徒たちは「オンラインだからこそできること」を模索しました。
部活動においても、文化部を中心に、オンライン上で他校と合同発表会を行うなど、ICTを利用した試みが活発に行われています。「生徒が自由にICT環境を利用できることによって、学習面に限らず、コミュニケーション全体の幅が広がっていることを実感している」と話す酒井先生ですが、その一方で、「このコロナ禍で、クラスの雰囲気づくりや、教員と生徒の信頼関係の構築など、これまで対面で当たり前にやってきたことが、どれだけ学校教育に必要不可欠だったかを痛感させられる場面も多かった」と、対面教育の重要性について再確認したと言います。そのうえで、「本校の教育目標である『共に生きる』の精神を、どのような形でICTと組み合わせていけるかが今後の課題だと思っています。対面とオンラインの良いところを掛け合わせながら、さらに質の高い教育を展開させていきたい」と結びました。